パキスタンで起こった巨大企業による粉ミルク事件を、ボスニア・ヘルツェゴビナのダニス・タノヴィッチ監督が映画化。子どもたちの命を守るために、ひとりの営業マンが立ち上がります。
パキスタンの製薬会社で営業マンとして働いていたアヤンは、世界最大の食品会社に転職。医師たちにプレゼント攻勢して会社の主力商品である粉ミルクを販売し、好成績を上げますが、親しい医師から「粉ミルクを飲んだ乳幼児が次々と病気になり、命を落としている」と聞かされます。
昔、日本でもヒ素ミルクによる中毒事件があったことを思い出しました。当時は高度成長時代の真っ只中で、母乳より粉ミルクの方が栄養価が高いと指導されていて、わざわざ母乳を捨てて粉ミルクを飲ませるお母さんもいたと聞いたことがあります。
今回の事件では、粉ミルクそのものに毒性があったわけではなく、母親たちが不衛生な水で溶いたミルクを飲ませたために、子どもたちは命を落としていったということです。私は最初、それは企業が悪いのではなく、汚染された水で作ったミルクを飲ませる母親の方に問題があるのでは?と思っていました。
でもそれは私の理解不足で、パキスタンではきれいな水が手に入りにくいと知りながら、企業や医師たちは、母親たちに必要な知識を与えずに、世界一のミルクと喧伝し一方的に販売してきたのです。誰もが知る大企業の製品であり、母親たちは品質を信頼し、半ば憧れをもって、子どもたちに飲ませ続けてきたのだろうと想像しました。
企業は、パキスタンが抱えている問題を認識した上で、乳幼児の口に入るまで見届ける、倫理上の責任があったのだと理解しました。
アヤンは、これはいい製品だという自信があったからこそ、医師たちに勧めてきたわけですが、それが間違った結果を生んでしまったことに苦しみます。そして医師たちに粉ミルクを提供しないよう働きかけますが、企業も医師も聞く耳をもちません。それどころか、企業はアヤンの口を封じるために、家族への危害をもほのめかします。
アヤンは、人権団体から支援を得て、ドイツのテレビ局を通じて告発することになりましたが、いざ放送しようとした時にアヤンが会社から示談を持ちかけられていたことがわかり(アヤンはそれを断ったのですが)結局、ドキュメンタリーではなく、架空の物語(でも事実)として作られたのがこの作品だそうです。
問題は今も続いているために映画の一般公開がままならず、今回の日本での公開が世界初だということ。日本の食品会社もパキスタンでの粉ミルク販売をはじめているそうですが、これまでの経緯を考えて、相手国の立場にたったビジネスとなることを祈ります。
余談ですが... 原題のTigersは、映画の中で企業が社員を採用する時に、虎が吠えるまねをして鼓舞する場面から来ています。そういえばベン・アフレック主演の「カンパニーメン」にも同じようなシーンがありましたが、欧米ではポピュラーな人材トレーニングの方法なのかしら?
【参考サイト】
◆ ネスレ・ボイコット(Wikipedia)
◆ 森永乳業 パキスタンで粉ミルク合弁(日経 2016/12/27)
◆ 世界のヒット商品:パキスタン★12歳まで飲まれる粉ミルク 明治(毎日 2016/01/17)