蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

廃墟に乞う

2017年02月05日 | 本の感想
廃墟に乞う(佐々木譲 文春文庫)

主人公の仙道は北海道警捜査1課の刑事だが、捜査中にPTSDになって休職中。知り合いなどから頼まれて北海道各地で発生した殺人事件等に関わることになるが・・・という内容の短編集。直木賞受賞作。

解説によると、北海道各地の風土を描いてみたい、という動機で書き始めたそうで、確かに仙道の旅行記みたいにも読める内容になっている。特に表題作で描かれる元炭鉱町のさびれ具合や人心の荒廃の描写は印象に残った。

仙道が休職するきっかけになった事件は最終話でやっと明かされるという構成になっているのもなかなかうまい。著者の作品はどれもリーダビリティが高く、それなりに複雑な筋になっていてもすらすら読めるので気持ちよい

このように、本作は秀作ではあると思うけれど、著者の代表作とはいえないだろう。直木賞がベテラン作家への〝ご苦労"賞になっていて、作家そのものを表彰していて、作品そのものを評価していない傾向が最近は特に強いように思われる。まあ、出版社の販促手段の一つなんだと思えばそれも仕方ないが。
コメント
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