[注釈]
* 夢の中で訪れるさまざまな re’gions のことが語られていますが、le cycle とも言い換えられています。これも共通の色合いを帯びた一連の夢を指しています。まとめると、
1) la re’gion des du souvenir 2) le cycle de l’ambition et de l’orgueil 3) le cycle de la terreur 4) le cycle de la recherche 5) le cycle de la mort
となります。
* le cycle de la mort (...) et qui d’ailleurs contient tous les autres, : car 以下の文脈からすると、この tous les autres は、tous les autres re^ves と考えられます。というのも、cette grande incertitude noire とは、la mort のことだからです。死と向きあうことなく、夢を見ることも、その夢に促されて思考をめぐらせることもできない、と述べられています。
* quand meutre : これも註のある文章との対比を踏まえて au moment du meutre と解しました。
[試訳]
思い出で織りなされた夢の地方があります。そこでは亡くなった父の姿が際立っています。野心や矜持の色濃い一連の夢もあります。もっとも、そこには二十歳の頃の幾夜のみ駆け回ったことがあるだけですが。またあらゆる夢の中でもっとも素朴な恐怖もの。牢獄、癩病者、竜、えぐられた心臓などが、そこにはひしめいています。けれどもかつてのようにその地方に足繁く通うことはなくなりました。それは歳を重ねるにしたがって、希望とともに恐れも減退するからでしょうし、老いとともに思い煩うことも少なくなるからでしょう。丁度、貧者が自身の不如意が盗まれることを怖れるはずもないのと同じように*。またなにかを探し求めるという夢もあります。そこでは、姿を消して幽霊となった女の跡を追わなければならないのです。そしてそこここに庭が広がる、死の夢。もっとも死の夢は、他のすべての夢をその内に含んでいます。この黒い不安の塊にぶつかることなく、私たちは、深く夢見ることも、思惟をめぐらせることも出来はしないからです。
* あるいは、財宝を山ほど蓄え、たとえ殺されようとも人生を肯定する大金持ちのように、と言うべきか。物事には常にそれぞれ両面がある。
…………………………………………………………………………………………..
このあとも夢の「目録」が続きます。もう少し辛抱しておつき合い下さい。
shoko さん、励ましの言葉ありがとうございます。残念ながら、こうしたテキストを二十歳前後の学生たちと読むことはほとんどありません。「情報だけを伝える新聞記事」のようなものばかり扱っています。
ふと、荒川洋治が書いた「文学は実学である」という、力強い一文を想い出しました。室生犀星、梅崎春生、色川武大などの作品を挙げたあと、荒川はこう書いています。「こうした作品を知ることと、知らないことでは人生がまるっきりちがったものになる。/それくらいの激しい力が文学にはある。読む人の現実を一変させるのだ。文学は現実的なもの、強力な『実』の世界なのだ。」(『忘れられる過去』みすず書房)
こんな世の中にあっても文学にひかれる数少ない学生たちのことも忘れてはいけません。教員の端くれとして、日々考えさせられています。
次回は、12月8日に une inoubliable couleur bleue. までの試訳をお目にかけます。
* 夢の中で訪れるさまざまな re’gions のことが語られていますが、le cycle とも言い換えられています。これも共通の色合いを帯びた一連の夢を指しています。まとめると、
1) la re’gion des du souvenir 2) le cycle de l’ambition et de l’orgueil 3) le cycle de la terreur 4) le cycle de la recherche 5) le cycle de la mort
となります。
* le cycle de la mort (...) et qui d’ailleurs contient tous les autres, : car 以下の文脈からすると、この tous les autres は、tous les autres re^ves と考えられます。というのも、cette grande incertitude noire とは、la mort のことだからです。死と向きあうことなく、夢を見ることも、その夢に促されて思考をめぐらせることもできない、と述べられています。
* quand meutre : これも註のある文章との対比を踏まえて au moment du meutre と解しました。
[試訳]
思い出で織りなされた夢の地方があります。そこでは亡くなった父の姿が際立っています。野心や矜持の色濃い一連の夢もあります。もっとも、そこには二十歳の頃の幾夜のみ駆け回ったことがあるだけですが。またあらゆる夢の中でもっとも素朴な恐怖もの。牢獄、癩病者、竜、えぐられた心臓などが、そこにはひしめいています。けれどもかつてのようにその地方に足繁く通うことはなくなりました。それは歳を重ねるにしたがって、希望とともに恐れも減退するからでしょうし、老いとともに思い煩うことも少なくなるからでしょう。丁度、貧者が自身の不如意が盗まれることを怖れるはずもないのと同じように*。またなにかを探し求めるという夢もあります。そこでは、姿を消して幽霊となった女の跡を追わなければならないのです。そしてそこここに庭が広がる、死の夢。もっとも死の夢は、他のすべての夢をその内に含んでいます。この黒い不安の塊にぶつかることなく、私たちは、深く夢見ることも、思惟をめぐらせることも出来はしないからです。
* あるいは、財宝を山ほど蓄え、たとえ殺されようとも人生を肯定する大金持ちのように、と言うべきか。物事には常にそれぞれ両面がある。
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このあとも夢の「目録」が続きます。もう少し辛抱しておつき合い下さい。
shoko さん、励ましの言葉ありがとうございます。残念ながら、こうしたテキストを二十歳前後の学生たちと読むことはほとんどありません。「情報だけを伝える新聞記事」のようなものばかり扱っています。
ふと、荒川洋治が書いた「文学は実学である」という、力強い一文を想い出しました。室生犀星、梅崎春生、色川武大などの作品を挙げたあと、荒川はこう書いています。「こうした作品を知ることと、知らないことでは人生がまるっきりちがったものになる。/それくらいの激しい力が文学にはある。読む人の現実を一変させるのだ。文学は現実的なもの、強力な『実』の世界なのだ。」(『忘れられる過去』みすず書房)
こんな世の中にあっても文学にひかれる数少ない学生たちのことも忘れてはいけません。教員の端くれとして、日々考えさせられています。
次回は、12月8日に une inoubliable couleur bleue. までの試訳をお目にかけます。