蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

とんこつQ&A

2023年02月19日 | 本の感想

とんこつQ&A(今村夏子 講談社)


とんこつという中華食堂でバイトする主人公(今川)は、接客の経験がなく、客相手にしゃべることが一切できなかったが、ある時、紙に書いたものを読むことならできる事に気づき、想定されるセリフをメモしたQ&Aを作り始める。やがて別のバイト(丘崎)が雇われて、やっぱり一切しゃべれない彼女のためにもQ&Aを作る・・・というのが表題作。
「嘘の道」は、おばあさんに公民館への裏道を教えた姉弟の話。
「良夫婦」は、庭先にいつもやってくる小学生(タム)と仲良くしたいと思った主婦の主人公には介護職をしていた時に思い出したくない記憶があった、という話。
「冷たい大根の煮物」は、一人暮らしを始めて菓子パンや弁当ばかりを食べてい主人公に、職場のおばさんが料理を作ってくれるようになるが、そのおばさんは同僚の評判がよくなかった、という話。

著者は、純文学という枠を超えて新刊がたくさん売れる作家の一人らしい。虚構性が強くてちょっと気味が悪い話(本書でいうと表題作と「嘘の道」)が多いので、あまり大衆好み?ではなさそうなのだけれど。

今どき文芸書というジャンルは、エンタメとしてはかなり小さな分野になってしまった。読書ということをする人自体が珍しくなったし、昔は本屋の真ん中にあるのは文芸書だったけれど、今は実用本ばかりで、小説はすみっコに追いやられている。

だから、そんな時代にあっても小説の新刊を買う人というのは、かなり変わった趣味の人か、万巻の書を読み尽くしてありきたりなストーリーでは満足できない人ばかりなのかも。だから、以前ならベストセラーとは縁がなさそうな風変わりな内容の小説が(相対的には)よく売れるのかもしれない。

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踏切の幽霊

2023年02月19日 | 本の感想

踏切の幽霊(高野和明 文藝春秋)


新聞社をやめて週刊女性誌の記者になった松田は、雑誌の企画で幽霊話を取材する。その中に下北沢駅の下り方面の踏切に長い髪の女の幽霊が出る、というものがあった。踏切の近くでは暴力団の構成員がホステスを殺す事件が起きていた・・・という話。

出す本ごとに趣向を変える主義という著者の作品。11年ぶりの満を持した?長編で、前作はスケールが超巨大で筋も相当に凝った「ジェノサイド」だったので、本作は私としては珍しく発売間もない頃に買った。

 

幽霊話(著者によるとホラーではなくてゴーストストーリー)の正統OR王道といった内容で、読みやすくて楽しめるのだが、正直「え、これで終わり?」みたいな筋立てで、複雑な展開と意外なエンディングを期待したいた私としては、ちょっと残念だった

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