セレンディピティ ダイアリー

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月百姿×百段階段 @ホテル雅叙園東京

2024年11月09日 | アート

チケットを持っている友人に誘っていただき、目黒のホテル雅叙園東京で開催されている「月百姿×百段階段 ~五感で愉しむ月めぐり~」を見に行ってきました。

かつて「目黒雅叙園」と呼ばれていたこのホテルは、いつの間にか名前が変わっていました。雅叙園には何度か訪れたことがあるのですが、実はその豪華絢爛な雰囲気が少し苦手でもあり、しばらく足が遠のいていました。

百段階段については、名前は知っていましたが、実際に目にするのは今回が初めてです。派手な雛壇のような階段を想像していましたが、老舗旅館を思わせる風格のある階段で、見応えがありました。階段の途中途中に踊り場があり、それぞれが七つの広間へとつながっています。

雅叙園は料亭として開業し、日本で最初の結婚式場としても知られています。当時としては珍しく、日本料理だけでなく中国料理も提供されていたそうで、中国料理店でよく見られる円卓のターンテーブルを考案したのも雅叙園だそうです。

そういえば昔、仕事でお世話になった先輩が雅叙園で結婚式を挙げ、その時も披露宴で中国料理がふるまわれたことを懐かしく思い出しました。

前置きが長くなりましたが、今回の催し「月百姿×百段階段」では、独特の装飾が施された七つの広間を巡り、月を題材にした浮世絵や工芸品、現代アートやインスタレーションを鑑賞しました。

全体に刺繍が施された豪華なお着物。

自然の素材で染められた衣装や反物。和紙を用いた月のオブジェ。

ススキ野原をイメージしたインスタレーション。

円卓を配した中国風のお部屋。

四季折々の植物や果物が描かれたお部屋。ボタニカルアートのような風情があり、このお部屋の装飾が特に気に入りました。和紙を使った現代アートとのコラボレーションも素敵でした。

鏑木清方による欄間画を見ることができたのも収穫でした。

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DIC川村記念美術館

2024年10月26日 | アート

千葉県佐倉市にあるDIC川村記念美術館に行ってきました。

この美術館は、DIC株式会社(旧・大日本インキ化学工業株式会社)の創業家である川村家三代が収集した美術品を展示しており、佐倉市郊外の森に広がる同社の研究所と同じ敷地内にあります。

美しい庭園に囲まれたこの美術館は、現代美術のすばらしいコレクションでも知られており、以前から訪れたいと思っていたのですが、東京から車で約1時間と少し距離があるため、なかなか足を運べずにいました。

この夏、突然同美術館が2025年1月末で休館することが発表され、慌てて訪れたという次第です。なお、休館の発表後、来場者が急増し、そのため休館開始は2025年3月末まで延長されたそうです。

エントランスを抜けて森の小径を進むと

視界が開け、美しい芝生と噴水のある池の風景が広がります。

写真で何度も目にしてきたこの美術館は、「ヨーロッパのワインセラーのよう」と形容されることが多いですが、私自身は密かに「ムーミンの家」と呼んでいました。設計は建築家・海老原一郎氏で、DIC二代目社長の旧制中学時代の同級生だそうです。

館内のコレクションは20世紀美術が中心ですが、それぞれの展示室が多彩なコレクションの特徴に合わせて設計されており、作品が最も映える環境で鑑賞できるような工夫が施されています。

マーク・ロスコの「シーグラム壁画」シリーズの7点が一堂に並ぶ展示室。作品に合わせて照明はやや暗くされ、まるで洞窟の壁画に向き合っているかのような感覚にとらわれました。

「西川勝人 静寂の響き」という企画展も開催されていました。西川勝人さんの作品を今回初めて知りましたが、白を基調としたさまざまな作品やインスタレーションが、心にそっと語りかけるような優しさと清らかさにあふれていて、深く感銘を受けました。

写真にある24枚組の「静物」という作品は、以前山梨県立美術館で見た栗田宏一さんの土のアートを思い出させました。

館内での鑑賞を終えた後は、広大な庭園を散策しました。自然散策路を進んでいくと、その先には広場が広がっていました。

広場の周囲には桜の木が並んでおり、春にはお花見を楽しむ人たちで賑わうことだろうな、と想像しました。庭園はチケットがなくても入れるエリアで、テニスコートなどもあり、地域の憩いの場として親しまれているようでした。

広場の中央にはヘンリー・ムーアのブロンズ彫刻が堂々たる存在感を見せていました。

気持ちのよいテラスもあり、休憩スペースとして利用できます。

紫陽花がきれいな色を保ったままドライフラワーになっていました。

かわいらしい赤い実。

お花の少ない時期ですが、ところどころで可憐な花々に出会えました。

池では白鳥の夫婦がのんびりと。のどかな風景が広がっていました。

(次の記事に続きます。)

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近代の日本画展 @五島美術館

2024年05月25日 | アート

招待券を持っている友人が誘ってくれて、いっしょに世田谷区上野毛にある五島美術館に行ってきました。

[館蔵] 近代の日本画展(6月16日まで開催)

五島美術館は、東急電鉄の創業者である五島慶太氏が、事業のかたわら自ら蒐集してきた古文書や日本画などの貴重な美術品の数々を収蔵、公開している美術館です。以前から訪れたいと思っていたので、思いがけないうれしい機会となりました。

そして本展のテーマは、私の好きな近代日本画。館蔵の近代日本画コレクションから、花鳥画を中心とした約40点を鑑賞しました。この他、古文書、古記録、墨・硯など、貴重な歴史資料も見ることができました。

游鶴図 橋本雅邦筆 明治29年(1896)頃

鴨鷄図 川端玉章筆 明治時代・20世紀

啄木 小杉放菴筆 昭和時代・20世紀

葉っぱが葉脈まで精密に描き込まれていて、まるでボタニカルアートのようでした。

紅梅 山口蓬春筆 昭和30(1955)年

冨貴盤 川端龍子筆 昭和21(1946)年

今回、私が一番気に入った作品です。大好きな芍薬の花が大胆に描かれていて、西洋画のような華やかさがありました。

館内で作品を鑑賞した後は、そのままお庭に出られます。高低差のある地形を生かした広大な庭園には、古墳、2つのお茶室、菖蒲池などあり、変化に富んで散策が楽しめました。

皇太子様(現天皇陛下でしょうか)によるお手植えの松

すぐ近くに二子玉川の街。天気がよいと遠くに富士山が見えるそうです。

赤門と、ユーモラスな表情の石仏。

庭園を出ると、二子玉川までは歩いてすぐ。週末の二子玉川はファミリーで大賑わいですが、ようやく中華のお店に空きを見つけて、ランチをいただきながらおしゃべりを楽しみました。

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マティス 自由なフォルム @国立新美術館

2024年03月17日 | アート

招待券をいただいて、乃木坂の国立新美術館で開催中の「マティス 自由なフォルム」展に行ってまいりました。

ポスターのメインビジュアルは「ブルーヌードIV」(1952) 。オルセー美術館所蔵、マティスの切り絵の代表的作品です。肉体賛歌を感じる、私も大好きな作品です。今回の美術展ではニースのマティス美術館が所蔵する作品が多く展示されていました。

マティス展は、思えば昨年の夏に行ったばかりですが

【過去記事】マティス展 (2023-08-02)

今回は特に、舞台衣装やタペストリーの数々が心に残りました。また、前回映像で見たヴァンスのロザリオ礼拝堂を、再現展示で体感できたのも楽しかったです。絵画のみならず、総合芸術家としてのマティスの魅力を堪能しました。

これはマティスの作品ではなく、マティスの所有品で「赤いムシャラビエ」というタイトルの北インドのタペストリーです。ムシャラビエというのはアラブの格子出窓だそうですが、刺繍とアップリケが施され、透かし模様の入った手の込んだものでした。

エキゾチックな赤色がいかにもマティス好み。このタペストリーが背景に描かれたマティスの作品「小さなピアニスト、青い服」(1924) と並んで展示されているのも、おもしろい趣向でした。

ストラヴィンスキーが作曲したモダンバレエ「ナイチンゲールの夜」が1920年にパリで初演された時、マティスが美術と衣装を担当しました。クラシックバレエとはひと味違う衣装が斬新。バレエの映像も迫力があって、興味深かったです。

「ポリネシア、海」(1964)  1964年のマティスの切り絵をもとにしたタペストリーです。

ここから先の展示室は写真撮影可となっていました。

「花と果実」(1952-53) 写真だとお伝えしにくいですが、5枚のキャンバスを並べた大型の作品です。果実はどこに? 中央の左寄りに、オレンジ3つが3組描かれています。

テラコッタのタイルが12枚並べてあります。どれもマティスらしいカラフルな切り絵のモチーフです。ワカメ?のように見えるのは「パルメット」というヤシの文様のようです。

「蜜蜂」(1948) こういう幾何学的な作品、好きです。蜜蜂はどこに? おそらく白と黒の四角で構成されているのが蜜蜂を表しているのだと思います。

前回のマティス展と同様、ヴァンスのロザリオ礼拝堂に関する展示です。マティスは礼拝堂の調度品だけでなく、司祭服一式もデザインしました。色違いで6種あり、こちらは白地の司祭服一式です。海藻類のフォルムがデザインされているということです。

フィナーレを飾るのは、ヴァンスのロザリオ礼拝堂の再現展示です。前回のマティス展で見た映像が、立体的に再現され、臨場感をもって体感することができました。

ライティングで、朝から昼、夕方、そして夜へと日光の移り変わりが表現され、真っ白な礼拝堂内に反射する、青と黄色のステンドグラスの模様がとてもきれいでした。

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HAIBARA Art & Design 和紙がおりなす日本の美

2024年01月04日 | アート

年末に、三鷹市美術ギャラリーで開催されている「HAIBARA Art & Design 和紙がおりなす日本の美」展に行ってまいりました。

はいばら(榛原)さんは文化三年(1806年)日本橋に創業した和紙の老舗です。私ははいばらさんの千代紙やレターセットが大好きで、長く愛用してきました。

【過去記事】はいばらさんでお買い物 (2010-04-19)

この頃は永代通りにお店がありましたが、その後再開発でお店が入っていたビルが建替えとなり、今は中央通りに、漆黒の超モダンなファサードの店舗を構えていらっしゃいます。

本展では主に、明治から昭和初期にかけて榛原さんと交流があった、河鍋暁斎、川端玉章、竹久夢二などの美術家たちが手がけた華麗な千代紙や、美しい絵柄の封筒や便箋などの作品の数々が紹介されていました。

ポスターにある千代紙の柄は、河鍋暁斎の「長陽」。私もこの柄の蛇腹便箋のレターセットを愛用しています。

仕事で外国の方に御礼を差し上げる際には、いつもこの封筒を使っています。便箋は蛇腹折りになっていて、巻紙のように手紙の長さにあわせて切って使えるのがユニークです。

***

本展では、華やかで愛らしい多色刷りの千代紙の数々に目を奪われました。

河鍋暁斎「牡丹」

川端玉章「貝合わせ」

八重菊

美しい絵短冊や絵封筒、お正月らしいぽち袋には楽しい絵柄もありました。

長野草風「絵短冊(十二ヶ月絵短冊・部分)」

絵封筒(洋風絵封筒)

一足早く、お正月気分を満喫しました。

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三都ガラス物語 @箱根ガラスの森美術館

2023年12月29日 | アート

箱根ガラスの森美術館の続きです。館内には2つの美術館があります。まずは、ヴェネチアン・グラス美術館で開催中の企画展を見ました。

ヴェネチア、プラハ、パリ 三都ガラス物語 ~歴史を駆け抜けた華麗なるガラスの世界~

15分のガイドツアーに参加しましたが、これがとてもよかったです。作品にはそれぞれ詳しい説明書きがついていて、解説映像も流れていますが、ガイドの方のお話が興味深く、見どころを押さえて鑑賞することができました。

エンジェル文蓋付ゴブレット(バカラ)1870-1910年頃
天使の模様がついた愛らしいグラス。

レース・グラス・コンポート(ヴェネチア)17世紀初
ヴェネチアングラスの初期の作品です。初期の頃は、透明と白いグラスを層状に重ね、ひねることによってレース模様を作り出す技法が多く使われたそうです。

美術館のドーム型の天井には優美なシャンデリア。

天使鹿文蓋付ダブルゴブレット(ボヘミア)18世紀
ボヘミアン・グラスというと、厚手のカットグラスが思い浮かびますが、こんなに繊細なグラスもあるのですね。淡いピンクが愛らしく、私は一番気に入りました。

エンジェル装飾台座付鉢 BAMBOUS TOUS(バカラ)1890年頃
天使の装飾を施した金属と組み合わせた美しい鉢。

アイリス文花器一対(バカラ)1900年頃
アール・ヌーヴォー全盛期に開催されたパリ万博に出品された作品。

金彩竹文花器一対(バカラ)1878年頃
竹のデザインが施され、19世紀後半のヨーロッパで流行したジャポニズムの影響が見て取れる作品です。

クリスマスにあわせて、ヴェネチアン・グラスのイエスの降誕セットが展示されていました。

ヴェネチアン・グラス美術館でクラシックでゴージャスなグラスの数々を鑑賞した後は、ガラスのローズガーデンを通って、隣接する現代ガラス美術館へ。

最初に見たのは、イタリアのリヴィオ・セグーゾさんという現代グラスアーティスの作品の数々。透明ガラスを組み合わせたシンプルで洗練された作品でした。

デイリ・チフーリさんという、アメリカ出身ヴェネチアに留学したというグラスアーティストの作品の数々。海の生物を思わせるカラフルで幻想的な作品でした。

庭園にもさまざまなガラスのアートが展示されています。上は芝生の上に無造作に置かれたガラスの風船。

日が暮れると明かりが灯り、これもまた幻想的な美しさでした。

長くなりましたが、クリスマスイルミネーションに続きます。

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デイヴィッド・ホックニー展

2023年09月08日 | アート

招待券をいただいて、東京都現代美術館で開催中の「デイヴィッド・ホックニー展」を見に行ってまいりました。

イギリス出身の現代の画家、デイヴィッド・ホックニーの大規模個展です。

本展では、イギリス各地やロサンゼルスで制作された代表作の数々のほか、近年制作された風景画の「春の到来」シリーズ、コロナ禍のロックダウン中に、iPadを使って描いたという実験的作品など、約120点が展示されています。

ポップで明るい代表作品の数々のほか、あっと驚く表現手法で制作された大型の作品など、どれも好奇心を刺激して楽しめました。ポスターに描かれているのは「春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年」の一部ですが、この作品

全体は、32枚のカンヴァスを組み合わせた、幅10m × 高さ3.5m という大型の油彩画です。そもそもカンヴァスを組み合わせて大きな作品を作る、という発想にびっくり。運ぶ時は分けて梱包し、展示先で並べればよいのですから合理的ですね。

No. 118、2020年3月16日「春の到来 2020年」より

展示室に入って最初に出迎えてくれたのがこの作品です。2020年の春といえば、ちょうどコロナが広がり始めた頃ですが、それを微塵と感じさせない明るさに心が洗われました。そういえば、私もコロナで家に4日間籠城?した後に目にした春の花々に

心を洗われたことを思い出しました。(コチラの記事) 水仙の葉の重なり合いは、近くで見ると尾形光琳の「燕子花図屏風」を思い起こしました。

「自画像、2021年12月10日」

そしてこちらが自画像。おしゃれで、お茶目なおじさまですね。エルトン・ジョンにもちょっぴり似ているような...。

「スプリンクラー」 1967

しゅんしゅんと回るお庭のスプリンクラーはアメリカ時代の懐かしい思い出ですが、家の作りは窓が大きい西海岸スタイルです。バービーランドのようなどこか作り物めいた風景が、いかにもアメリカらしい。

2022年6月25日、「額に入った」花を見る

画面で見ると小さいですが、約5.2m × 3m ある大きな作品です。絵の中に額縁の絵というと、私はマティスを思い浮かべますが、これだけ並ぶと圧巻です。

「ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作」 2007

こちらも約5m × 12m の大きな作品ですが、縦5枚、横10枚、なんと50枚のカンヴァスを組み合わせているのです。メイキング動画がギャラリーで公開されていました。

Making Bigger Trees near Warter, 2007

ラストは、コロナ下に iPad で描いた絵画をつなぎあわせて構成した全長 90m の作品です。

「ノルマンディの12ヶ月」(部分) 2020-21年

広いギャラリーに帯となって続く壮大な絵巻に圧倒されました。(写真撮影ができました)

2019年にコロナを逃れてフランス、ノルマンディ地方に移り住んだホックニーは、世界中の都市がひっそりと静まり返っている間、周辺の自然や季節の移ろいを見つめ続けました。そこには、かけがえのない豊かな風景が広がっていました。

それにしても、こんな風に iPad でちゃちゃっと (ではないかもしれませんが) 身近な風景や旅先の景色が描けたらどんなに楽しいでしょう。御年80歳を越えるおじいちゃまに、危機を乗り越える力、新しいものにチャレンジする意欲を学びました。

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マティス展

2023年08月02日 | アート

平日にお休みをいただいて、上野の東京都美術館に「マティス展」(HENRI MATISSE: The Path to Color) を見に行ってまいりました。

ポスターのメインビジュアルは「赤の大きな室内」(1948)  マティスらしい作品です。

モダンアートが好きで、マティスが好きなので楽しみにしていた展覧会です。赤を基調にした明るい色彩。ポップでデザイン性があるところ。私は食卓の風景が好きなので、マティスの室内画にも心惹かれます。

本展は、パリのポンピドゥーセンターのコレクションを中心に、地下1階~2階と3フロアにわたって展示され、各フロアがそれぞれ違った趣向となっていて、いろいろな角度からマティスの魅力が堪能できました。

読書する女性 (1895)

初期の作品の中では「自画像」(1900) と、この作品が特に心に残りました。穏やかな内省的な写実画に、これがマティス?!と新鮮な驚きを感じました。描かれている女性は、マティスの当時のパートナーだそうです。

パイプをくわえた自画像 (1919)

1階の展示室は、マティスの全盛期の作品の数々で、すべて写真撮影が可能でした。

私の心をとらえたのがこの素描。画材は墨とありましたが、黒いチョークのようなものでしょうか。ラフな線がいい味わいになっています。眼鏡の感じが玉村豊男さんに似ていると思いました。^^

赤いキュロットのオダリスク (1921)

このオダリスクのシリーズは、ポーラ美術館のマティス展で見た記憶があります。イスラム風の衣装を着たモデルが、長椅子でポーズを取り、エキゾティシズムたっぷりの作品です。背景もイスラム風。いつものマティス・レッドとは違う、臙脂(えんじ)色がすてきです。

緑色の食器戸棚と静物 (1928)

ちょっぴりセザンヌ風だな、と思いながら見ていました。マティスの室内画は、描かれる食器もすてきです。

夢 (1935)

まるで映画のワンシーンのようで、ひと目見て引き込まれました。描かれているのは、マティスの最期までそばで支えたアシスタントであり、モデルを務めた女性で、画家との信頼関係の中で安心した表情を浮かべています。

黄色と青の室内 (1946)

マティスといえば赤のイメージがありますが、黄と青のこの作品もすてきだなーとパチリ。

マグノリアのある静物 (1941)

最初はクチナシかと思ったら、マグノリア (タイサンボク) でした。アメリカの南部を代表する懐かしくも大好きな花に思わずパチリ。おそらくマティスが晩年をすごした南仏ヴァンスと植生が同じなのでしょうね。

芸術・文学雑誌「ヴェルヴ」の表紙

マティスらしい切り絵を使った雑誌の表紙デザイン。ポップで動きがあって楽しくて、見ているだけで元気になります。

2階は、マティスが最晩年に手掛けたヴァンスのロザリア礼拝堂を、取り上げていますした。白くてモダン、陽当たりよく、こじんまりとした愛らしい礼拝堂でした。教会には必ずあるイエスの誕生の物語も、マティスの手にかかると、漫画チックでかわいらしい。

中でも私が心を打たれたのは、ステンドガラスのブルーとイエローが反射して、時の経過とともに色が変化していくキャンドルです。心が洗われる清らかな空間でした。

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ウェス・アンダーソンすぎる風景展

2023年06月02日 | アート

山本基さんの個展の後、同じく天王洲の寺田倉庫G1ビルで開催されていた「ウェス・アンダーソンすぎる風景展 あなたのまわりは旅のヒントにあふれている」を見に行きました。

本展のことは、いつもお世話になっている担当の美容師さんに教えていただいたのですが、会場に入る前から、インスタ世代の若い女性たちでにぎわっていてびっくりしました。ウェス・アンダーソンは「グランド・ブダペスト・ホテル」などでおなじみの映画監督。

私は彼の映画はそれほど好みではないのですが、独特の映像表現には強く惹かれるものがあります。左右対称の構図や、キャンディのような色使い。ポップでキュートでレトロな映像は、おもちゃ箱をひっくり返したようなわくわく感があります。

そんなウェス・アンダーソンの映画に登場しそうな画像を投稿する AWA (Accidentally Wes Anderson) というインスタアカウントから作品をセレクトし、2022年韓国で展覧会を開催したところ、大好評だったそうです。

今回の日本展では旅をテーマに厳選した作品が、テーマごとに展示されています。本展は5月26日で終了してしまいましたが、大盛況を受けて 11/25 ~ 12/28 に渋谷ヒカリエのホールで再開催されることが決まったとのことです。(fashionsnap.com

このケーブルカーは、(ウェス・アンダーソン監督作品ではないですが) ラ・ラ・ランドに出て来ましたよね。ロサンゼルスの、今は閉業している Angels Flight というケーブルカーです。

アメリカのノスタルジーあふれる風景。

ウェス・アンダーソン監督といえばピンクとペパーミントグリーンのイメージです。

ヨーロッパ、中東、アメリカ、そして日本の風景もありましたが、私が惹かれるのはやはりアメリカのノスタルジーあふれる風景です。写真を見ているうちに、昔大好きだったアヲハタのCMを思い出して、映像を探してみたら... なんと YouTube にありました。

アヲハタ 55ジャム マイアミロケ 1997

撮影された場所は、マイアミのアールデコ地区 (Art Deco District)。

1925年パリで生まれたアールデコは1930年代ニューヨークで流行し、さらにマイアミで独自の進化を遂げました。パステルトーンのレトロな建物が立ち並ぶこの地区は、建築好き、古いものが大好きな私には魅力的な場所でした。

そんなことを思い出しながらの楽しい時間となりました。

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山本基|時に宿る - Staying in Time -

2023年05月28日 | アート

ランチの後、天王洲の YUKIKOMIZUTANI (TERADA ART COMPLEX II) で開催された、山本基さんの個展「時に宿る - Staying in Time -」を見に行ってまいりました。展覧会は5/6に終了しましたが、遅ればせながら記録を残しておきます。

山本基さんは、塩を使ったインスタレーション作品で国際的に活動されている、現代美術のアーティストです。私は、2015年に銀座の POLA MUSEUM ANNEX で山本さんの作品に初めて出会って深い感銘を受け、以来心に留めています。

今回は、コロナ下の2020年に THE GINZA SPACE で開催された土屋仁応さんとのコラボ展以来の作品展ということで楽しみにしていました。 これまでの山本さんの世界を継承しつつ、素材や表現に広がりが感じられ、発見に満ちた作品展でした。

かわひらこ(Butterfly)2023 Acrylic paint on panel

時を纏う(Shrouded in Time)2023 Acrylic paint on mirror

たゆたう庭(Floating Garden)2022 Acrylic paint on canvas

これまでの塩を使ったインスタレーション作品が、色彩を施したパネルやキャンバス、鏡の上に展開し、垂直に展示されていたので、え?!と驚きました。塩に糊を混ぜて固めているのかしら...?と不思議に思って、後でギャラリーのスタッフにお聞きしましたところ

アクリル絵具にガラスの粉末を混ぜたものを絞っているそうです。アクリル絵具だけでなく、ガラスの粉末を混ぜることで、塩で制作した時と同じくらいの立体感を出すことができるのだそうです。

塩の時には、お好み焼き屋さんが使うプラスティックの油さしを使って絞り出しているとお聞きしていましたが、今回はその油さしの小さい版を特注して絞っているとお聞きし、その油さしも見せていただきました。^^

塩を使ったインスタレーションは、いつも展示最終日に山本さんがボランティアの方たちとともに回収し、海に還すというプロジェクトをされています。閉展とともに消えてしまう、その儚さも魅力ですが、一方で常に飾っておけるアートもまた魅力的ですね。

時を纏う(Shrouded in Time)2023 Acrylic paints, natural pigments on wooden panel

横 8.5m ある大迫力の作品

時を纏う(Shrouded in Time)2022 Acrylic paints, crystal glass

1辺 8㎝ のクリスタルに施されたオブジェ

さくらしべふる(Sakura Shibefuru - Falling cherry petals)2023 installation (salt)

塩を使って散り降る桜の花びらを表現したインスタレーション。チェリーレッドの床が、山本さんの作品としてはめずらしく新鮮に感じられました。どのように作られたのか、気になってこれもスタッフにお聞きしましたところ

桜の花びらの形のクッキーの抜型のようなものを作り、そこに塩を絞り入れて作られているのだそうです。1枚1枚ていねいに仕上げられていますが、塩のわずかな厚みの違いで唯一無二の花びらとなっているのがすばらしい。

中心にいくほど、花びらが幾重にも重なっていて、そこには見えない木の存在を感じました。

時に宿る(Staying in Time)2023 digital drawing

別室に展示されていたデジタル・ドローイング。渦の模様がレリーフ全体を少しずつ埋めていき、すべて埋めつくされると、今度は時間がさかのぼって渦の模様が少しずつ消えていく、ということが繰り返されます。渦の模様が等高線のように見えました。

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