蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

死んでいない者

2023年02月18日 | 本の感想

死んでいない者(滝口悠生 文藝春秋)


服部春寿の父が亡くなり、その葬儀に妹や弟(5人兄妹)、子(3人のうち2人)、故人の孫(春寿の子を除いて7人)、故人のひ孫(1人)が集まる、という話。

 

140ページくらいの作品で、上記のようにやたらと登場人物が多いので、系図を書いてみたくなった。実際書いてみると、(多分故意に)系統的に記述されていないので謎解きみたいな楽しさがあった。まさかそれが本書の目的ではないのだろうけど、まあ、系図作りは面白かった。

 

故人は85歳で、私の父と同じくらいなのだが、子が5人以上いる家庭がザラだった最後の世代になるだろう。子が5人いて孫が10人いて80年以上生きていればひ孫もいて・・・となると葬儀は親戚が来ただけでも老若男女交えて相当ににぎやか?になりそう。
そういう、一族郎党皆集ってみたいな儀式は今後は少なくなってしまうことは間違いないところで、本書はそうした集いへのノスタルジーを語ったものなのかもしれない。

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影との戦い

2023年02月18日 | 本の感想

影との戦い(ゲド戦記1)(アーシュラ・K・ル=グウィン)


アースシーという多島海世界のゴント島のゲドは、魔法の才能を見込まれ師匠のオジオンのもとで修行したあと、ローク島の魔法学院で学ぶ。世界最高クラスの魔法使いになることを見込まれたゲドは、ライバルのヒスイと競り合ううち、自分自身の「影」を召喚してしまう。解き放たれた「影」を追ってゲドは多島海世界の島々を経巡る・・・という話。

「影」というのは虚栄心とかプライドの化身なのだろうか。最後の決戦において「影」がヒスイの姿で現れると場面が象徴的。他人と自分を比較してしまう愚かさこそ克服すべき課題なのだろう。

 

多島海の魔法世界においては、名前が決定的に重要であり、本名を教えることは人格のすべてをオープンにすることに他ならない。敵に本名を知られてしまうことは致命的である。(なので、ゲドも普段はハイタカと名乗っている)
このような考え方は世界中にあるようで、日本でも本名は諱と言って日常生活でそれを持って呼び合うことはなかったという。(本多忠勝を平八郎とよび、家康を三河守と呼ぶような感じ)

ヒロイックファンタジーは「剣と魔法の物語」と言われるが、本書は「剣」の要素はなく全編魔法で覆われている。魔法の秩序はあまり語られなくて、万能なようで肝心の場面では無力だったりもするのが、むしろ本書の魅力となっているような気がした。

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黒牢城

2023年02月16日 | 本の感想

黒牢城(米澤穂信 角川書店)

織田信長の有力部将だった荒木村重は、謀反を起こして有岡城に籠城し、説得に訪れた小寺(黒田)官兵衛を地下に監禁する。


有岡城の前衛の城を守る村重の有力同盟者が裏切る。有岡城にいた同盟者の人質が不可解な方法で殺される。城内の動揺を鎮めるため、村重は犯人を探すが難航し、官兵衛に助言を求める(雪夜灯籠)。
有岡城を包囲する織田軍を奇襲して大将首をあげるが、その手柄をあげたのが誰なのかが判然としない。城内の有力部将のいずれに褒賞を与えるべきか?再び村重は地下牢の官兵衛に尋ねる(花影手柄)。
村重が織田方との交渉を託した外交僧が城内で殺される。犯人は織田と通じた裏切者だったが雷に打たれて死ぬ。しかし遺体の近くには弾丸が落ちていて死因を疑わせる(遠雷念仏)。
後詰めとして期待していた毛利は動かない。村重は自ら交渉に赴こうとする。(落日孤影)。

世評通り、ミステリ部分はとてもおもしろく読めるし、謎解きも意外感十分だった。

織田との手打ちを拒否した村重が、官兵衛をそのまま返さず、かといって殺しもせずに監禁したのはなぜか(味方にしたいなら地下牢には入れなかっただろう)?というのは歴史上の謎だが、本書ではその謎解きもあるものの、ちょっと弱いかなあ、と思えた。

村重は武将としての実績は十二分にあり、強大な織田軍を相手に1年も持ちこたえたのだからやる気も十分だったのだが、最後はケツをまくって城から逃げ出してしまう。その理由も明らかにされているが、これもちょっと頷けないかなあ。

・・・とけなしてばかりいるが、包囲下の城という特殊なシチュエーションの重苦しいムードがとてもうまく描かれていてミステリ抜きの歴史物語としても読み応え十分。
「黒牢城」というタイトルも、「これしかない」と思わせる絶妙さ。

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