室町は今日もハードボイルド(清水克行 新潮社)
週刊文春の著者による(室町ものの)連載エッセイが面白くて、本書を読んでみた。たまたま私の子どもが大学で著者の講義を聴いていたのだが、授業もとても楽しい内容だったそうだ。
歴史エッセイというと、だれもが知っている、大河ドラマの主人公になりそうな人物のエピソードやこぼれ話を題材にしたものがほとんどだが、本書には、そういう有名人はほとんど登場しない。でありながら楽しく読ませてくれるのがすごいと思う。
1〜4部で構成されている。
1部は自力救済の話。
無敵の桶屋イヲケノ尉の無双ぶりや150年に渡って琵琶湖の北側で争い続けた2つのムラの話が面白かった。
2部は多様性の話。
中性においては世の中のムードを変えるため頻繁に改元が行われ、中には自分たちの地域だけで”私的な”改元をすることすらあったという話、
普段は厳禁だった人身売買も飢饉にあっては(口減らしのため)公認されていたという話、
室町期の日本からの外交使節に関する朝鮮側の記録を見ると使節の人名の大半が実在しない人物のもので、これは使節の殆どが(返礼品狙いの)ニセモノだったせい、という話、などが面白かった。
3部は恋愛の話。
亭主に浮気された妻が浮気相手の女性を襲撃するのは公認されていて”うわなり打ち”と呼ばれていたという話(これは鎌倉殿で有名になったが、本書でも政子が亀の前を襲う話が紹介されている)、
寺院などに残されたエロ落書きのほとんどが男色関係のものなのは、当時、同性間の恋愛が純愛だと信じられていたからと思われる、という話、
などが面白かった。
4部は信仰の話。
湯起請など一見神仏への信仰の強さを表しているような事象が、信仰に疑いが生じてきたからこそ生じていたのでは?という説を、著者とその息子のサンタ話で例えた話が面白かった。