蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

読書の価値

2018年09月08日 | 本の感想
読書の価値(森博嗣 NHK出版新書)

タイトル通り、読書の意義について考察した本で、自分が知らないことを教えてくれることが読書の本質であるので、できるだけいろいろなテーマやジャンルの本を読んだ方がよいとする。

こうした本書のテーマ部分より、森さん自身のエピソードを紹介しているところの方が面白かった。もっとも、森さんのエッセイは何冊か読んでいるので、本書で取り上げているエピソードの大部分は既知のもの。
森さんは読むのは遅いが、それは本の内容を脳内でイメージしているためで、一回読んだ本の内容はすべて覚えているとか、雑誌マニアであるとか。

次の話は、本書で初めて知り、なるほど、と思わされた。
森さんはもともと大学教授で、学生の論文を読むことが多かったのだが、ある時期から急に学生の論文作成のスキルが上がって読みやすくなったらしい。
その時期というのは、入試に小論文を課する大学が増えた頃らしい。受験勉強で小論文のスキルを身に着けるようになったのである。

受験勉強をやっているときは、よく「こんなこと(例えば年号とか数学の定理とか)やっても何の意味もない」なんて思ったものだが、意外と役に立ち、実用的である(のでもっとやっておくべきだった)と、社会人になってから思い知ることが多かった。それをあらためて認識できた。
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うつ病九段

2018年09月02日 | 本の感想
うつ病九段(先崎学 文芸春秋)

棋士の先崎九段がうつ病にかかり、棋戦を「休場」し治療に専念した1年間の体験を自ら記録したエッセイ。

先崎さんといえば、エッセイを連載したり、「3月のライオン」の監修をしたりと多才で、エッセイを読む限り洒脱な性格な方に見え、うつ病なんて縁がなさそうなのですが、ある日突然何の前触れもなくうつ病になってしまいます(6月23日から病気になったという明確な自覚があったそうです)。
私は、入院しなければならないような深刻なうつ病って、長らく不安とか不眠とかに悩まされてなっていくものだと思い込んでいたので、まず、ここが意外でした。

著者が何度も強調していますが、うつ病は、原因が特定しにくい精神的な病いではなくて脳の機能に障害が生じることによって起きるものだそうで、病中は、プロ棋士である著者が五手詰みの詰将棋に苦労するようになってしまったそうです。ただ、機能的な病気なだけに、快癒すればすぐに棋士として復活(今年から順位戦に復帰)できてしまうというのも不思議な感じでした。

著者の兄は高名な精神科医らしく、著者の様子を見てすぐに大学病院に入院の手配をしたり、退院後もメールなどで頻繁にアドバイスしてくれます。著者が何より助かったと感じたのは、兄が病状や治療の見通しについて断言口調で語ってくれることだったそうです。
普通の医師ですと、いろいろなリスクを感じて断言はしてくれないのですが、そこは近親者ということから、「必ず安定する」みたいにクリアに言ってくれることが頼もしかったみたいで、「なるほどなあ」と、共感できました。

うれしかったのは、周囲の人から賛辞やお礼の言葉をかけられることだったそうで、自分が必要となれていると実感できるのがありがたかったとのことです。
病中だからより強く実感できたことであって、普段でもやはり人から褒められるというのは、誰にとってもうれしいことなのでしょう。
お世辞やおべっかを使っているようで、なかなか感謝を言葉を出して伝えるのは気恥ずかしいものですが、オーラルな手段での伝達って大事なんだなあ、と改めて思いました。

私もうつ病になって休職したり会社を辞めたりする人を何人も見ましたが、私自身は幸運にもなったことはないので、そのつらさを実感したことはなく、本書を読んでうつ病の怖さや深刻さがいくらかは理解できたような気がしました。
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