フランス語読解教室 II

 多様なフランス語の文章を通して、フランス語を読む楽しさを味わってみて下さい。

フランスとフランス人に対する30の質問(4)

2008年04月30日 | Weblog
Lecon 144 注釈と要旨

 [注釈]
 Sur les 1100 cas ou` les employeurs... : BIT は、misayo さんが調べてくれた通り,国際労働事務局 Bureau international du travail のことです。雇用主が内情を明らかにした1100例の調査結果なのですが,前半は,こう言うことですね。つまり、アフリカ・サハラ南部の出身者とマジョリティーであるフランス人が選考対象となった場合,4/5の割合で後者を選ぶということです。ただ、ぼくも後半 deux fois sur trois << seulement >> 以下がよくわかりません。同じ出自の、しかも女性同士が競り合う割合は,2/3しかない、とうことなのでしょうか…?
 [要旨]
 フランス社会に溶け込もうとしている移民たちは、その社会の理想からは程遠い現実にぶつかっている。例えば、マグレブの親を持つ子供たちが何の資格も持たずに職業生活に入る割合は、親がフランス人の子供たちと比べ、高い。また働き始めてから5年後の失業率を見ても、前者と後者には2倍近い隔たりがある。そうした格差は、労働市場での差別にもとづくものであることが,各種調査で明らかになっている。求職者の名前がマグレブ風であるだけで不当な扱いを受けているのだ。
 また政治の場で移民出身者が非常の少ないことも、移民たちの前に立ちはだかるフランス社会の壁の高さを示している。
 移民側のフランス社会への統合の意志が顕著であるだけに、それに十分に応えていない社会に対する怒り、不満は大きい。移民側の統合の意志とフランス社会の閉鎖性。その齟齬が緊張を生んでいる。
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 さて、次回はp. 83 最後までを訳出することにしましょう。
 5月第3週からは,美術史家 Daniel Arasse << Histoires de peintures >> を読むことにします。どうかお楽しみに。 

フランスとフランス人に対する30の質問(3)

2008年04月23日 | Weblog
  [注釈]
* Autre signe qui ne trompe pas : たしかに他動詞 tromper に目的語がありませんね。ただ、この動詞に限らず、目的語を持たない他動詞の用法はそう珍しくないのではないでしょうか。「もうひとつ疑いようのないことがある。」と訳してみました。
* Les familles d’ouvriers (...) souhaient (...) que leurs enfants suvient des e’tudes... : ここは、shoko さんがお察しの通り,souhaiter の目的語は二つ目の que 以下の節です。
* Les Français des couches populaires ont inte’gre’ (...) Mais les immigre’s d’origine maghre’bine croient encore : ここは、いわゆる「(土着の ?)フランス人」と移民の対照をしっかり押さえて下さい。la re’alite’ de la reproduction sociale des e’lites とは、平たく言えば「エリートはエリート家庭から生まれる」という現実を指しています。そうすると la promesse the’orique の言わんとするところも分かりますね。つまり、「がんばれば誰でもエリートになれる」という建前のことです。
 [試訳]
 もうひとつ疑いようのないことがある。それは、教育に対する移民家族の関心の高さである。マグレブ出身の工場労働者や勤人の家庭は、同じ階層のフランス人家庭に比べて、子供が高等教育を受けることを望んでいる割合が高い。子供が男の子の場合は40%の家庭が,女の子の場合は54%の家庭がそうした希望を持っている。一方フランス人家庭の場合は,子供が男の子だと21%、女の子の場合で36%しか、高等教育機関への進路を想定していない。大衆層のフランス人は、エリートが社会的に再生産される現実を甘受してしまっている。けれどもマグレブ出身の移民たちは「フランスモデル」をまだ信頼し、学業上の成功に基づいた能力主義が理論的に約束している、すべての子供たちに開かれた未来を信じている。
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 雅代さんが話題にしていた「教育の機会均等」ですが、フランスは保護者の教育費の負担が日本とは比べ物にならないくらい軽いですから,その点からすると e’galite’ はある程度守られていると言えるかもしれません。
 フランスの大学には「授業料」という言葉がありません。これも随分と高くなりましたが,年度始めに3万円ほどの「登録料」を払えばいいだけなのです。
 今大阪の府立高校の年間授業料が約14万円。国公立大学はほぼ54万円です。フランス人からすると「天文学的」な数字ではないでしょうか。そんな教育費の高さが日本の教育の平等をいびつに歪めていることは言うまでもありません。
 ただ、問題は複雑で,そんなフランスでさえも教育の機会均等を実現することは、なかなかに難しいようです。
 さて、次回はp.82 volonte’ d’inte’gration までを範囲として、また疑問点だけを書き込んで下さい。来週水曜日までに注釈と要旨をお目にかけます。
 smarcel


フランスとフランス人に対する30の質問 (2)

2008年04月16日 | Weblog
 [ 注釈 ]
 * p.79. l.2-5 : observateur は「移民問題を注視している人々」ということですから、たとえば「識者」なんて訳はどうでしょう。; communaute’s d’orgine immigre’e 「移民出身者が寄って生まれたコミュニテイー」
 「こうした経緯から多くの識者は、移民出身者からなるコミュニティーがやがて西洋社会に溶け込んでゆくといった見通しを一から見直すこととなった。」
 * p.79. 下から3行目から p.80.l.2 まで : ここで Ironie といっているのは、フランス市民 意識:イスラム系移民とアメリカ市民意識 : プロテスタント(アメリカ建国の原動力となった)という、いわば対照的な取り合わせながら、意識調査の結果がほぼ同一であったからでしょう。
 [要旨]
 2001年9月11日の事件を機に「文明の衝突」とまで言われ出したが,ことフランスに関する限り、この地のイスラム系移民は原理主義的傾向がもっとも少なく、社会への統合の意思において際立っている。そのことは、アメリカの調査機関によるフランス・イギリス・ドイツ・スペインのイスラム教徒に対する意識調査によって確かめられる。1) フランスのイスラム系移民は、宗教の影響力の低下や、女性の役割の変化よりも,失業問題に関心がある。2) 自身をまずイスラム教徒と考えるか、フランス市民と考えるかという質問に対して,42%が「市民」と答えている。3) 62%のイスラム系移民が、女性を取り巻く状況はイスラム諸国に比べてフランスの方がよいと答えている。4) 78%がフランスの生活習慣を身につけたいと考えている。
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 p.80. l.12以下は、また次回に扱います。Lecon 143 では、p.80 の Autre signe からla re’ussite scolaire まで訳出してみて下さい。いつものように、23日(水)に試訳をお目にかけることとします。

試訳: フランスとフランス人についての30の問い

2008年04月09日 | Weblog
 Lecon 141 注釈と試訳

 [注釈]
 * Les rate’s ce processus : たしか雅代さんは ce processus を「同化の過程」と訳されていましたね。その通りで、ここでは l’inte’gration に至る過程のことが問題となっています。どう訳出するか以前に、まずそのことを押さえておいて下さい。
* cette fameuse << I’identite’... >> : 形容詞 fameux が名詞の前にあることに注意して下さい。もちろんここは、「あの、議論の多い」という否定的なニュアンスで用いられています。ですから、sans pre’ce’dent, sans e’quivalent ailleurs も「そんなこと聞いたこともないし,どこをみまわしてもないよ」という、どちらかというと非難の言葉です。
 
 [試訳]
 移民は「国民のアイデンティティー」を脅かしているのか ?

 2005年の暴動、失業,犯罪…。移民とその子供たちのフランス社会への統合は多くの困難にぶつかっている。しかしながら,フランスの移民は、他国と比べてより熱心に社会にとけ込もうとしていることがわかる。社会的統合の困難は、とくに彼らに対する差別の広がりによって説明できる。

 フランスは今回「移民と国民のアイデンティティー省」を持つこととなった。ねらいは,かの「国民のアイデンティティー」が、移民の進展によって脅かされる危険を阻止することだ。ヴィシー体制以降前代未聞の試みだし,他国にも例を見ないものだ。しかしながら、くだんの「国民のアイデンティティー」をもっとも脅かしているのは,二つのものの間に穿たれた溝の深さであろう。すなわち、啓蒙の世紀以来フランスを基礎づけていると考えられている平等と博愛について普遍主義者たちの言うことと、フランス社会と移民やその子供たちとの関係を往々にして特徴づけている、人種差別的で不平等な実践の間の溝の深さである。
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 今回のテキストはそう難しくありませんね。それで次回は、p.80 musulmans までを読んでもらって、質問のみ受け付けることにします。長くなりますから,訳出には及びません。
 テキストを希望される方は,ひき続き smarcel@mail.goo.ne.jp で受け付けています。ご一報下さい。
smarcel


Paris en couleurs 試訳

2008年04月01日 | Weblog
[注釈]
 * en de merveilleux tirages noir et blanc : 「すばらしい白黒写真の形で」同一の単語の反復を避けるため、写真を tirage, cliche`, image といった言葉で表現していることに注意して下さい。
 * un Paris re’volu : 「かつてのパリ」
 * De`s lors : 「そこで、したがって」ex. Il e`tait a` Paris le jour du crime, de`s lors son innocence ne fait aucun doute.
 * De ce proce’de’ que l’on croyait re’serve’ a` la seconde moitie’ du vintie`me sie`cle :文脈から ce proce’de’ とは、「カラー技術」のことでしょう。re’serve’ a`... : とくに….のために用意された、とうことですから、20世紀後半になって用いられたと思われていたカラー技術が,実はすでに100年も前にルミエール兄弟によって実用化されていた、ということです。
 
[試訳]
 パリは、その美しさとその変化によって人々の視線を引きつけています。写真家や映画人の研ぎすまされた熱いまなざしは、私たちの都に創造の尽きせぬ泉を見ています。パリを写真によって語る人は数知れません。ドワノ、ロニス、ブラッサイをはじめ多くの写真家は、パリを気品のある白と黒に鮮やかに焼き付け、そのように見つめ、発見して来ました。そこからは、心地よい郷愁の漂うパリの香りが匂い立っています。ですから、カラーで彩られたこれらパリの写真との違いは驚くばかりです。カラー技術は20世紀後半になってからのものだと私たちは思っていましたが,それがすでに1世紀も前に、ルミエール兄弟によってオートクロームという名で実用化されていたことに驚きを隠せません。今日私たちの元に返って来たこれらの写真によって、陽気でいきいきとしたパリの姿が明らかになることでしょう。
 この展覧会「カラー写真で見るパリ」は、フランス、海外、現代、近代を問わず、この都市の命を捉えようとした、あるいは捉えることが出来た、すべての芸術家に対するオマージュです。一枚一枚の写真は、それぞれパリの新しい姿を明らかにしています。ジゼール・フロイントの写真から,占領下のパリの日常を捉えた今回初公開の作品まで。また戦後の写真界をリードしたビッグネームから、ジャン=ポール・グードに至るまで。ここで語られているのは,パリとそこに住む人々の姿のみならず、写真の一世紀に及ぶ歴史なのです。
 パリ市長 ベルトラン・ドラノエ
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 次回からしばらくの間、 Guillaume Duval << Sommes-nous des paresseux ? - ...et 30 questions sur la France et les Francais >> (2008. Seuil) を読みます。
 今まで教室に参加されたことのある方以外でテキストを希望される方は、
 smarcel@mail.goo.ne.jp
までご一報下さい。