1972年ミュンヘンオリンピック襲撃事件を、現地で独占報道を行ったABCのスポーツ班の視点から描いた、臨場感あふれる作品です。
セプテンバー5 (September 5) 2024
1972年9月5日、ミュンヘンオリンピック開催中に、パレスチナ武装組織「黒い九月」がイスラエル選手団を襲撃するという衝撃的な事件が発生しました。オリンピックという平和の祭典の場が、一転して恐怖と悲劇に包まれた瞬間でした。
私自身、この事件についてはスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『ミュンヘン』を観て知りました。事件当時の私はまだ幼く、何が起こったのか理解することはできなかったのでしょう。
『ミュンヘン』は、事件そのものではなく、その後のイスラエル側の報復作戦を描いた作品ですが、私にとってスピルバーグ監督のベスト3に入る衝撃作でした。
本作『セプテンバー5』は、ミュンヘン事件そのものを描いていますが、実際の銃撃戦や射殺シーンはありません。代わりに、現場にいたABCのテレビクルーの奮闘を通して事件が進行していくという斬新な手法が取られています。
約90分という比較的短い上映時間ながら、圧倒的な緊迫感が持続し、見終えた後には重い余韻が残りました。
1964年の東京オリンピックが日本の敗戦からの復興の象徴であったように、1972年のミュンヘンオリンピックもまた、ドイツの戦後復興を意味していました。
そのため、ドイツ国内で開催されたオリンピックで、イスラエル選手団を標的としたテロが発生したことは、国際社会に大きな衝撃を与えました。
当時、アメリカではABCがミュンヘンオリンピックの独占中継を行っており、事件発生時も現場にいたのはスポーツ班のクルーでした。
報道班ではなくスポーツ班がこの事件を中継する決断を下し、独占中継権がCBSに移る時間になった際には、ABCのロゴをCBSの映像に重ねて放送を続けました。
また、プレスが事件現場となった選手村から締め出された際、あるスタッフがIDを偽装して選手として潜入し、内部の様子を伝え続けました。
一方、この事件では、ABCの中継映像がパレスチナ武装組織によって視聴されていたことが問題となりました。警察の動きがリアルタイムでテログループに筒抜けとなり、結果的に救出作戦の失敗につながったのです。
映画の中で、私にとって特に印象的だったのは、ドイツ人女性スタッフのマリアンヌの存在です。彼女はドイツ語を理解できるため、現地の情報にいち早くアクセスすることができました。
彼女はドイツ人という個人的な立場を超えて、人質の全員救出を願い、また正確な情報を世界に発信することを使命として任務にあたっていました。
しかし、人質が全員射殺されたことを知ったとき、「ドイツが判断を誤った。ドイツのミスです。」と痛恨の表情で語った姿が、ひときわ心に残りました。