@「濡れ衣」、人には運不運がつきものだが、濡れ衣で一生忘れがたい「寄場」での経験が憎しみを抑え辛抱を覚えた職人の半生小説である。 世の中がうまくいくのは、「損得勘定」、損をするものがあるから得をする者もあるからだと。 それと能力のあるものとない者も同じだと、言う。 それに、人間一人ではできない事でも周りが助けてくれる、を知っておく事だ。 その為には人それぞれの良いところを見つけ、才能を見出してあげることも必要なのだ。 信頼関係とはそういうものだと・・・ 下記写真は今で残る石川島の人足寄場
『さぶ』山本周五郎
「概要」江戸下町の表具店で働くさぶと栄二。男前で器用な栄二と愚鈍だが誠実なさぶは、深い友情で結ばれていた。
・ある日、栄二は客先から出入り禁止、親方雇い主から他の店に追い払われる。何故そうなったのか疑問に思い、親方と仲間に聞いたが誰も答えずお払い箱同然の待遇を受けた。漸く真相が判った。それは客先の主人の大事な、それも高価な金襴の切れが栄二の道具箱に入っており盗人として親方に密告された事だった。だが栄二は何もしておらず濡れ衣だと直接客の主人と話をさせてくれと酔っ払ってまま因縁をつけ乗り込むと、ならず者だと放り出され町方に取り押さえられた。栄二は客先の2人娘たちと懇意にしており、その一人が栄二と親しい間柄で嫁としてもらい受ける噂がたった。栄二は客先の主人が職人に娘を嫁がせたくないことを理由に作り話だと判断した。
・栄二は石川島の人足寄場に3年の役務めをすることになった。恨みと悔しさから客の主人と雇われた若い週に散々痛め付けられことで必ずやその復讐をすると硬く決め暫く我慢した。ところがその3年で寄場の仲間たちとの争い、暴風雨で助け、助けられるなどから沙婆で経験する以上の心体経験をしたと心より思うようになった
・3年後、嫁として決めていたおすえと会えて夫婦となったが、不景気で仕事が見つからず仲間のさぶともどん底の生活を余儀なくされた。そん中、飲み屋の女将からの紹介で大仕事が舞い込んできた。そこでさぶが仕込んでいたノリを確認すると、そのノリ蓋にあった書き付けに金襴の切を道具箱に入れたのはさぶだとあった。すると女房のおすえが一切を白状し、やったのは自分でさぶではないと告白、それは好きな栄二と他の娘の夫婦を阻む為だったと。それを聞いた栄二は「寄場での足掛け3年は、沙婆での10年よりためになった。これが本当の俺の気持ちだ、嘘だなんて思わないでくれ、俺は今、おめえに礼を言いたいくらいなんだよ」と妻を許した。
・飲みやのおのぶ女将に言われたことは「人間は一人ぼっちということはないんだよ。世間に立てられ、うやまれていく者には影にみんなさぶのような人間がついている」
・栄二を寄場でお世話した与平は「世の中には賢い人間と賢くない人間がいる、けれども賢い人間ばかりでも、世の中は上手くいかないらしい。損得勘定にしても、損をするものがいればこそ、得をするものがあるというもんだ」「世の中には生まれつき一流になるような能を備えた者がたくさんいるよ、けれども、そういう生まれつきの能を持っている人間でも、自分一人だけじゃ何にもできしない、能のある一人の人間が、その能を生かすためには、能のない幾十人という人間が、目に見えない力を貸しているんだよ」
・「世間からはみ出た人間と一緒に暮らしてよく見るとそれぞれみんないいところを持っている。誰にも真似できねえような立派な仕事をする者も幾人かいるよ。生まれつき悪党か気狂いでない限り、人間にはみんな備わった能があるんだ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/78/be452f6fe335f3f3e1a0fbe386b280d3.png)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/50/4ae4e22583c92f4d072493c143ad18b1.png)