今年度最後のテキストとして、先日他界したフランスの作家ミッシェル・トゥルニエの哲学エッセーを読みます。テキストをご要望の方は shuheif336@gmail.com
までご一報ください。Shuhei
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「フランス語読解教室」では次回よりアニー・エルノのテキストを読みます。テキストご要望の方は下記までご一報下さい。
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Shuhei
Chers amis,
酷暑と雨の被害が相次いだ夏でしたが、みなさんいかがお過ごしだったでしょうか。
この7・8月、フランスも雨の多い夏だったようで、うっとりと見上げる青空に恵まれる日は少なかったようでした。
さて、この夏まだパリの多くの書店で平積みにされていた Thomas Piketty <<Le Capital au 21e sie`cle>>に触れた文章を、新しいテキストとして扱います。「教室」に参加されている方にはお知らせ済みですが、あらたにテキストを参照したい方は、
shuheif336@gmail.com
までご一報下さい。Shuhei
[注釈]
* re'gle' comme du papier a` musique : これは「規則正しいこと」の喩えです。
*la guerre des mots contre le somnambulisme : 昼夜逆転の中での創作活動をこう表現したのでしょうか。
* hors du temps pour le retrouver. : le = le temps です。
* Dro^le d'inceste... : ここは、プルースト-セレストの関係をこう喩えていると読みました。二人は変則的な父と娘だったわけですから。
[試訳]
セレストはくたくたになるまで働いていましたが、退屈することはありませんでした。プルースト氏との暮らしは五線譜のように几帳面なもので、それはどこまでも続く夢遊症に言葉で挑みつづけるようなものでした。彼女は過酷な仕事を「どこか嬉々として、枝から枝へ飛び跳ねる鳥のように、鼻歌まじりに」こなしていました。プルースト氏には自分なりの道理があり、いつもそれに適った生き方をしていました。それはひとつの精密機器でした。セレストは本質を言い当てています。「旦那様は時間の外に身を置いて時間を見出されたのです。」時としてこの夜行性の吸血鬼はセレストをからかうのです。彼女に日記を書くことを勧め、こう請け合います。「そうしたら将来きっとぼくの書くものより売れるよ」と。ただ素朴に、旦那様は、お殿様で、男爵様で、王様でもあるのにと考え、彼女は主人に尋ねました。どうしてご結婚なさらなかったのか、と。その返答は、「ぼくのことを理解してくれる女性がいればよかったんだけれど。それにそんな人は世界中でひとりしか思い当たらない。ぼくが妻に迎えることが出来たのは、あなたしかいなかったな。」セレストは、もちろん、母でもあり、おそらくそれ以上の存在でした。それというのも、「ぼくは自分の作品と一緒になった」のだから。さらにおかしいのはこんなエピソードでしょう。プルースト氏が両親の理想的だった夫婦仲を回想している時に、こんなことを聞いています。「プラトニックな愛と肉体でつながった愛を区別なさいますか」と。「旦那様はまじまじと私の顔を見て、お答えになりました。」「あなたの仰ることの意味が分かりません。」セレストはこうも語っています。「旦那様といて一番素敵だったのは、ときに私が旦那様のお母様のように感じられる時があるかと思うと、私がご旦那様の娘にようにも感じられる時があったことです。」
おかしな近親相姦と言おうか、プラトニックなものとしてもかなり奇妙なものです。というのも、この父にして坊やは、しょっちゅう出歩き、悪所にも通い、セレストに報告するのでした。こともなげに、売春宿ル・キュジアで見た鞭打ちの話を。「あの変わり種の主人ときては !」とセレストは声を上げたのでした。でも一体どうして旦那様、あんなことをなさるのですか。プルーストはただひと言こうくり返したのです。「それが必要なんだ」「どうしても」「時間がないしね」ディテールが、もっとディテールが、いつもディテールが必要でした。「旦那様は新聞を通じてどんなことにでも通じていらっしゃいました。政治、株式、芸術、文学。」第一次世界大戦の殺戮についてはどうだろうか。「もしドイツとフランスがわかり合っていれば、欧州は何世紀にもわたって平和であるのに。」主人の参戦していた戦いにおいては、手紙が常に戦略的に重要な位置を占めていました。「モンテスキューからの手紙を私に読んで聞かせる時の旦那様の嬉しそうな様子は是非ご覧にいれたかった。“いいかいセレスト、これから重要な一節を読むからね。一言一言の間からあの男の憎しみを嗅ぎ取ってみて欲しい。たいした男だよ ! ”そう言って大きな笑い声を上げるのでした。」
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今回も長かったですね。いい塩梅で区切りを付けるのはなかなか難しいものです。試訳を作っていて疑問に思ったのは、この文章は「です・ます」と訳すのが本当によかったのか、ということでした。もう少し別の訳し方をした方が、ソレルスの簡潔な、スピード感のある文体を上手く伝えられたかもしれません。
昨日、ぼくが今最も注目している政治学者白井聡と経済学者の水野和夫の対談を下記で読みました。大変刺激的なものでした。よろしかったら、「立ち読み」してみて下さい。
http://shinsho.shueisha.co.jp/kotoba/tachiyomi/140303.html#6
さて、次回は、最後まで読み切りましょう。今度は、短くて少し気が楽です。6月11日(水)に試訳をお目にかけます。
Bonne lecture !