蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

罪の声

2019年11月04日 | 本の感想
罪の声(塩田武士 講談社文庫)

京都でテーラーを営む曽根は、入院中の母親から頼まれモノを自宅で探すうち、英文で埋められた不審なメモ帳とカセットテープを見つける。メモ帳の内容は世間を震撼させたギン萬事件の計画を記したもののように思え、テープには事件で脅迫に使われたセリフが録音されていた。その声は曽根自身のもののように思われた。曽根は亡父が事件にかかわっていたのではないかと疑い、亡父の友人とともに、父と、過激派だった叔父の消息を探ることにするが・・・という話。

ギン萬事件というのはグリコ森永事件をモデルにした脅迫犯罪のことで、曽根の探索行と並行して大手新聞社の記者:阿久津が事件のあらましを(グリコ森永事件の史実に忠実に)語っていく。
この二重構造が本書の魅力でもあるのだが、現実のグリコ森永事件をよく知る現在の50才台以上の人(私も該当)には阿久津のパートが若干退屈に感じられるかもしれない。逆にこの事件をリアルタイムで経験していない人にとっては、この部分こそが最も魅力的なのかもしれないとも思えた。
それくらいグリコ森永事件は、事実は小説より・・・を地でいく劇場型犯罪だったんだよなあ、今さらながら。

犯罪者としての経験が豊富?そうで狡猾な犯人が身代金を奪取しようとは思っておらず、グリコなどの上場株式の空売りで儲けようとしたのではないか、というのは当時からよく指摘されていたところ。
その犯人たちが別の会社の脅迫をした時には身代金獲得に躍起になったことから全くの別グループの模倣犯か、犯人グループが分裂したのではないか?との推理も多かった。
本書も概ねこの方向でストーリーが進展する。
類書と違うのは、脅迫に使われた録画音声が子供のものだったと思われることから、犯人たちの係累であるはずの子供たちの運命に思いを馳せた点なのだが、メインストーリーが終わってから展開されるのでとって付けた感があったのと、お涙頂戴的な幕切れだったのがちょっと残念だった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イエスタデイ

2019年11月04日 | 映画の感想
イエスタデイ

ジャック(ヒメーシュ・パテル)は、歌手としてメジャーデビューを目指しているが芽がでなかった。全世界的な停電が起きた時、彼は車に轢かれて意識を失う。目覚めて友達からギターをプレゼントされたお礼に「イエスタデイ」を披露すると、友達が誰もこの曲を知らないことに気づく。半信半疑ながらビートルズの曲を地元のケーブルTV?で歌うと、その曲に感心したエド・シーラン(本人が演じている)が、自分のライブの前座に出てみないか、と言い出し・・という話。

話の結構としてはありふれたパラレルワールドものなのだが、パラレルワールドが「ビートルズが失われた世界」である、という発想が斬新で、ジャックが歌うビートルズの聞き慣れたはずのナンバーがとてもみずみずしく感じられた。

本作の柱はジャックのマネージャ役だったエリー(リリー・ジェームズ)との恋バナなのだが、どうにもエリーの方が素敵すぎていけなかった。おいおいジャック(パラレルの方でない世界に生きている方ね)なんかより君に似合いのいい男がいるだろ、と言いたくなる。

今やワールドクラスのスターシンガーであるエド・シーランが出演(それもカメオ的なチョイ役ではなく)してくれたのだから、どうせならジャック役をシーランにすればよかったのに!(あ、ジャック役の人が良くなかった、という意味ではありません)
そしてシーラン役は全くの別人が演じるというのもおしゃれな感じだ。
まあ、主役をできるほどの時間はなかったんでしょうね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ファースト・マン

2019年11月04日 | 映画の感想
ファースト・マン

役者やスタッフがいずれも有名人でスピルバーグ総指揮、テーマは月着陸という鳴り物入り?の作品にしては(少なくとも日本では)あまりぱっとしなかったようで、あまり期待せずに見ました。そのせいか、むしろ、かなりいい作品だった印象です。

テーマからするとアメリカの勝利を高らかに歌い上げる・・・みたいな内容かと思いこんでいたのですが、実際はアームストロングの苦悩や葛藤を描くやや内省的なものでした。
しかし、アメリカの勝利パターンの映画は見飽きた感もあり、むしろ新鮮な感じで楽しめました。

本作を見ているとアポロ計画ってけっこう危なっかしいものだったようです。
アメリカの示威のためとはいえ、初回の着陸を全世界にテレビ中継したのは、すごい度胸だったなあ、と思えました。陰謀説(映像はニセモノ)が出るのも無理もないかもしれません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ハンターキラー

2019年11月04日 | 映画の感想
ハンターキラー

バレンツ海でアメリカの潜水艦がロシア軍の攻撃により撃沈される。アメリカ軍は対抗措置として攻撃型原潜アーカンソーを現地に派遣する。アーカンソー艦長には潜水艦乗り叩き上げのジョー・グラス(ジェラルド・バトラー)が任命される。北海沿岸のロシア軍基地では、基地を訪問したロシア大統領を、国防大臣が拉致してクーデターを企てていた・・・という話。

予告編がとても面白そうだったし、潜水艦ものにハズレなし、と思って観てみたのだが・・・

うーん、前半でアーカンソーとロシア軍潜水艦が戦うあたりはまあまあだったし、アーカンソーの艦内の描写とか、アメリカ政府が意思決定するシチュエーションルームの雰囲気なんかはそれらしかったのだが、いかんせん、全体のストーリーが破綻していた。

だいたい、ロシア海軍とアメリカ海軍が正面切って戦って前者が勝てると思う軍人がいるはずないよね、とか、
そうはいってもマジな戦争になりそうな局面だ派遣するのが原潜1隻と特殊部隊4人だけというのはどうよ、とか、
アーカンソーが最後に危機を脱する筋書きは「さすがにそれはありえんだろ」みたいな感じだとか・・・
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

独ソ戦

2019年11月04日 | 本の感想
独ソ戦(大木毅 岩波新書)

私個人の、第2次世界大戦におけるドイツ軍の印象は、パウル・カレルの「焦土作戦」「バルバロッサ作戦」「砂漠のキツネ」「彼らは来た」などの著作によって形作られた。
彼の著作では、ドイツ軍は精強だったがヒトラーの誤った介入によって敗れた、みたいな論調が多くて、ロンメル、マンシュタイン、マントイフェルといった有名な将軍はすべて天才的指揮官として描写されていたような記憶がある。

ところがパウル・カレル(本名はカール・シュミット)が、かつてはナチ党員でSS中佐であったことが暴かれて、彼の著作は全く信用をなくしてしまった。このことが日本に伝わってきた時は、けっこうショックだった。

多くの本は図書館で借りて読んだが、「焦土作戦」(独ソ戦の前半部分から終結までを描いたかなり分厚い本)だけは、買って読んだ。当時としてはかなり高価で、なけなしの小遣いをためてやっとこさ買った本だったので大部にもかかわらず繰り返し読んだ。マンシュタインのバックブローとかチェルカッシイの包囲戦とかを興奮しつつ読んだ思い出は今でも鮮明だ。私に限らず、それなりの数の人が彼の著作の影響を受けていたと思う。

本書は、私のような「ドイツ軍観」を破壊する内容。
独ソ戦は、イデオロギーが鋭く対立した民族絶滅戦争で、
ドイツ軍もソ連への侵攻に積極的であり、
ヒトラーの介入により戦況が悪化した場面はあったが逆のこともあり、
ソ連の軍事理論は特に戦略面においてドイツを凌駕していてドイツの敗北は必然であった、
などとする。

うーん、そうはいっても、すべて首肯することは若干抵抗があって、ドイツが軍事的もしくは戦略的勝利を得ることができたかもしれない局面もいくつかはあったと思うし、戦略面ではアメリカの援助がソ連勝利の決定的要因の一つだったことが軽視されていたようにも思った。

しかし、本書によって、独ソ戦が犠牲者数から見て人類史上最大の殺し合いであったことにあらためて気づかされた。これまで戦術や兵器の観点に傾きがちだった見方が本書によって更新されてことは確かだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする