俗に「もうちょう(えん)」といわれる虫垂炎は、虫垂とよばれる大腸の一部が炎症を起こして、腫れ上がったり膿がついたりする病気です。最初はおへその周りや胃のあたりに痛みを感じますが、1日または2日で痛みが右の下腹部(おへその右ななめ下)に移動します。原因は不明ですが、腸の中に存在している細菌が炎症を広げ、これに不規則な生活や過労・暴飲暴食などが重なり引き起こされるケースもよくあります。繊維成分が少なく高蛋白の食事が原因になっている場合もあり、予防のためには暴飲暴食をせず、食物繊維を多く摂取することが必要です。
診断は症状や血液中の白血球の上昇から判断されますが、有効な治療は手術で虫垂を摘出することですから、診断が確定しないとなかなか手術に踏み込めないという医者泣かせの病気でもあります。
さて、そんな虫垂炎の診断には腹部CT撮影が有効という論文があります。ここではその有効性に関するデータのみならず、どれくらいの割合で確定診断に難渋するのかをお伝えします。
The status of appendiceal CT in an urban medical center 5 years after its introduction: experience with 753 patients.
AJR American Journal of Roentgenology. 2005;184:1802-1808.
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★☆)
研究対象は、症状から判断して虫垂炎の疑いのあった753人で、668人は手術の前に腹部CT撮影を受け、残りの90人は腹部CT撮影を受けませんでした。腹部CT撮影を受けた中で39%が腹部CT撮影により虫垂炎と診断され手術をうけました。腹部CT撮影を受けなかった90人は虫垂炎の疑いがあったわけですから、全員が手術を受けました。
摘出された虫垂を調べ、実際に手術を必要とするほどの炎症がなかった確率は、腹部CT撮影施行群で3.0%、未施行群で5.6%でした。誤診率(こういうと語弊がありますが、最高の医療技術をもっていても避けられない確率です)は腹部CT撮影施行群で若干少なかったのですが、統計学的な差は認められませんでした。
結論の中で著者らは「5年前、誤診率は20%でありそれが7%になった。さらにこの研究では腹部CT撮影の使用で3%になった」と述べています。
別の観点からこの論文を解釈してみましょう。この研究はハーバード大学マサチューセッツ総合病院という世界で有数な医療先端技術をもつ病院で行われました。世界で有数な医療先端技術をもっていても3%の誤診がある、つまり、最先端の医療機器と細心の注意を払っていても、手術を必要としない軽度の虫垂炎(カタル性虫垂炎)を手術してしまう確率は3%あるということです。
これは、手術しなければいけない虫垂炎を手術しないでおくと腹膜炎などをおこして死亡してしまうこともあるため、確定診断にいたらない場合でも手術をしておいた方が安全であるからで、けっして診断ミスではないのです。
虫垂炎の手術のあとで、実際に手術を必要とするほどの炎症がなかった3%の患者さんに、「実際に手術を必要とするほどの炎症がなかった」と伝えられるかどうかは別の問題として、医者はこれらの背景と情報を手術前に患者さんに伝え、患者さん側も正確に理解できているのであれば、手術後に「実際に手術を必要とするほどの炎症がなかった」と伝えることは決して難しいことではないはずです。
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AJR American Journal of Roentgenology. 2005;184:1802-1808.
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★☆)
研究対象は、症状から判断して虫垂炎の疑いのあった753人で、668人は手術の前に腹部CT撮影を受け、残りの90人は腹部CT撮影を受けませんでした。腹部CT撮影を受けた中で39%が腹部CT撮影により虫垂炎と診断され手術をうけました。腹部CT撮影を受けなかった90人は虫垂炎の疑いがあったわけですから、全員が手術を受けました。
摘出された虫垂を調べ、実際に手術を必要とするほどの炎症がなかった確率は、腹部CT撮影施行群で3.0%、未施行群で5.6%でした。誤診率(こういうと語弊がありますが、最高の医療技術をもっていても避けられない確率です)は腹部CT撮影施行群で若干少なかったのですが、統計学的な差は認められませんでした。
結論の中で著者らは「5年前、誤診率は20%でありそれが7%になった。さらにこの研究では腹部CT撮影の使用で3%になった」と述べています。
別の観点からこの論文を解釈してみましょう。この研究はハーバード大学マサチューセッツ総合病院という世界で有数な医療先端技術をもつ病院で行われました。世界で有数な医療先端技術をもっていても3%の誤診がある、つまり、最先端の医療機器と細心の注意を払っていても、手術を必要としない軽度の虫垂炎(カタル性虫垂炎)を手術してしまう確率は3%あるということです。
これは、手術しなければいけない虫垂炎を手術しないでおくと腹膜炎などをおこして死亡してしまうこともあるため、確定診断にいたらない場合でも手術をしておいた方が安全であるからで、けっして診断ミスではないのです。
虫垂炎の手術のあとで、実際に手術を必要とするほどの炎症がなかった3%の患者さんに、「実際に手術を必要とするほどの炎症がなかった」と伝えられるかどうかは別の問題として、医者はこれらの背景と情報を手術前に患者さんに伝え、患者さん側も正確に理解できているのであれば、手術後に「実際に手術を必要とするほどの炎症がなかった」と伝えることは決して難しいことではないはずです。
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