アイ・ラブ・桐生 第一部
(5) 第一章 学生たちの喫茶店(中)

(山間地区に残る、3連の、のこぎり屋根の織物工場)
やはり呑み過ぎて、結局、寝過してしまいました・・・
何時に家に戻ってきたのか、その記憶さえ定かにありません。
桐生駅始発で上野行き急行列車も、すでに出発をしてしまった時刻です。
昨日の打ち合わせでは、これに乗車をする予定でした。
桐生は、国鉄を使っての上京にはたいへんに不便な町です。
桐生市の所在が、群馬と栃木県をむすぶ国鉄・両毛線の
ちょうど中間部に位置しているためです。
最短のルートは、市内南西部に停車駅を持ち、
赤城山の登山道へ続く大間々駅と浅草を結ぶ、私鉄の東武線です。
時刻表を見ると、次のロマンスカ―(急行)に間にあいそうです。
ロマンス・カ―は、ほぼ1時間に1本の割合で運航をされていて、終点の浅草までは
約2時間余で走りぬけます。
代々木公園で開かれいるはずの集会には間にあわないものの、
デモ行進が始まる時間には到着ができそうです。
じゃあ、行くか・・
でも、あいつはどうしたんだろぅ。
そう思いながら車を走らせて、東武線・新桐生駅へといそぎました。
車中では重い頭をかかえたまま、うつらうつらとひたすら眠りました。
昨夜は途中までの記憶が有るものの、何時にレイコと別れたのか定かではありません。
最後に耳元に何か囁かれたような気もしましたが、すでに遠すぎる記憶となってしまい、
やはりその言葉を思い出すことが出来ません。
『じゃ、約束ね』と指切りをした、小指の柔らかい感触が
なんとなく記憶の隅に残っています。
「何の約束をしたんだろう、俺たち・・・・」しかし、それをいくら考えても
霧のベールの向こうへ消えてしまった記憶は、やはり戻ってきませんでした。
ようやくの想いで代々木公園へ到着した時には、すでに集会自体は終了していました。
デモ隊が、その隊列を整えながら出発の合図を待っているところです。
会場となった公園には、まだ余韻を引きずるどよめきがありました。
前回のデモ行進の時よりも参加者たちが増えています。
見た目にも倍ちかいだろうという雰囲気が有り、おそらく5000人は越えているかもしれません。
多くののぼり旗が風にはためき、ゼッケンや横断幕などもはるかに数が増えていました。
「安保」継続の自動更新日を直前にして、日本が拒否権さえ発動すれば、
今度こそ廃棄ができるというわずかな可能性が生まれてきたために、
日米軍事同盟と安保に反対の声が、ようやく全国的に高まってきたという気配が漂っています。
とりあえず、地元勢と合流しなければなりません。
今日の集会の主な勢力は、群馬・栃木・茨城の北関東3県からの上京組です。
たぶん中団あたりにいるはずと目星をつけて探していたら、すぐに見つけることができました。
かつて、「あかつき特別行動隊」と呼ばれ、少人数ながらも、
極左の過激派たちとも互角にわたりあってきたという派手な経歴を持つ、学生たちの
オレンジ・カラーの一団が、群馬県勢の中心にいました。
街頭宣伝活動の開始の時から身につけてきたともいう、オレンジ色のヤッケは、
人ごみの中でも、やはり異彩を放って特別に目立ちます。
手を振りながら人ごみを懸け分けて行くと、顔馴染みの学生が向こうから
「よおっ!」とひと声かけながら駆けよってきました。
「呑み過ぎた顔だぜ。大丈夫か」デモ行進の必需品、鉢巻きとゼッケン、
腕章などがオレンジのヤッケとともに、乱暴に手渡されました。
「前の方が何やら殺気立ってるみたいだな。
ずいぶんと気勢をあげているし、ヘルメット姿の騒がしい連中だ。」
「招かざる客さ。」
もう一度、前方へ目をやると
原色のヘルメットに、白いタオルで顔覆う一団が、それぞれ手にした角棒などを
振りあげて、派手な気勢をあげているのが見えました。
遠すぎるためにヘルメットに、書かれている文字までは読み取れません。
「革マルか・・、それとも極左暴力集団の中核の連中か。
まさか、連合赤軍じゃないあるまいな。」
「馬鹿を言え。
連合赤軍の連中は、今ごろは韓国へ逃亡中だ。」
「三里塚か、成田にかかわっている空港反対闘争中の
極左勢力のゲバ学生たちか・・・」
「さぁなあ~。
いずれにしても、俺たちとしては、排除することができないからな。
とりあえず、今日は安保反対が第一条件で、連合部隊による市民たちの集会だ。
しかし油断だけはするな、今日は厳重に注意をしろ。
あいつらが・・・・ああいう乱暴な学生たちが顔を出すと、
いつでもろくな事がない。」
いまいましそうに言い捨てた彼は、
出発を前にして、身支度と準備で騒然とする人ごみの中へ
「じゃあ、また後で」とひとつ背中を叩き、手を振りながら消えて行きました。
今日は代々木公園で、安保の反対の総決起集会をひらいたあと、
そのまま隊列を組んで平和裏に、国会へ陳情のデモ行進をするというだけの予定です。
動き出そうとする隊列の中で、あわてて自分の身支度を整えました。
北関東の3県が中心で、学生と社会人たちの連合によるデモ行進の隊列は、
出発の合図に軽くどよめいたあと、山が動くような気配を見せてゆっくりと前進を始めました。
国会を取り囲む陳情と抗議のデモ行進のために、
全国各地をいくつかのブロックに分けて、その集会への動員が日常的に繰り返されました。
過激派学生や、暴力を信条とする極左の学生勢力たちとは、無縁のはずの集会でした。
しかし時の政府が政治的に切羽詰まり、政局が大きな曲面を迎え始めると
彼らもまた、どこからともなく市民の前に現れてきます。
いまだに「暴力革命」の旗印をかかげ、角棒やヘルメットなどで武装をして
乱闘騒ぎのきっかけをつくるために、常に登場をするのです。
デモ行進が荒れなければいいが・・
そう思いながらも公園を出ると、狭い出入口から解き放たれたデモ隊の
隊列は、やがて国会へ向かう広い道路の全面に翼を広げるように押し拡がりました。
沿道には、そんなデモ隊を制圧するようにすべての隙間を埋め尽くして
機動隊員たちが整然とならんでいます。
機動隊員たちは「制服」と呼ばれている迷彩色の乱闘服に身を包み、
ジュラルミンの盾を前面に構え、手には、特別仕様の警棒を握っています。
全員ともに身長が高く、がっしりとした体格をしており、さすがに首都を警備する機動隊は、
選らびぬかれてきただけのことはあり、すべてが精鋭たちで構成をされていました。
その存在感には、一目見ただけでも思わず身震いを覚えるほどの、
圧倒的とも思える、きわめての威圧感があります
国会議事堂が近づくにつれて、
さらに機動隊による警護の陣形が厚みを増してきました。
二重三重に重なり、厚みのある機動隊の人垣へと進むにつれて変わってきます。
それらの背後には、窓ガラスを金網で覆った装甲車が幾重にも見えてくるようになりました。
「いつもより、多いよなあ・・機動隊の連中が。厳重すぎる警戒ぶりだ」
デモの隊列に中からもそんなささやき声が、聞こえてきます。
前方が突然ざわつきはじめました。
前後、左右へっとうねるように揺れ出した人の波が、
あっというまに総崩れとなりさらに勢いを加えたまま、時計回りに渦を巻きはじめました。
それはデモ行為では禁止とされている、挑発的な渦巻き行進の形です。
初めて目のあたりに見る光景でした。
テレビでは時々見ましたが実際に体験をするのは、今回が初めてです。
大きな怒号と歓声が上がる中で、機動隊とデモ隊の激しい押し合いが始まりました。
そのまま、もみくちゃとなり、デモの隊列はといに道路にあふれて、
完全のその前進が止まってしまいました。
膨れ上がる人の波の前方では、制止行動に走る機動隊員の数が一気に増えてきます。
「かかれっ、」と声と「ひるむな!」と叫ぶ声が交錯をします。
デモ隊は完全な停止を余儀なくされて、ついに参加者たちが四散を始めます。
前方では、遂にデモ隊と機動隊の全面対決がはじまりました。
万一の場合には、いち早く立ち去れ、がデモ行進の鉄則です。
同じ方向に固まることなく、四散すること。
露地や建物内にいち早くまぎれこむべし、
ゼッケンや腕章などは、迷うことなく廃棄すべし、などなど等々・・・・
前夜の打ち合わせ事項を思い出しながら、早足でその場を立ち去りました。
「安全こそ第一。蛮行は勇気に有らず。勇気を持ってその場から撤退をせよ。」
それらを、呪文のよう何度も頭の中で繰り返しました。
ようやく冷静になったときには、慨に、地下鉄の切符販売機の前に立っていました。
人は良く動転するといいますが、想像を絶する光景を目の前にした時には、
頭の中が、完璧に真っ白になるという事実を、産まれて初めて体験をしました。
ほっと一息ついた瞬間でした。
いきなり背中に、どん!と柔らかい感触がぶつかりました。
ほのかに、どこかで嗅いだ覚えのあるお化粧の匂いもしました・・・・
驚いて振り返ると・・・レイコが、私の背中で激しく息を切らせたまま、
肩を震わせて立ちすくんでいました。
「ずぅ~と、あなたの後を、必死で追いかけてきたのに・・・・
あなたったら、前ばかり見て、一度も振り返ってくれないんだもの。
もう、意地悪」
レイコの顔が、私の真近に迫ってきました。
涙があふれそうになっているその両目が、じぃっと私を見つめてきます。
今日は、なんとも初体験が、初めてが多い日です・・・・
こんなにも至近距離で、涙目になっている若い女性に見つめられてしまうのも、
私には、まったくもって初めてといえる体験です。

(こちらの外壁は大谷石です。市内でも最大級のもので、5連の三角屋根を持っています)
・本館の「新田さらだ館」は、こちらです http://saradakann.xsrv.jp/
(5) 第一章 学生たちの喫茶店(中)

(山間地区に残る、3連の、のこぎり屋根の織物工場)
やはり呑み過ぎて、結局、寝過してしまいました・・・
何時に家に戻ってきたのか、その記憶さえ定かにありません。
桐生駅始発で上野行き急行列車も、すでに出発をしてしまった時刻です。
昨日の打ち合わせでは、これに乗車をする予定でした。
桐生は、国鉄を使っての上京にはたいへんに不便な町です。
桐生市の所在が、群馬と栃木県をむすぶ国鉄・両毛線の
ちょうど中間部に位置しているためです。
最短のルートは、市内南西部に停車駅を持ち、
赤城山の登山道へ続く大間々駅と浅草を結ぶ、私鉄の東武線です。
時刻表を見ると、次のロマンスカ―(急行)に間にあいそうです。
ロマンス・カ―は、ほぼ1時間に1本の割合で運航をされていて、終点の浅草までは
約2時間余で走りぬけます。
代々木公園で開かれいるはずの集会には間にあわないものの、
デモ行進が始まる時間には到着ができそうです。
じゃあ、行くか・・
でも、あいつはどうしたんだろぅ。
そう思いながら車を走らせて、東武線・新桐生駅へといそぎました。
車中では重い頭をかかえたまま、うつらうつらとひたすら眠りました。
昨夜は途中までの記憶が有るものの、何時にレイコと別れたのか定かではありません。
最後に耳元に何か囁かれたような気もしましたが、すでに遠すぎる記憶となってしまい、
やはりその言葉を思い出すことが出来ません。
『じゃ、約束ね』と指切りをした、小指の柔らかい感触が
なんとなく記憶の隅に残っています。
「何の約束をしたんだろう、俺たち・・・・」しかし、それをいくら考えても
霧のベールの向こうへ消えてしまった記憶は、やはり戻ってきませんでした。
ようやくの想いで代々木公園へ到着した時には、すでに集会自体は終了していました。
デモ隊が、その隊列を整えながら出発の合図を待っているところです。
会場となった公園には、まだ余韻を引きずるどよめきがありました。
前回のデモ行進の時よりも参加者たちが増えています。
見た目にも倍ちかいだろうという雰囲気が有り、おそらく5000人は越えているかもしれません。
多くののぼり旗が風にはためき、ゼッケンや横断幕などもはるかに数が増えていました。
「安保」継続の自動更新日を直前にして、日本が拒否権さえ発動すれば、
今度こそ廃棄ができるというわずかな可能性が生まれてきたために、
日米軍事同盟と安保に反対の声が、ようやく全国的に高まってきたという気配が漂っています。
とりあえず、地元勢と合流しなければなりません。
今日の集会の主な勢力は、群馬・栃木・茨城の北関東3県からの上京組です。
たぶん中団あたりにいるはずと目星をつけて探していたら、すぐに見つけることができました。
かつて、「あかつき特別行動隊」と呼ばれ、少人数ながらも、
極左の過激派たちとも互角にわたりあってきたという派手な経歴を持つ、学生たちの
オレンジ・カラーの一団が、群馬県勢の中心にいました。
街頭宣伝活動の開始の時から身につけてきたともいう、オレンジ色のヤッケは、
人ごみの中でも、やはり異彩を放って特別に目立ちます。
手を振りながら人ごみを懸け分けて行くと、顔馴染みの学生が向こうから
「よおっ!」とひと声かけながら駆けよってきました。
「呑み過ぎた顔だぜ。大丈夫か」デモ行進の必需品、鉢巻きとゼッケン、
腕章などがオレンジのヤッケとともに、乱暴に手渡されました。
「前の方が何やら殺気立ってるみたいだな。
ずいぶんと気勢をあげているし、ヘルメット姿の騒がしい連中だ。」
「招かざる客さ。」
もう一度、前方へ目をやると
原色のヘルメットに、白いタオルで顔覆う一団が、それぞれ手にした角棒などを
振りあげて、派手な気勢をあげているのが見えました。
遠すぎるためにヘルメットに、書かれている文字までは読み取れません。
「革マルか・・、それとも極左暴力集団の中核の連中か。
まさか、連合赤軍じゃないあるまいな。」
「馬鹿を言え。
連合赤軍の連中は、今ごろは韓国へ逃亡中だ。」
「三里塚か、成田にかかわっている空港反対闘争中の
極左勢力のゲバ学生たちか・・・」
「さぁなあ~。
いずれにしても、俺たちとしては、排除することができないからな。
とりあえず、今日は安保反対が第一条件で、連合部隊による市民たちの集会だ。
しかし油断だけはするな、今日は厳重に注意をしろ。
あいつらが・・・・ああいう乱暴な学生たちが顔を出すと、
いつでもろくな事がない。」
いまいましそうに言い捨てた彼は、
出発を前にして、身支度と準備で騒然とする人ごみの中へ
「じゃあ、また後で」とひとつ背中を叩き、手を振りながら消えて行きました。
今日は代々木公園で、安保の反対の総決起集会をひらいたあと、
そのまま隊列を組んで平和裏に、国会へ陳情のデモ行進をするというだけの予定です。
動き出そうとする隊列の中で、あわてて自分の身支度を整えました。
北関東の3県が中心で、学生と社会人たちの連合によるデモ行進の隊列は、
出発の合図に軽くどよめいたあと、山が動くような気配を見せてゆっくりと前進を始めました。
国会を取り囲む陳情と抗議のデモ行進のために、
全国各地をいくつかのブロックに分けて、その集会への動員が日常的に繰り返されました。
過激派学生や、暴力を信条とする極左の学生勢力たちとは、無縁のはずの集会でした。
しかし時の政府が政治的に切羽詰まり、政局が大きな曲面を迎え始めると
彼らもまた、どこからともなく市民の前に現れてきます。
いまだに「暴力革命」の旗印をかかげ、角棒やヘルメットなどで武装をして
乱闘騒ぎのきっかけをつくるために、常に登場をするのです。
デモ行進が荒れなければいいが・・
そう思いながらも公園を出ると、狭い出入口から解き放たれたデモ隊の
隊列は、やがて国会へ向かう広い道路の全面に翼を広げるように押し拡がりました。
沿道には、そんなデモ隊を制圧するようにすべての隙間を埋め尽くして
機動隊員たちが整然とならんでいます。
機動隊員たちは「制服」と呼ばれている迷彩色の乱闘服に身を包み、
ジュラルミンの盾を前面に構え、手には、特別仕様の警棒を握っています。
全員ともに身長が高く、がっしりとした体格をしており、さすがに首都を警備する機動隊は、
選らびぬかれてきただけのことはあり、すべてが精鋭たちで構成をされていました。
その存在感には、一目見ただけでも思わず身震いを覚えるほどの、
圧倒的とも思える、きわめての威圧感があります
国会議事堂が近づくにつれて、
さらに機動隊による警護の陣形が厚みを増してきました。
二重三重に重なり、厚みのある機動隊の人垣へと進むにつれて変わってきます。
それらの背後には、窓ガラスを金網で覆った装甲車が幾重にも見えてくるようになりました。
「いつもより、多いよなあ・・機動隊の連中が。厳重すぎる警戒ぶりだ」
デモの隊列に中からもそんなささやき声が、聞こえてきます。
前方が突然ざわつきはじめました。
前後、左右へっとうねるように揺れ出した人の波が、
あっというまに総崩れとなりさらに勢いを加えたまま、時計回りに渦を巻きはじめました。
それはデモ行為では禁止とされている、挑発的な渦巻き行進の形です。
初めて目のあたりに見る光景でした。
テレビでは時々見ましたが実際に体験をするのは、今回が初めてです。
大きな怒号と歓声が上がる中で、機動隊とデモ隊の激しい押し合いが始まりました。
そのまま、もみくちゃとなり、デモの隊列はといに道路にあふれて、
完全のその前進が止まってしまいました。
膨れ上がる人の波の前方では、制止行動に走る機動隊員の数が一気に増えてきます。
「かかれっ、」と声と「ひるむな!」と叫ぶ声が交錯をします。
デモ隊は完全な停止を余儀なくされて、ついに参加者たちが四散を始めます。
前方では、遂にデモ隊と機動隊の全面対決がはじまりました。
万一の場合には、いち早く立ち去れ、がデモ行進の鉄則です。
同じ方向に固まることなく、四散すること。
露地や建物内にいち早くまぎれこむべし、
ゼッケンや腕章などは、迷うことなく廃棄すべし、などなど等々・・・・
前夜の打ち合わせ事項を思い出しながら、早足でその場を立ち去りました。
「安全こそ第一。蛮行は勇気に有らず。勇気を持ってその場から撤退をせよ。」
それらを、呪文のよう何度も頭の中で繰り返しました。
ようやく冷静になったときには、慨に、地下鉄の切符販売機の前に立っていました。
人は良く動転するといいますが、想像を絶する光景を目の前にした時には、
頭の中が、完璧に真っ白になるという事実を、産まれて初めて体験をしました。
ほっと一息ついた瞬間でした。
いきなり背中に、どん!と柔らかい感触がぶつかりました。
ほのかに、どこかで嗅いだ覚えのあるお化粧の匂いもしました・・・・
驚いて振り返ると・・・レイコが、私の背中で激しく息を切らせたまま、
肩を震わせて立ちすくんでいました。
「ずぅ~と、あなたの後を、必死で追いかけてきたのに・・・・
あなたったら、前ばかり見て、一度も振り返ってくれないんだもの。
もう、意地悪」
レイコの顔が、私の真近に迫ってきました。
涙があふれそうになっているその両目が、じぃっと私を見つめてきます。
今日は、なんとも初体験が、初めてが多い日です・・・・
こんなにも至近距離で、涙目になっている若い女性に見つめられてしまうのも、
私には、まったくもって初めてといえる体験です。

(こちらの外壁は大谷石です。市内でも最大級のもので、5連の三角屋根を持っています)
・本館の「新田さらだ館」は、こちらです http://saradakann.xsrv.jp/