セレンディピティ ダイアリー

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JWマリオット奈良の朝食

2021年01月30日 | +奈良

今回の奈良旅行では、2020年7月にオープンしたばかり JWマリオット奈良 に2泊しました。場所は近鉄かJR奈良駅からタクシーで約5分とやや離れていますが、アメリカ系ホテルならではの雰囲気が楽しめました。

ロビーラウンジの様子です。ホテル内にはあちらこちらに鹿のモチーフが使われていました。天井の照明は、日本を意識した風鈴を思わせるデザインです。

朝食は写真の左奥にあるシルクロードダイニングでいただきます。席がゆったりとしていてくつろげました。朝食は和食と洋食(アメリカンブレクファスト)から選べます。

和洋食ともに最初に運ばれてくるセット。ケールなどの緑黄色野菜を使ったサラダ、フルーツ、あまおうのヨーグルト、ジュース。私はグレープフルーツジュースをいただきました。

手前にあるのは前菜的な一品です。自家製こんにゃくの下にサーモンと青菜が隠れています。周りのソースは酢味噌です。

洋朝食は卵料理を中心としたラインナップです。夫はオムレツにベーコンにしました。

息子はJWマリオットの名前を冠したポーチドエッグに、ベーコンとソーセージという組合せ。

私は1泊目は和朝食にしました。松花堂弁当箱には焼き魚、湯豆腐、だし巻き卵、お漬物、お浸し、煮物など。手前左は、奈良名物の大和茶粥。私はこれが食べたかったのです。でも今回は、それ以上の収穫がありました。

右奥に見える「明日香汁」です。大根、にんじん、キャベツ、鶏肉などが入ったミルク入りのお味噌汁ですが、これが優しいお味でほっとするおいしさ。とっても気に入りました。家でもミルクを豆乳に変えて、よく作るようになりました。

洋朝食にはもちろんパンとコーヒーがつきますが、和食にもコーヒーのほか、パンも持ってきてくださったので、私はクランベリーのパンをいただきました。旅先ではついつい食べ過ぎてしまいます。

2泊目の朝は、夫と息子は和朝食。私は、エッグベネディクトとさんざん迷った挙句、めずらしいクロワッサンワッフルをいただきました。クロワッサン生地で作ったワッフルに、ジャムやクリーム、メイプルシロップをかけていただきます。

竹籠を編んだような美しい照明

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酒房 亜耶

2021年01月28日 | +奈良

京都でゆっくりランチを楽しんだ後は、いったんホテルに荷物を取りにもどり、近鉄で奈良へと向かいました。この日宿泊するホテルでくつろいでから、夜7時に息子と合流しました。

待合せは、近鉄奈良駅に近い居酒屋さん「酒房 亜耶」 お魚がおいしい息子お勧めのお店です。家にいたころは肉、肉という感じでしたが、いつのまにかお魚のおいしさがわかるようになったのかしら?

ビールとともに突出し3品。左からだし巻きたまごといくら、鶏肉の燻製、油揚げと青菜の煮びたし。どれもほっとするお味でした。

寒ぶりのお造りと、さわらの塩炙りお造り。お魚のメニューは好きなお魚を好きなように指定してオーダーします。どちらもおいしかった!

こちらのお店には奈良の地酒もいろいろあって、この日は「神韻」というお酒をいただきました。

伝助穴子の天ぷら。一口サイズになっていて食べやすい。

タコの唐揚げ。

ミンククジラの竜田揚げ。なんだか揚げ物が続きます。私はクジラは苦手なのでひとついただいただけですが、息子がこんなのを食べるようになったんだ。。。とそのことにもびっくりしました。

おでんはめいめい好きなタネを選んでシェアしていただきました。大根、じゃこてん、たまご、厚揚げ、ロールキャベツ。おだしがじっくりと染みています。

デザートに、神韻の酒粕のアイスクリームをひとつ頼んでシェアしていただきました。酒粕の風味が意外と強くちょっぴり大人のお味でした。

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FORNI @HOTEL THE MITSUI KYOTO

2021年01月27日 | +京都

南禅寺を訪れた後は、蹴上から地下鉄に乗って二条城前へ。二条城のすぐ隣り、三井家の跡地に2020年11月にオープンしたばかりの新しいホテル、HOTEL THE MITSUI KYOTO の中のイタリアンレストラン FORNI (フォルニ) でランチのコースをいただきました。

私は「本日の前菜」をいただきました。タラとじゃがいもをピュレしてセルクルで抜き、イクラとイカ墨のチュイールが飾られています。点々と置いたソースとエディブルフラワー、アートのような一品です。

こちらの前菜は「マルドンスモークソルト薫る鴨胸肉とフォアグラ リベスソースとパネットーネ」レッドカラントのソースと、イタリアのクリスマスのお菓子パネットーネがクリスマスらしい一品。

パリパリした極薄のフラットブレッドと、フォカッチャ。

「リングイネ フレスカ ペスカトーレ ブッラータとカカオソース」 海の幸のうまみがぎゅっと詰まったパスタ。上にブッラータチーズがのっています。

お店の名前が FORNI (窯) というくらいですから、やはりピッツァははずせません。これは「スペチャーレ」という名前のビアンコピッツァ。京都ならではのものと、”月桂冠” 酒粕クリームチーズと猪ベーコンのピッツァにしてみました。

メインのお料理「丹波地鶏胸肉のブラーチェ 人参ピューレと大黒本しめじ」です。

私は「本日の鮮魚 アクアパッツァ仕立て」をいただきました。本日の鮮魚は、姫路産鯛でした。

デザート「トルタ ディ ペーラ マスカルポーネクリーム」 洋梨のタルトです。

私は「クレマ リコッタと林檎のカンノーリ」にしました。シチリア名物、ゴッドファーザーでおなじみのカンノーリですが、細身で洗練された仕上がりでした。

中庭の景色を眺めながら、ちょっぴり和テイストのイタリア料理を楽しみました。

ホテルのロビーには松の枝を使った、和テイスト&ナチュラルなクリスマスツリー。

ロビーの横には小さなライブラリースペースがありました。

ホテルの入口には、三井家の重厚な門をくぐります。(写真は内側から) 低層階のこじんまりとしたホテルですが、和を生かしたラグジュアリーな空間でした。

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南禅寺 方丈庭園と水路閣

2021年01月25日 | +京都

永観堂 禅林寺を訪れた後、歩いて6分の「南禅寺」を訪れました。私は4年ぶりでしたが、夫は子どもの時以来かもしれない、とのこと。まったく覚えていないそうで、何もかもが新鮮に目に映ったようです。

南禅寺の中央に位置する「法堂」 法式行事や公式の法要が行われる場所です。

南禅寺の境内を通る、琵琶湖疎水の「水路閣」 明治時代に建設されたモダンな赤煉瓦の建物ですが、南禅寺の堂々たる風格の寺院建築に不思議とマッチしています。

水路閣の上部には水路が流れ、階段のあるところから上って見ることができます。水の流れは意外と速く、清らかな水音に心が洗われました。

水路閣のすぐ横にある別院「南禅院」 南禅寺発祥の地といわれ、鎌倉時代の池泉回遊式庭園を見ることができます。わずかに紅葉が残るばかりの寂しい木々の姿が、晩秋の庭園に趣を添えていました。

再び水路閣の下をくぐって「方丈」へと向かいます。

ここには、石と白砂で雄大な風景を表現した「方丈庭園」があります。小堀遠州が作庭した江戸時代初期の枯山水庭園で別名「虎の子渡しの庭」といいます。何度も来ている場所ですが、この風景を見ると心が落ち着きます。

横から見たところ。右の廊下は庭を鑑賞する旅行者や外国人でいつもにぎわっていますが、人ひとりいないというのは初めてのことです。

ここは方丈庭園のほかにも、すてきな庭園がいろいろあります。モダンアートのようなこちらのお庭、気に入りました。

苔の緑が印象的な「六道庭」

ジオラマみたいな愛らしいお庭。

最後に、歌舞伎「楼門五三桐」で石川五右衛門の「絶景かな、絶景かな」のセリフで知られる「三門」をくぐって南禅寺を後にしました。

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永観堂 禅林寺 の臥龍廊

2021年01月23日 | +京都

ちょっと間が空いてしまいましたが、京都・奈良旅行記の続きです。京都での朝食は、京都駅構内のイノダコーヒか、地下街のリプトンティーサロンにすることが多いですが、今回はリプトンで、私はコロネのモーニングセットをいただきました。

カスタードとチョコカスタードの入ったコロネ。紅茶はスリランカのディンブラです。

***

さて、この日は金閣寺を訪れるつもりでいましたが、直前に修復中だということをHPで知り、急遽 永観堂 禅林寺 を訪れることに変更しました。京都駅前から市バス5系統に乗って「南禅寺永観堂道」で降ります。(現在、金閣寺はきれいに修復されて公開中です。)

趣のある住宅街を通って禅林寺の総門に着くと、その前の苔庭に広がる散り紅葉の美しさに息をのみました。訪れたのは12月中旬のことで、紅葉はとっくに終わっていると思っていただけに、ちょっとうれしいサプライズでした。

禅林寺は紅葉の名所として知られていますが、私がこの日楽しみにしていたのはSNSで知った臥龍廊 (がりゅうろう) です。大玄関で靴を脱ぎ、渡り廊下や階段でつながれたいくつもの建物を歩いて回りました。

釈迦堂にある襖絵 (撮影不可) も見事でしたが、渡り廊下から見るお庭や、角を曲がる度に現れる思いがけない風景に魅せられました。

そしていよいよ臥龍廊です。

臥龍廊は、山の斜面に沿って巧みに木を組み合わせて作られた廊下です。階段が、龍の背中のようにぐにゃりと曲がっています。

階段から続く廊下もまた美しい。

下からは朝のお勤めが行われていたようで、読経の声が聞こえました。

うねる階段に眩暈を覚えるほどです。

先人の建築技術の高さに感嘆しました。

建物を出て、境内を散策しました。苔むしたお庭や見事な紅葉、大きな池の風景を楽しみました。

阿弥陀堂を外から見たところ。柱が極彩色で彩られているのが珍しい。中にはちょっぴり色っぽい (と言っては不謹慎ですが)「みかえり阿弥陀」がまつられています。

「遅れる者を待つ姿勢、思いやり深くまわりを見つめる姿勢、そして自分自身を顧み、人々とともに正しく前に進む姿勢」

書かれたことばに感銘を受け、自分もこうありたいと願いました。

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南インドの定食と軽食 三燈舎

2021年01月22日 | グルメ

お正月に「孤独のグルメ」で見て気になっていたこちらのお店。先日「神田まつや」さんに行く途中で前を通り、今度はここに行こうと翌週お昼を食べに行きました。「南インドの定食と軽食 三燈舎」 (SOUTH INDIAN MIALS & TIFFINS SANTOSHAM) というお店です。

物語を感じる入口。こちらの建物の2階にあります。

ディスプレイもすてきです。店内は白いぬり壁にカントリーテイストの椅子が並び、インド料理というよりカフェのような佇まいです。お昼時でしたが1組待ってすぐに席に案内していただきました。

私たちはお店の名前を冠したサントーシャミールスを1つずつ、それにキーマドーサを単品で1つたのんでシェアしました。

セットのドリンク。夫はラッシーにしました。甘すぎずさわやかな酸味です。アルミ製の水のポット、ナプキンを入れた容器、すべてが愛らしい。

ドーサはインド風のクレープです。何種類もありましたが、私たちはキーマドーサをいただきました。三角に折りたたまれたドーサに挽肉のカレーが包まれています。さらりとしたサンバル (豆のカレー) とチャツネのセットが添えられて添えられています。

チャツネの器がおままごとみたいに小さくてかわいい! ドーサはくるりと筒状になっていることが多いですが、三角というのは初めて見ました。パリっと薄く、サンバルやチャツネといっしょにいただきます。

サントーシャムミールスは、南インドの定食です。細長いバスマティライスに、バトゥーラ(揚げパン) とパパド(豆のおせんべい)。小さいクッキーのようなものはマサラワダ(豆の揚げもの)です。

それにカレーやスープをかけたり、ディップしたりしながらいただきます。小さなボウルに入ったお料理は左から時計回りにサンバル(豆のカレー)、ラッサム(トマトスープ)、トーレン(野菜の炒め蒸し)、魚のカレー、チキンカレー。

この中で一番辛いのはチキンカレーですが、どれも辛いというよりは何種類ものスパイスを使った豊かな味わい。さらりとしていてごはんやパンによくなじみます。下に敷いたバナナの葉のグリーンがお料理に映えて美しかったです。

私は食後にチャイをいただきました。スパイスの入ったミルクティですが、上下2つのカップの間で何度も交互に入れ替えてサーブしてくださるのが南インド風? こうすることでよく混ざるのか、それとも適温にしているのかもしれませんね。

おいしくて楽しい経験でした。

***

この後、日本橋三越に買い物に出かけたら、ちょうど吹抜けの中央ホールにてオルガン演奏の時間でした。

パイプオルガンとありますが、おそらくシアターオルガンだと思います。映画「すばらしき映画音楽たち」を見た後にシアターオルガンについて調べていて、日本では日本橋三越に唯一現存すると知りました。

演奏はヘンデルのラルゴ、スターウォーズのテーマ、オペラ座の怪人など。曲に合わせて音色を変えて演奏されていました。

吹抜けの中央ホールにある天女(まごころ)像。オルガンはこの像の後ろにあります。

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Metzgerei SASAKI &ゆずのマーマレード

2021年01月19日 | グルメ

田園調布にあるドイツ料理のレストランとデリのお店、Metzgerei SASAKI (メッツゲライ ササキ) でお昼をいただきました。先日偶然見つけて、気になっていたお店です。

お店はデリとレストランが並んでいますが、中でつながっています。デリの方から入ってレストランの方に案内していただきました。2人掛けのテーブルが4つほどの小さなお店です。

この日あった2種類のランチセットをそれぞれオーダーし、シェアしていただきました。

「ヴルスト(ソーセージ) 3種 ザワークラウト&じゃがいも」です。手作りのソーセージが3種類。2本はボイル、1本は焼いてありました。クセのないシンプルなお味で、どれもほんとうにおいしかったです。

酸味が勝ちすぎないザワークラウト、グレープフルーツ入りのキャロットラペ、グリーンサラダとオリーブと、彩りの野菜も美しい。

低温調理亜麻仁豚の季節野菜サラダ。低温調理の亜麻仁豚は、しっとりとして柔らかく、もりもり入った野菜とともにおいしくいただきました。

食後の飲み物はハーブティにしました。私はデザートもいただきました。5種類ある中から、バナナチーズケーキにしましたが、柔らかすぎず硬すぎず、しっとりした食感のチーズケーキはふんわりバナナが香ってほっとするおいしさでした。

食事のあとは、デリでソーセージを4種類購入しました。他にも、パテやキッシュ、キャロットラペ、ザワークラウトなど、ドイツとフランスのお惣菜が並び、どれもおいしそうでした。

***

お正月前に、知り合いの方からお家で収穫した柚子をたくさんいただきました。

お料理用に少し残した後は、マーマレードにしました。レシピがいろいろ出ていますが、一番簡単そうだったコチラを参考にして作りました。

皮がほどよくほろ苦く、おいしくできました。トーストやヨーグルトにのせて、毎日のようにいただいています。この時期はカップに入れて熱湯で薄め、柚子茶にしていただくのもお勧めです。

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神田まつや ごまそばと、とろろそば

2021年01月18日 | グルメ

創業明治17年のお蕎麦の老舗、神田まつやさんにお昼を食べに行きました。

ビルに挟まれて建つ木造の一軒家。歴史を感じる趣のある外観です。小さいながらもお店の前に植栽があり、雪吊りが施されているのが風流でした。コロナ感染予防対策に入口が少し開いています。

店内はグループごとに区切られているもののほぼ満席。それでもちょうどいいタイミングで待たずに席に案内していただきました。休日のお昼で、お酒を召し上がっている方たちが多かったですが、私たちは車で来ていたこともあって、すぐにお蕎麦をいただきました。

夫はごまそば、私はとろろそば、それに別添えで天ぷらを注文しました。

ごまそばは、ねりごまたっぷりのおつゆでいただくお蕎麦。稲庭などの細めのうどんをごまつゆでいただくことはありますが、おそばにごまつゆとはめずらしい。でもお蕎麦をからませると、胡麻の香ばしさが蕎麦の風味によく合い、コクのあるおいしさが楽しめました。

揚げたての天ぷらは、お蕎麦のおつゆとは別の天つゆでいただきます。身がむっくりとした大きな海老は、衣もサクサクして最高においしかったです。海苔は斜めに半分だけ衣がディップされていて、2つの食感が楽しめました。

私はとろろそばをいただきました。冷たいお蕎麦にしましたが、せいろではなく丼できたので??と思ったら、冷たいそばつゆでのばしたたっぷりのとろろの中に、お蕎麦が入っていました。とろろ好きにはこたえられないおいしさで、濃厚なお味を堪能しました。

2人とも変わりつゆ?でお蕎麦をいただきましたが、この後 夫がもりそばをお代わりしたので、そばつゆそのもののお味も味わいました。ややおしょうゆが強いと感じましたが、おそばを軽くくぐらせる江戸前の食べ方にはちょうどよいかもしれません。

 

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JR上野駅公園口

2021年01月16日 | 

2020年11月に全米図書賞 (翻訳文学部門) を受賞。ニュースで知って図書館で予約を入れていましたが、既に文庫になっているのを本屋さんで見てその場で購入しました。2014年に出版された小説です。

柳美里「JR上野駅公園口」(Tokyo Ueno Station)

タイトルになっているJR上野駅公園口は、美術館によく行く私にはなじみ深い場所です。公園口を出てすぐ横断歩道を渡ると東京文化会館、その先には国立西洋美術館、さらに進むと東京都美術館。

広大な上野恩賜公園は、春の満開の桜並木、秋の紅葉や銀杏の黄葉など、四季折々の風景が美しく、適度な高低差もあって散策するのが楽しい場所です。

でもそうした晴れやかな表の顔とは別に、ここはさまざまな理由から住む場所を失った人たちが集まり寝泊まりする一大拠点でもあるのでした。昼間はほとんど目にすることはなく、意識したこともありませんでしたが、夜はまったく違う景色が広がっているのでしょうか。

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主人公となるのは福島出身の72歳の男性で、現在の上皇と同じ年に生まれました。息子は現在の天皇陛下と同じ日に生まれ、お名前から一字をとって浩一と名付けました。天皇家と何かと縁のある主人公ですが、その人生は苦難の連続でした。

地元で結婚して一男一女をもうけるも、長年家族と離れ、各地で出稼ぎをして生活を支えてきました。最初の悲劇は長男を若くして突然亡くしたこと。そして仕事をリタイアしてようやく故郷で夫婦水入らずの生活が始まると、今度は妻が突然の死を迎えます。

それでも彼にはいっしょに暮らす優しい孫娘がいたのに、なぜかこれ以上孫に迷惑をかけてはいけないと家を出ることを決断し、ひとり上野にたどりつくのでした。

う~ん、正直この心理が私にはよくわからなかった。家があり、年金もあったのに、どうして家を飛び出したのか。勝手に家を出て行方不明になったら、それこそ家族にとっては心配で、よっぽど迷惑だと思うのですが。。。

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誰とも話すことなく、目さえも合わせることなく、息を詰めるようにひっそりと生きていく日々。彼の耳には、道行く人々の会話が流れるように聞こえ、通り過ぎていきます。彼は自分の身の上を一切誰にも語らず、身柄を特定できるものを何一つ持ちません。

存在を消すかのように暮らしている彼らですが、上野に行幸啓 (天皇・皇后の外出) がある時には、前もって通達が出され、その間は自分の所持品をまとめ、居場所を移さなければなりません。

自分が住まうコヤが、片付けるとたちまちゴミにしか見えない時のみじめな気持ち。そして敬愛する天皇に、決して目に触れさせてはいけない自分の姿。

***

終盤近くでは、ふるさとの福島が東日本大震災の津波に飲み込まれ、重なる不幸のとどめというべき描写もあります。救いのない小説ではあるのですが、戦後日本の高度経済成長の陰で置き去りにされてきた負の部分を、目の前に突き付けられた思いがしました。

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真実

2021年01月13日 | 映画

是枝裕和監督が、カトリーヌ・ドヌーヴ主演、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク共演でおくる、フランスを舞台にしたヒューマンドラマです。

真実 (La Verite / The Truth)

公開時に見逃してしまった本作が Amazon Prime にあったので鑑賞しました。この作品、すご~くよかったです。昨年見ていたらベストに入れていたかも、というくらい私はとっても気に入りました。

フランスを舞台にフランスの名優たちが出演する、フランス映画ではあるのですが、まぎれもない是枝監督の作品になっています。家族がテーマになっているところ、子どもの自然な演技が引き出されているところなど、随所に是枝監督らしさを感じました。

母娘の長年の確執を描いてはいるのですが、重すぎず、むしろ軽やかさがあるのが心地よい。シニカルなセリフが飛び出したり、ところどころにユーモアがしのばせてあったり、流れるようなストーリー展開と会話のキャッチボールを楽しみました。

大女優のファビエンヌ (カトリーヌ・ドヌーヴ) が自伝を出すことになり、ハリウッドで脚本家をしている娘のリュミール (ジュリエット・ビノシュ) が家族とともにパリ郊外に住むファビエンヌのもとに、お祝いという名目で駆けつけます。

ところが自伝の内容は案の定、自分の都合のいいように書かれていて、リュミールは憤慨。長年ファビエンヌの秘書を務めてきたリュックも、自分のことが一言も書かれていないと、がっかりして故郷に帰ってしまいます。

リュミールが何かと話題にする ”サラ” という人物は誰なのか。やがて彼女はファビエンヌのライバル女優で、家庭を顧みないファビエンヌに代わって、リュミールにとっては母親のような存在でもあったらしいことがわかってきます。

母親である前に女優であること。自由奔放でわがまま放題に生きてきたかのように見えて、ファビエンヌ自身も犠牲を払い、自分の生きるべき道を突き進んだきたのでしょう。終盤に彼女がふと見せた素顔。その強さと弱さが彼女の真実の姿なのだと思います。

自伝のタイトルは「真実」ですが、女優が真実なんか書くわけないじゃない、というファビエンヌの開き直りがおもしろい。カトリーヌ・ドヌーヴはさすがの貫禄でした。

リュミールの幼い娘シャルロットが、フランスの子役に「私も女優なの。ハリウッドの」というところがかわいかった。亀のピエールにまつわるあれこれもおかしかったです。

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