医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

牛乳有害説に農林議員困惑 正確な情報発信求める

2014年11月01日 | 総合
論文を7編同時に投稿していると、1編が終わった頃に別の論文の修正要求があったり、ダメだった場合にはランクを落とした別の医学雑誌に再投稿したり、そうしていると論文の審査の依頼や日本の医学商業誌の原稿の依頼があり、時間的にキリがありません。睡眠時間を削って対応していますが、ブログの更新が遅れてしまって申し訳ありません。 さて、

以下、日本農業新聞より引用
「牛乳の飲み過ぎが健康に悪い」とするスウェーデンの研究結果に対し、自民党農林議員が困惑している。研究チーム自らが「偶然の可能性も排除できない」としているにもかかわらず、インターネットなどで大きく報じられたため。過去にも「牛乳は有害」という誤った情報が流布され、消費の減少につながったことがあり、「正確な情報を発信すべきだ」との声が上がる。

問題の「牛乳有害説」は10月29日付の英医学誌に掲載された調査結果。スウェーデンの研究チームによる同国人の調査で「牛乳摂取量の多い人は、少ない人と比べて寿命が短く、女性では骨折が増える」との結果が示されたという。AFP通信などが伝え、日本ではヤフーをはじめとするインターネットのニュースサイトが大きく取り上げた。

ただ同通信によると、この結果は「牛乳を1日に3杯以上飲む人」という、やや極端な例。また当の研究チーム自体が、牛乳の摂取量と死亡率や骨折との関連性については「偶然の可能性も排除できない」としているという。

消費者に誤解を与えかねないこうした情報に対し、10月30日の自民党畜産・酪農対策小委員会でも懸念の声が上がった。

江藤拓前農水副大臣は「生産者に迷惑をかける」と指摘。かつても日本の著名な医師が牛乳有害説を唱え、牛乳の消費に悪影響を与えた経緯を踏まえ、農水省に「何か反論はできないか」と正確な情報を発信するよう求めた。
以上、日本農業新聞より引用

さらにAFP通信は
ただ研究チームは、今回出た結果が、異なった乳糖(ラクトース)耐性を持つ別の民族グループには当てはまらない可能性を指摘している。また、牛乳の栄養レベルは、栄養価の強化や、乳牛の飼料などによっても違いが生まれる。

また、研究結果は、「因果関係の逆転」と呼ばれる現象でも説明できる可能性がある。骨折の恐れが高くなる骨粗しょう症を患う人が、牛乳の摂取量を増やし、骨折が起きた際にその原因が牛乳にあるとされてしまう可能性だ。

研究の欠点を指摘する専門家もいる。研究では、食生活の研究でありがちな欠点として、牛乳摂取量の記録を自己申告に頼っている他、対象となった男女の身体活動の種類(骨が強化される体重負荷運動であるか否か)を特定していない。
以上、AFP通信より引用

私はこの件について、4年ほど前にアマゾンで以下の本のレビューを書きました(今でも一番上に載せていただいています)ので、今回の論文の原文を読んでみました。

なぜ「牛乳」は体に悪いのか ―医学界の権威が明かす、牛乳の健康被害 (プレミア健康選書)
私のレビューにも7つのコメントがありますが、こういう事に科学的に反論すると、いつも決まって「集団ヒステリー」が起きます。「福島の原発事故でガンは増えない科学的分析」の時と同様です。

その反対に、一番最近の「ちゃんりんしゃん」さんのレビューが的確に本質を指摘しています。この「ちゃんりんしゃん」さんの他のレビューを拝見すると「従軍慰安婦」とか「被ばくリスク」に関する本に対しても的確なレビューを行っていますので素晴らしいです。

↓さて、これが報道された論文です。
Milk intake and risk of mortality and fractures in women and men: cohort studies.
BMJ. 2014 Oct 28;349:g6015. doi: 10.1136/bmj.g6015.

(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

39~74歳の女性6万1000人を対象にして約20年調査した結果、女性の10年間の死亡率は1000人当たり126人だったが、牛乳を1日3杯以上飲む人では1000人当たり180人だった。でも、1日に飲む牛乳の量が1杯以下の人では、この割合は1000人当たり110人だったそうです。

よく読んでみると、新聞記事が記載しているように、この研究は毎日牛乳を3杯以上飲む人の結果です。それに牛乳の摂取量と死亡率の2つの因子を比べる際に、自分は骨が弱いと思っている度合いの因子が組み込まれていませんでした。骨が弱いと自分で思っているから牛乳の摂取量を意図的に増やした現象(これを交絡因子といいます)が否定できません、というかこれが原因でしょう。

この研究の欠点は、「自分は骨が弱いと思っているか?」という問いに5段階とか10段階でアンケートをとった結果をCox regression 解析の因子として加え、多変量で解析していないことです。

以下が原文の結論ですが、
Given the observational study designs with the inherent possibility of residual confounding and reverse causation phenomena, a cautious interpretation of the results is recommended.

論文の著者自身も、「交絡因子と因果関係の逆転現象の可能性があり、この研究の結果には注意深い解釈が勧められる」、と述べています。


「江藤拓前農水副大臣は「生産者に迷惑をかける」と指摘。かつても日本の著名な医師が牛乳有害説を唱え、牛乳の消費に悪影響を与えた経緯を踏まえ、農水省に「何か反論はできないか」とし正確な情報を発信するよう求めた。

農林水産省の皆さん、日本人約9万人を調査した10月に発表されたばかりの最新の結果がありますよ。1988年から2009年まで調べた最新の研究です。平均19年間調査されています。牛乳を摂取している人は摂取していない人に比べて、全ての原因の死亡率、動脈硬化性心臓病による死亡率、ガンによる死亡率が、多変量解析で補正しても低いです。女性は男性ほど効果がないようです。右上のJ-STAGEから無料でダウンロードできますからどうでしょうか?

Milk Drinking and Mortality: Findings From the Japan Collaborative Cohort Study.
J Epidemiol. 2014 Oct 18. [Epub ahead of print]


この報道に触発されたのか、私がレビューした本に以下のように金之助さんから8つめのコメントが来ていますが、このコメンテーターは上の研究結果のことを知りませんね。こういうコメントはいつも感情的です。残念です。

「結局、動物性タンパク質は少量にしとけってことだよな。それを牛乳は栄養食材のチャンピオンみたいに言って毎日飲ませようとする牛乳屋の商業主義に騙されるなってことだ。野菜や果物を多く取って肉や牛乳はちょぴっとにしとけばいい。トマトジュースやリンゴジュースの大量摂取で癌になるなんて聞いたことねえもんな。www 」


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4 コメント

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Unknown (応援者)
2014-11-01 07:47:13
こんにちは。
この牛乳の話は自分も気になっていました。研究というものは、本当に様々な因子を検討しないと、解釈を大きく誤ってしまうということを、改めて考えさせられます。
もちろん、報道者もちゃんも正しく深く理解して、正しく報道してほしいものですが。
・・・
論文等で睡眠時間を削る、というのはよくある話ですが、くれぐれもご自愛ください。健康あっての正しい思考や判断やお仕事かと思います。
釈迦に説法で失礼しました。
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Unknown (きらきら星)
2014-11-01 19:49:49
敗戦直後アメリカ軍からの脱脂粉乳で命をつなげた世代には理解不可能なこと。ばかばかしい論文。読むに値しない論文。
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ただし (pwdhang)
2014-11-02 07:56:07
骨粗しょう症は、苦手分野の一つなのでガイドラインについすがってしまいますが、ガイドライン的にはCa剤は推奨はCですよね。ですから、牛乳の効果を骨折対策としていいと宣伝するには無理があると思います。
死亡率の低下なり、何か考えるべきでは?
返信する
今回は牛乳のことです、Ca剤のことではありません (secondopinion)
2014-11-02 11:15:37
その論点の誤りは、今回は牛乳のことであり、Ca剤のことではないということです。
ビタミンを食品から摂取すると効果があるが、錠剤から摂取しても効果が出ないという論文がしばしば発表されます。骨粗鬆症のガイドラインでは、骨粗鬆症になってしまった「後で」「治療のため」のカルシウム剤「単独」の推奨レベルが低い(グレードC)といっているのであって、「骨粗鬆症の予防のため」や「骨を強くする」ための(ここでも食品と錠剤を混同してはいけないと思われます)推奨とは次元が異なります。
実際に、骨粗鬆症のガイドラインには「骨粗鬆症の治療のためには(食品からの)1日700~800 mgのカルシウム摂取が勧められる。」とされています。

また、骨粗鬆症のガイドラインには「カルシウム摂取と心血管疾患の関係が報告されている。これはカルシウム薬やカルシウムサプリメントの使用により,心血管疾患のリスクが高まる可能性があるというものである。ただし,同じ量のカルシウムを「食品」として摂取した場合には,そのようなリスクの上昇はなく,栄養素としてのカルシウムの特徴とも考えられている。」と書かれています。繰り返しますが、食品として摂取するのと錠剤として摂取するのを分けて考える必要があるのです。
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