蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

私はヤギになりたい

2024年12月14日 | 本の感想
私はヤギになりたい(内澤旬子 山と渓谷社)

小豆島に移住した著者は、庭で一頭のヤギを飼い始める。他のヤギを一時預りなどしているうちに繁殖が進んで?5頭に増えてしまい、利用されていないビニールハウスを借りてそこで飼育を始める。餌の確保のため知り合いから農産の副産物をもらったり、野生?の木々を刈り取ったりするうち、ヤギと同じくらい小豆島の植生に興味が湧いて・・・というエッセイ。

タレントがヤギを引き連れて雑草駆除をする、みたいな番組があったが、本作によるとヤギは草より枝についている葉の方が好き(落ち葉は嫌いで枝についていないといけないそうだ)で、食べる量は除草どころではなく、軽トラに囲いをしていっぱいいっぱいまで伐採してきても1週間ももたないそうである。

本書を読む限り、ものすごい労力をかけているように見えるが、ヤギから乳を取ったり肉にして売ったりするわけでははい。見返りは(本書の印税を除いて?)何もない。
一方で手間がかかる世話がとても楽しげでもある。愛玩動物こそ無償の愛の体現なのだろうか。
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グレイスは死んだのか

2024年12月11日 | 本の感想
グレイスは死んだのか(赤松りかこ 新潮社)

動物病院でグレイス(4歳メス)は衰弱していた。原因がわからず女医は苦慮する。グレイスの飼い主は30歳くらいの男で競馬の調教師をしている。男とグレイスは登山中にがけ崩れで遭難し長期間山中をさまよっていたことがあった・・・という話。

著者は獣医で、もう一つの収録作「シャーマンと爆弾男」(町中の小さな川べりを主人公が彷徨う話)で新人賞を取ってデビューしたらしい。

表題作のテーマは飼い主と犬の関係性で、遭難して食料や水に事欠くようになった極限状態において展開される異様な立場逆転は迫力がある。
なので、エンタメ風に読みやすく書いてくれれば、より多人気がでたのではないかと思うが、あまりに文章が”文学的”で必要以上にこねくり回した表現になっているように感じた。
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バッド・コップ・スクワッド

2024年12月09日 | 本の感想
バッド・コップ・スクワッド(木内一裕 講談社)

川口市で起こった強盗傷害事件の犯人逮捕のため、埼玉県警の刑事5人(小国、菊島、橋本、真樹、新田)は武蔵野市に向かう。真樹は犯人の車に乗っていた男を誤って射殺してしまうが・・・という話。

このあと、5人が偶然別の事件に巻き込まれてしまうが、こちらの方が本筋。

会話が多くて、ちょっとシナリオっぽい感じがあるが、とにかくテンポがよくてあっという間に読み終わってしまった。
登場人物や情景といった背景描写や説明的部分がほとんどないのに、会話や行動から5人のキャラがくっきりと浮かびあがるのがいい。特に準主役(いや、主役かな?)の菊島のそれが抜群によくて、彼の前日譚や後日談を読んでみたくなった。

初出の単行本は2022年に出ていて、最近文庫化されて書店でみかけた。表紙のイラスト(これも著者の描き下ろしらしい。映画監督をやったこともあるそうで、多才な人なんだなあ)が、ちょっと江口寿史風で洒落ているのに惹かれて読んでみた。エンタメとしては最上級の出来映えだと思うのに、なぜもっと評判にならなかったのかな?私が知らなかっただけか・・・
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銀色のステイヤー

2024年12月04日 | 本の感想
銀色のステイヤー(河崎秋子 角川書店)

菊地俊二は、北海道静内の競走馬生産牧場の社長。後にシルバーファーンと名付けられる期待の仔馬を二本松調教師に預ける。シルバーファーンは扱いづらい性格で時に騎手(俊二の弟:俊基)を振り落としたりしながらも勝ち上がり、クラシック戦に挑むことになるが・・・という話。

菊地牧場の従業員で馬あしらいはうまいものの自己中心的なアヤ、
二本松厩舎の厩務員の鉄子、
目立った戦績はないが手堅い俊基、
元銀行員で冷徹な経営手腕の二本松、
愛人宅で腹上死した夫に意趣返ししよう?とシルバーファーンの馬主になった広瀬裕子
といったシルバーファーンを巡る関係者たちを描くのだが、それぞれキャラが立っていて(特に鉄子。鉄子はニックネームで本名は大橋姫奈、ヘビースモーカーで趣味はパチンコ)、かつ、テンポよくストーリーが進むので、筋としてはありふれているものの、とても楽しく読めた。

「ホースマン」という言葉が頻出する。競馬関係者くらいの意味だと思うが、本書はシルバーファーンの成功物語が軸ではあるものの、テーマは「ホースマン」の気質や心意気を描くことにあったのかな、と思う。
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残月記

2024年11月29日 | 本の感想
残月記(小田雅久仁 双葉社)

月にまつわる幻想譚の中編を3つ収録。

「そして月がふりかえる」は、突然自分の身代わりの男が出現して、家族全員が自分を他人だと認識していることを知った男の話。

「月景石」は、仲がよかった叔母からもらった風景石(模様が風景のように見える石)には月に生えた巨木の模様があった。その模様のような異世界?を経験した女の話。

表題作は、月昴症という、月の満ち欠けによって気分や体調が変わり、陰月には適切な治療をしないと死に至る病気にかかった主人公が、格闘技大会で台頭する話。

著者は極端な寡作だが、発表した作品(3冊のみ?)は、どれも高く評価されている。
デビュー作の「増大派に告ぐ」も読んだことがあるが、相性が悪いのか、イマジネーションの広がり方についていけなくて、読み進みにくい感じがあった。

本作では「そして月がふりかえる」は、不可思議な状況に陥った男の行動が、なるほど、と思えるもので、サスペンスとしても楽しめたが、他2作は、「増大派に告ぐ」と同じで、幻想的なストーリー展開にうまく乗れないまま終わってしまった感じ。著者のノリ?に同調できる人にはとてもおもしろい話なんだろうとは思うが。
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