@これは「信太郎人情始末帖シリーズ」の5作目である。前版は「おすず」「水雷屯」「狐釣り」「きずな」ということもあり話は大きな展開はないが人の情け、恩、義理などを描いた内容だ。信太郎の信頼する大札、おぬいの叔父といい、信太郎の父親(主人)といい、誰もが周りの多くの人々から心休まる暖かい志など、まさに「虎は死して皮を留め、人は死して名を残す」である。 また信太郎の人柄と良いまた信太郎が愛した手引茶屋の女主おぬいも人柄といいとても気の利く、控えめな女性である。「人の情け」というものは施した本人が病気、あるいは死別した時に初めて知らされることかもしれない。生前の人の行いは誰もが見知りおりその家族が「本人の生き様を本当に感じる時」となるだろう。
『火喰鳥』 杉本章子
- 大店呉服太物店美濃屋の6代目の跡取り息子、信太郎が許嫁を亡くし狂言の河原崎座のお手伝いを兼ね住み始めた。その後4年間で引手茶屋の女主おぬいとの間に娘ができた。もともとおぬいは前の夫にも一人息子がいた。
- ある日大店の主人が亡くなり、主人の遺言により信太郎が引き継ぐことになった。その晩狂言の櫓の近くで火災が発生し、火消しとともに出かけた信太郎がおぬいの叔父であり狂言の大札が火災に巻き込まれ火中に飛び込んだが焼けて倒れてきた大木に倒された。かろうじて仲間が信太郎を救い出し命に問題なかったが失明状態になる。信太郎が助けようとしたおぬいの叔父は火事後から死亡と分かり、おぬいは悲しみにくれた。
- 信太郎の母と姉は主人が亡くなる前からおぬいを娶り御新造になることに反対しており嫌がらせが続いたが主人の遺言もあり無下に反対はしなくなった。だが、母は二人の祝言を主人の1周忌以降にすることにこだわりを持っており、できれば信太郎の妹に継がせようとしていた。
- おぬいは信太郎の世話など一緒に暮らせないままでは1年とは言え、一人息子、一人娘の幸せになれないと自分をあえて奉公人の女中として大店に出向こうと決心する。