医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

医者の腕を上げるための能力給制度は有効か

2005年10月15日 | 総合
勤務医の世界では報酬は相変わらずの年功序列制で、病院長など人格・人望といった要素が求められる立場を除いてほとんどが知識や技術よりも医者としての経験年数(すなわち年齢)で報酬が決まっています。従って、技術や知識を身につけても立場を変えることが難しいため、一般の企業ほど上昇思考は生まれないのです。この報告は、医者も一般の企業のように成果を上げた場合にそれに応じた給与があれば(pay-for-performance)、皆が競って腕を磨き合い医療技術が向上するのではないかという仮説に対する1つの回答でもあります。Journal of American Medical Association. 2005;294:1788.からの報告です。(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★☆☆)

疾患の診断率や患者さんの病状が改善したらボーナスが与えられる群(カリフォルニア医師グループ)とそうでない比較対照群(米国北西部医師グループ)で、2001年10月から2004年4月に約300の大規模医師団体に医療の質の改善がみられたかどうかを記載した報告書を配布して調査されました。評価する項目は子宮頸癌の診断率、乳ガンを検診するマンモグラフィーという画像の読影による乳ガンの診断率、患者さんのヘモグロビンA1c検査という糖尿病の指標が改善したかという三つで、それらの改善によって臨床の質が測られました。

臨床の質の改善は、子宮頸癌スクリーニングについてはカリフォルニア医師グループ5.3%対米国北西部医師グループ1.7%、マンモグラフィーについては1.9%対0.2%、ヘモグロビンA1c検査については2.1%対2.1%でした。米国北西部医師グループと比較して、カリフォルニア医師グループで能力給制度導入後に質が改善したのは子宮頸癌検診のみでした。しかも改善の差は3.2%にすぎませんでした(P=0.02)。

診断技術や質の向上には限界があるという本調査の限界はあるものの、三つのすべての評価基準について、もともとボーナスの対象になるような質の高い医療を提供していた医師がもっとも改善の伸び率が低かったが、ボーナスの取り分も一番大きかったようです。つまり「全員が同じパフォーマンス目標の達成ができるよう能力給を導入しても、支出に見合った質の改善をほとんどもたらさない可能性があり、もともと高パフォーマンスの医師が多額の報酬を得ることになる」という結果でした。

医師に能力給制度を導入しても、能力のある医師の取り分が増えるだけで能力を向上させるモチベーションにはならないという報告でした。確かに、能力を向上させるモチベーションとしてボーナス制を取り入れるなら、例えば五段階で1の医者が2になった場合と4の医者が5になった場合のボーナスを同じにする必要があります。しかし、それでは5の医者はどうするのかという問題や、4が5になった医者より1が3になった医者のボーナスが多いという問題も生じます。難しい問題です。

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