フランス語読解教室 II

 多様なフランス語の文章を通して、フランス語を読む楽しさを味わってみて下さい。

フランスの特殊ケース 人口統計学の面から (3)

2009年11月25日 | Weblog
 [試訳]
 
 移民の貢献
 フランスはヨーロッパにおいて移民を頼りにした最初の国です。19世紀の中頃、ドイツ、北欧、イギリス、イタリアが、100万単位で貧しい人々を新大陸に送り出していたその一方で、フランスはすでに移民を迎え入れていました。こうした政策はほとんど途切れることなく続いていました。ただ1930年代と戦時中、それから1974年に労働移民の受け入れを中止した時は別ですが。こうした追加の人口流入が、年間の人口増の1/3を越えることは一度もありませんでしたが、それでも数十年にわたって、こうした人口流入が人口構成の更新を可能にして来ました。1999年の国立人口統計研究所の家族調査によると、フランスで生活する22%の人の祖母か祖父の、少なくともどちらかは、フランス国外で生まれています。
 
 高齢化の二つの要因
 要因の一つは単純なことで、第二次大戦の終結以降、寿命が驚くほど伸びたことです。1970年代の人口調査からはこれほどの伸びはまったく予期できませんでした。子供の死亡率が下がりつつあることははっきりしていましたが、高齢者にこれほどの寿命が約束されているとは考えてはいませんでした。こうした進歩は医学の発展によるものですが、また高齢者に向けられた様々な介護のおかげでもあります。例えば、2003年の猛暑でわかったことは、お年寄りに規則正しく水を飲んでもらったり、高齢者施設にエアコンを設置するだけで、その年記録された15000人の死者を救うことができたということです。1960年代以降、私たちは毎年3ヶ月寿命を延ばしています。これは人類史において未曾有のことです。
 二つ目の要因は、戦後のベビーブームです。フランスでは、ヨーロッパの他の国と比べて、ベビーブームはずっと長く、ずっと盛んでした。1946年、フランスは突然20万件の予想外の出産を記録しますが、この現象がその後ほとんど30年間続いたのです。調査をしてわかったのですが、こうした出生の1/4は望まれたものではなく、同時に別の1/4は折悪くもたらされたものでした。つまり、当時避妊が大変必要とされていたことがわかります。この戦後のベビーブーム世代が今日退職年齢に達しようとしています。そのため一層フランスの高齢化が進むことになります。
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 今回は注釈としてとくに加えることはなにもありません。みなさんの的確な読みを心強く思うばかりです。
 ウィルさんのみなさんに対するコメントを見て感じたのは、今さらですが、やはりみなさんフランス語でつながっているのだなぁ、ということです。この記事にもあったように、時に日本のことは(朝鮮半島が含まれる場合もありますが) l'extrême Orientと表現されますが、「極東」のこの国にあって、ぼくたちがフランス語でこうしてつながっているというのは、なんとも「あり難き」ことですね。
 さて、かの国フランスでは、今、与党のイニシアティヴで l'identite' nationale が政治の場で論じられようとしています。次回はその動きに対する、哲学者 Michel Serres の投稿記事を読むことにします。みなさんには追ってテキストをお送りしますが、またあらたにテキストをご希望の方は、
smarcel@mial.goo.ne.jp
 までその旨ご一報下さい。
 smarcel

 

フランスの特殊ケース 人口統計学の面から (2)

2009年11月18日 | Weblog
 [注釈]
 
 * Ce qui e'tait autre fois un indicateur d'alte'ration (...) est devenu un indicateur de souplesse : alte'ration ですが、changement en mal par rapport a` l'e'tat normal ということを意味する言葉です。ですからここは、従来は「家族のあり方を歪めていたもの」となるでしょうか。
 * les femmes ne refusent pas d'avoir des enfants : refuser de + inf. で、 「…することを拒む」ですから、ここは「子供を持つことを拒んでいるわけではない」
 * le renonecement au travail qu'implique une naissance : impliquer は少し捉えにくい動詞ですね。engager dans une affaire fa^cheuse つまり、困った事態に引き込むことですから、ここでは「出産のためにやむなく離職すること」
 * ni la droite ne la gauche n'ont d'ailleurs remis en cause... : d'ailleurs は文字通り、物事を「よそから」見ることを意味します。ここでは、第二次世界大戦後から一貫しているフランスの家族政策を、2007年の大統領選という、比較的新しい政治状況において捉え直しています。

 [ 試訳]
 見逃せないのは、この北欧モデルが今日高い出生率を支えていることです。実際30年前は離婚数と婚外子の数が多かった国が、ヨーロッパでは出生率も低かったのです。今は反対です。かつては家族のあり方を歪めていたとされるものが、家族のあり方の柔軟性の現れとなっています。フランスモデルの持つこの柔軟性のおかげで、男女ともにためらいなく、共同生活を選択し、子供を持とうとしています。
 日本、韓国、イタリアでは、反対に、子供を持つなら結婚していた方がいいし、育児のために女性は家にいた方がよいと考えられています。こうした硬直した家族のあり方のために、極東の国々や南ヨーロッパは少子化の記録を塗り替えています。こうした国々では、子供を持つこと自体を女性たちが拒否しているわけではありません。ただ彼女たちは、結婚において自分たちに課せられる条件や、出産に伴って仕事を諦めなければならないことが我慢ならないのです。
 フランスにおける家族政策の役割
 フランスの家族政策の優れているところは、様々な選択肢を提供していることです。保育のあり方も多様です。保育所、子育てママ、短時間利用可能な託児所など。もっとも3 歳以下の子供を対象とするものは不足していますが。3 歳から通うことのできる幼稚園が、こうしたシステムの中核のひとつでしょう。ただ、フランスの家族政策のキーポイントは、その持続性にあります。その政策は、早くも第二次世界大戦後に大変幅広い層から同意を得て、それ以後も後続世代によって定期的に再構築されて来ています。2007 年の先の大統領選においても、左右いずれもこの政策の基本を見直すことはありませんでした。
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 明子さん、映画がお好きなのですね。ぼくは、周りに無類の映画好きが何人かいて、そういう友人たちに勧められて時々映画館に足を運ぶという程度です。でも、フランス滞在中は、朝の割引制度を利用して、まず一本映画を見てから一日を始めることにしています。「ユキとニナ」、関西での公開はもう少し先になりそうですが、是非観てみたいと思います。
 それでは、次回はこの記事を最後まで読むことにしましょう。
 smarcel
 
 

フランスの特殊ケース 人口統計学の面から (1)

2009年11月11日 | Weblog
 [注釈]
 
 * la France revient de loin : 「フランスが遠くから戻って来た」、この具体的な内容が : 以下で説明されています。つまり、少子化にかつて悩まされていた過去から、今の fe'condite' の時代にたどり着いたこと表しています。Moze さんの「起死回生」という的確な訳語を拝借したことを、ここでお断りしておきます。
 * le retard a' la vien en couple et a' la fe'condite' : 汎ヨーロッパ的に広まっているのは、日本的にいうと「晩婚」と「高年齢出産」です。この二つの「遅れ」を、フランス人女性は三十歳以降二人以上の子供を産むことによって取りかえしている、ということです。

 [試訳]
 
 フランスの多産
 本当にフランスは特殊ケースです。2008年フランスは、女性一人についての出生率が 2 を越えて、ヨーロッパ第一位となりました。フランス一国で、ヨーロッパ大陸全体の人口の自然増加数の3/4をまかなっています。この現象はフランスが起死回生を果たしただけに興味深いものです。1930年代末、フランスは世界で最も高齢化が進んだ国でした。私の祖母の世代、つまり1900年より少し前に生まれた人々は、世代交代を用意するだけの子供を産んではいませんでした。ですから、人口の更新は20世紀初頭より今日の方が順調なのです。
 
 多産を支える数々の理由
 他のヨーロッパ諸国と同様フランスも、出生についてのカレンダーはずれてしまっています。つまり、女性たちはますます遅くに子供を産むようになっていて、第一子を生むのは全体として 三十少し手前となっています。けれども、ドイツ、イタリア、スペイン、中央ヨーロッパの女性たちがそこで止まるのに対して、フランスの女性たちは、三十歳以後に第二子目を生んでいます。こうしてゆっくりと母親になることによって、フランス人女性は、今日全ヨーロッパ的に進んでいる晩婚化と妊娠の高齢化という遅れを取りかえしているいることになります。
 フランスの多産の第二番目の特徴は、その大多数が結婚以外の場で見られることです。2008年、約52%の子供が結婚していないカップルから生まれています。30年の間に、つまりフランスは、結婚以外の場での出生率が非常に低い、南ヨーロッパのラテンモデルから遠ざかり、北欧モデルに近づいたことになります。つまり、女性も仕事を持ち、比較的高齢で出産し、しかも結婚に縛られず多くの子供を生むというモデルです。
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 みなさんの訳文を拝見して、やはり今回のテキストは少し易しすぎたかと反省する一方で、フランス語の読みのみなさんの確かさをあらためて確認できて、とても心強く感じています。ぼくは運転免許さえ持たない前近代の人間なので、こうした比喩を用いるのも相応しくないのですが、みんさんもう立派に安心して、一般道でハンドルを握れるレベルですね。
 shoko さんが参加なさっている「近代ヨーロッパ外交史に学ぶ」という講座、とても興味深そうですね。ぼくも区民なら、是非参加したいところです。ただ、そこでも受講生は比較的年配の方が大半を占めるようですね。
 今の若い人たちにとって、かつての「教養なるもの」が、安定した生活を保障されたものだけが享受できる贅沢品になってしまっているのではないかと、とても心配です。
 昨今は、「共通教育科目」というのですが、かつてのいわゆるパンキョウとしてフランス語を熱心に学び、それをきっかけに広くヨーロッパ文化に興味を覚える学生は、少数派としても一定数は毎年います。それでも 3 年生の後期ともなると、周りが一斉に「就活」に動き出すものですから、よほど本人が超然としているか、世間の動向にいい意味で鈍感でないと、自身の関心の向くままに自由に学ぶことは、今の大学ではなかなか難しいようです。
 こうした体制にあって、フランス語教師など本当に非力なものです。
 
 それでは、次回は les fondements de cette politique."までとしましょう。
 Smarcel
 

マルセル・プルースト『サント=ブーヴに反論する』(3)

2009年11月04日 | Weblog
 [注釈]

 * m’attachant toujours a` ce bout de pain trempe’ : je restais immobiles という状況からすると、s’attacher a`... は、「…に集中する」と理解するのがいいでしょう。
 * ce furent les e’te’s (...) qui firent irruption dans ma conscience, : みなさんしっかり読めていましたが、ce furent... qui の強調構文であることに注意して下さい。
 * Alors je me rappelai : (…) : Moze さんが指摘されるように、rappelai の後の : が抜け落ちてしまっていました。ぼくが使用している安手のスキャナーは、ドゥ・ポアンなどがなかなか読めないようです。


 [試訳]

 私はじっとしていた。少しでも動けば、なんだか分からないけれども、私の中で起っていることを遮ってしまうのではないかと不安だった。そして数々の奇跡のような出来事を生み出しているように思える、紅茶に浸されたあの一切れのパンにずっと集中していた。すると突然、私の記憶の仕切りががたがたと揺すられ、動いた。そして私の意識に突然現れたのが、さっき話題にした田舎の家で過ごした夏だったのだ。夏の数々の朝とともに、膨らみ続ける至福の時間が隊列を組んで、私の意識に忽然と現れたのだ。それで想い出した。毎日寝間着を着替えると祖父の部屋へ降りて行ったのだった。祖父は起きるなり、紅茶を飲んでいた。ビスコットを一枚紅茶に浸して、私にすすめてくれたのは祖父だった。そして、そうした夏が去ると、紅茶に浸され柔らかくなったビスコットの感覚が、死んだ時間の - 知性にとっての死んだ時間 - 隠れ家となり、そうした時間がそこに身を潜めていたのだ。雪に凍えて帰って来たあの冬の夕べ、もしお手伝いが私に紅茶をすすめてくれなかったら、その時間を私は永遠に見出すことはなかったであろう。時間の蘇生は、私が知らずに結んだ魔法の契約によって、紅茶と結びついていたのだった。
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 プルーストは、サント=ブーヴが作家の実人生のあり方とその作品とを安易に結びつけて考察するその方法を、厳しく批判していました。それが、Contre の意味するところだ、と言っていいでしょう。

 「一冊の書物とは、私たちが習慣や、社会や、悪癖において明らかにする自己とは異なる、もうひとつ別の自己が生み出したものである」(『サント= ブーヴに反論する』)

 プルーストは、文学創造とは、作家が内的な自己を再発見、再創造する営みである、と考えていたようです。
 Shoko さん、冷え込む朝に、布団の温もりを犠牲にして訳文を送って下さったのですね。ありがとう。でも、眠りや夢を大切のするというは、プルースト文学の本質に適ったありかたです。とはいえ、ぼくは、睡眠時間を人並みにもう少し減らせば、もっとたくさん本を読めるのにという反省を、学生時代から今に至るまでくり返しているという始末ですが…。

 さて、次回からは、趣をがらりと変えて、フランス国立人口統計所の前所長へのインタビュー記事を読むことにします。少子化対策に成功した、フランスの福祉政策の核心が語られます。週末までには、テキストをお送りするようにします。
 Smartcel