谷亮子参議院議員が引退を発表した。と言っても議員を辞めるのではない。議員生活と両立させると言っていた柔道競技の第一線から退くということだ。私が読んでいる新聞の16日付朝刊の第一面の中央には「ヤワラ決意の幕」という大見出しで、これも大きな写真で報じたし、スポーツ面では賞賛の談話があふれ、社会面でも写真入りで賑やかに報じている。前日の夕刊でもトップで大きく「谷議員 柔道引退へ」と大ニュース扱いだ。
ここで言うまでもなく、確かに彼女は女子柔道会の傑物だ(だった)。しかし最近は議員生活がどれほど多忙だったのかは知らないが、柔道の練習からは遠ざかっていたようで、9月17日には全日本柔道連盟の強化委員会が強化指定ランクを最上位の「ナショナル」から「シニア」に一段階格下げしたことで国際大会への出場が大幅に制限されることになっていた。若手の台頭が著しい中で35歳という年齢ではしょせん第一線にいることが無理だったのだ。
前の参議院選挙で民主党の小沢一郎氏の引き立てで立候補した時は、「あの小沢の」ということもあって顔を顰める思いがした。かねてからタレントやスポーツ選手がぞろぞろ選挙に立候補することには、その政党の安易なあり方も含めてかなりの不快違和感を持っていたので、「谷亮子よ、あんたもか」と思った。知名度から言えば最高なのだろうが、政治家としての資質はまったくの未知数なのに、立候補を表明するなり当選確実などと言われ、ますます嫌になった。それに本人は立候補に当たって子育てをしながら議員活動をし、2012年のロンドン五輪出場を目指すと言ったのには、冗談かと思ったくらいだ。オリンピックを目指すなら政治家などを目指すべきでないし,そもそも議員活動というものを甘く見ている。この発言は私の周辺でもひどく不評で、中には「バカじゃないか」という酷評もあった。
選挙活動の最終日には富士登山をするパフォーマンスで体力的にはタフであることを誇示したりしたが、そんなことをするのも絶対当選すると本人も周囲も思っていたからだろう。そして予想通り当選した。彼女の当選をもって、日本の一部の有権者の程度の低さがネットであげつらわれたりもしたが、勝てば官軍だ。当選以後は選挙中と同じように「小沢ガールス」の一員として小沢氏に対する忠実振りを見せていたが、党内ではスポーツ議員連盟の会長に就任した。これも新人としては破格の扱いだろうが、それほどの力量のある人物なのか。それとも民主党のスポーツ議員連盟とやらには適任者がいないのか。まさかこれも小沢議員の押しではあるまいだろうが。
辛口評論で知られた消しゴム版画家で故人のナンシー関は2001年に出版された著書で「メダリストほどつぶしのきく肩書きはない。(中略)いくらオリンピックに出たいからって、7回も8回も無理矢理出るのはオリンピック的には美談でも、テレビ(というかバラエティ的世界観)的には、空気の読めないやつでしかない。だから、田村亮子は10年後に選挙に出ていると思う」と予想していたそうだが、彼女の死後に予言は当たったようだ。
それにしてもいかに過去に優れた実績を残したにせよ、彼女の引退についての報道は少し程度が過ぎていると思うし、相変わらずのマスコミの姿勢だと苦々しくも思う。それにあの小沢一郎議員が引退発表の場で、彼女の隣に座ったのはどういうことだったのだろうか。前日に彼女が出席を懇願し、「断り切れなかったようだ」とは側近の弁だが、この調子ではいつまでも忠実な「小沢ガールズ」であり続けるのだろう。