蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ツイスターズ

2025年01月03日 | 本の感想
ツイスターズ

アメリカのオクラホマ州で竜巻の研究をするケイト・カーター(デイジー・エドガー・ジョーンズ)は、水分の吸収体を大量に竜巻に供給することでその勢いを削げるという仮説を立て、実際の竜巻で実験するが失敗し、恋人を含む研究仲間は竜巻で死亡してしまう。
5年後、唯一の生き残りの仲間のハビに誘われて再び研究を始める。竜巻を実況中継?するユーチューバーのタイラー(グレン・パウエル)がちょっかいを出してきて・・・という話。

前作(ツイスター)に絡むエピソードも出てくるが、独立した作品としても楽しめる。

竜巻来襲の場面は作り物とわかっていても、自動車や建物がぶっ飛んでいくシーン、何よりすぐそばにいた人が竜巻に持っていかれてしまうシーンは、DVDで見ていてもいわゆる「思わず声でる」くらいの迫力がある。特殊効果が楽しめる映画館でみたらきっとすごいんだろうなあ、と思わせた。

ただ、本作は観客を怖がらせることを目的とした恐ろしげなパニック映画では全く無くて、ケイトやタイラーの明るくあっけらかんとしたキャラや、各種ギミック(代表的なのはドリルを地面に打ち込んで固定を図るタイラーの愛車。あんなんで竜巻に対抗できるはずないけど、なんか面白い。ラストシーン近くでの違う目的での使用法もいい)が充実していて、エンタメとして非常に楽しめる作りになっている。さすがスピルバーグのプロデュース。
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「世界の終わり」の地政学

2025年01月03日 | 本の感想
「世界の終わり」の地政学(ピーター・ゼイハン 集英社)

水運を使った物資輸送力は、他の手段と比較して圧倒的に効率的(例として、シベリア鉄道の年間輸送総量は超大型コンテナ船一隻分に及ばないそうである)であり、大洋の航海術が確立されるまで、文明は大河やそこから派生する河川網による水運が可能な平野で栄えてきた。大航海時代を経て海運を制した国が覇権を握るようになり、WWⅡ後は圧倒的なアメリカの海軍力に守られて全世界物流が効率化しグローバル経済が大繁栄した。
著者は、WWⅡ後の状況は歴史上特殊なものであったとして、アメリカが世界の警察官役を降りた今、グローバル経済は大幅に縮小し「世界の終わり」がやってくると主張する。

上記の主張にはにわかに首肯できかねるが、なぜ水運が重要なのか?という解説は論理的かつ単純で面白かった。

その他、次のような解説がよかった。なお、上下巻に分かれているが、上巻が総論、下巻が各論という構成になっていて、有り体にいうと上巻だけ読めばいいかな・・と思えた。

都市化によりなぜ出生率が落ちるのか?→農村では子供は無償の労働力だが、都市では単なるコストにすぎないため

日本は高齢化を逆手にとってデソーシングを進めた。工業生産能力の多くを他国へ移転し、現地の労働力を使って生産し、収益を日本に還元して高齢化する日本の人口を養うという構造である。これを進められた背景にはアメリカによる安全保障があり、それが揺らいだ今後はどうなるだろうか?

遠く離れた海域で艦隊行動ができるのはアメリカ海軍くらい。格差は圧倒的だがそれに次ぐのは海上自衛隊で海上護衛が可能な実力がある。(本書では何回も海上自衛隊の実力を高く評価しているが、買いかぶり過ぎのような気がしないでもない)

多くの移民をアメリカに供給してきたメキシコも少子高齢化が進んでおり、2014年以降大量の移民が発生しているのは(メキシコ以外の)中米諸国である。その一方で今最も強硬な移民排斥派は第2世代以降のメキシコ系アメリカ人である。

中国経済の規模はいまだアメリカのそれよりかなり小さい。それなのにここ10年間の中国の貨幣供給量はアメリカを上回っており、二倍に及んだこともある。中国経済は、消費主導でも輸出主導でもなく貨幣主導型といわざるを得ない。

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竜宮城と七夕さま

2024年12月20日 | 本の感想
竜宮城と七夕さま(浅田次郎 集英社文庫)

JALの機内誌に連載されているエッセイ集第4弾。
2013年から2016年ころに掲載されたもの。

銭湯好きで湯に入るとどうしも唸ってしまうさまを描いた「唸る男」

皇居のお濠には巨大な鯉が住んでいるという・・・長寿の動物を描いた「寿命の考察」
当時の研究では最長の動物は507歳のアイスランドの二枚貝だそうである。

カジノがない日本は実はギャンブル大国という話の「GOODLUCK」

自宅にある絵画のデッサンが狂っているのでは?という疑いを実物を見て晴らした「大雁塔とドラ焼き」

著者は実物を見たことがあるという「君は虚無僧を見たか」

著者はいかにして63歳にしてフルヌードを雑誌に掲載されたか、を描いた「温泉礼賛」

小学生のころ、兄とキャッチボールをしていると当時珍しかったモンゴルからきた留学生がいて・・・という話の「初めてのキャッチボール」

などが、面白かった。
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メトロポリタン美術館と警備員の私

2024年12月20日 | 本の感想
メトロポリタン美術館と警備員の私(パトリック・ブリングリー 晶文社)

著者は大手出版社に勤務していたが、やりがいのない仕事に倦んでいて、兄の若死をきっかけに美術館の警備員(展示場に立って見張りをする人)になる。警備員の経験とメトロポリタン美術館の収蔵絵画の素晴らしさを語ったエッセイ。

美術館の警備員ほど展示されている絵画を時間をかけて見つめられる職業もないだろう。著者のように、絵心があり(本作にも自身によるスケッチが収録されている)、浮世に嫌気が差した人が回復する場所としては、この上ない機会だったようだ。

メトロポリタン美術館に行ったことはないが、本書を読む限り、収蔵品は多岐にわたり、野球カードなんかもあるそうで、博物館に近いものがあるのかな、と思えた。
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私はヤギになりたい

2024年12月14日 | 本の感想
私はヤギになりたい(内澤旬子 山と渓谷社)

小豆島に移住した著者は、庭で一頭のヤギを飼い始める。他のヤギを一時預りなどしているうちに繁殖が進んで?5頭に増えてしまい、利用されていないビニールハウスを借りてそこで飼育を始める。餌の確保のため知り合いから農産の副産物をもらったり、野生?の木々を刈り取ったりするうち、ヤギと同じくらい小豆島の植生に興味が湧いて・・・というエッセイ。

タレントがヤギを引き連れて雑草駆除をする、みたいな番組があったが、本作によるとヤギは草より枝についている葉の方が好き(落ち葉は嫌いで枝についていないといけないそうだ)で、食べる量は除草どころではなく、軽トラに囲いをしていっぱいいっぱいまで伐採してきても1週間ももたないそうである。

本書を読む限り、ものすごい労力をかけているように見えるが、ヤギから乳を取ったり肉にして売ったりするわけでははい。見返りは(本書の印税を除いて?)何もない。
一方で手間がかかる世話がとても楽しげでもある。愛玩動物こそ無償の愛の体現なのだろうか。
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