敬愛すべき人
とまりぎ
大先輩でもうかなりのお年になって、長い入院生活だった奥さんに先立たれた方がしばらく一人住まいであったが、一昨年に本人の心臓が弱って入院したのをきっかけに、退院してからは息子さんの家へ同居することになった。
心臓が弱っているから食事制限もあるようだが、血圧を下げるために血圧降下剤を飲んでいる。その中に利尿剤があって、塩分排出しているようだ。これがなかなかたいへんで、外出すると電車でも車でも一時間くらいでトイレ休憩が必要になる。
それで長時間になるときはその薬を飲まずに出かけるようにしているとのことだが、足腰も弱ってきているから、介護人と一緒に行動する。昔は吉祥寺へ行ったついでに井の頭公園へ入って、象のハナコを見ることもあったようだが。出かけた先でちょっと一杯なんてことはまずできない。
一人で出歩くのは、たかだか自宅から駅までと数駅先のにぎやかな街までぐらいだ。家の電話を使うこともあるが昔のテレホンカードがたくさんあるから、天気のいい日には駅前の公衆電話から電話をかけてくることがある。カードはいっぱいあるようで、けっこう長電話になる。同年輩の方々との連絡も、同じような調子だそうだから、会うことはほとんどなくなったことだろう。
遠くへ出かけることがあるのは、彼岸の墓参りぐらいだそうだが、息子さんの運転で行くのが一番楽なようだ。それも彼岸をちょっとはずして、車が混まないときを選んでいるそうだ。これが本人には大旅行なのだろう。
昔は、若いときの仲間たちとの年一回の旅行を楽しみにしていたころは、国内のかなり遠いところまで行ってきたようだったから、今となってはずいぶん情況が変った。せいぜい長生きをしてもらいたいものだ。
マロニエの先生が「敬愛すべき人」と称されたことを思い出し、お二人への敬意をこめて。