[注釈]
* Une telle froideur immacule’e e’carte jusqu’au soupcon d’un symbolisme sexuel,… : soupcon は、「疑い」でしょうね。というのも、ここではimmacule’e ↔sexuel という対立構図になっているからです。
ここで、この文章後半のおおよその構図を描いておくと、こうなります。
1) froideur immacule’e(↔Cette joie physique )。 でも、la vision be’atifique de l’amour を喚起する。2) oublier au re’veil たいていの夢は目覚めとともに忘れられる。でも、 この青の夢だけは、清涼な image を残す。
* sortir d’un re^ve rasse’re’ne’e, rafrai^chie.… : rasse’re’ne’e, rafrai^chie, rassure’e と三つ並べられた形容詞は、夢から目覚めたあとの女性の書き手である「私」の状態を説明しています。
[試訳]
身体で感じられる、透きとおったこの喜びは、夏の日盛りにカプリ島の青の洞窟で海に身を浸している喜びに、ひょっとしたら比較できるかもしれない。これほどの清々しい清涼感は、それも性的な象徴であるという疑いまでも遠ざけてしまっている。けれども、この満ち足りた幸福、目覚めてもなお続く、この夢の混じりけのない喜びは、水浴の爽やかな恵みが暑い日中にも続くように、愛の至福の姿を想起させる。何度となく、つまり今まで3,4回、夢からさめても、晴れやかで、爽快で、落ち着いた気持ちでいたことがあったが、ところが目が覚めてみると、この心地よさの訳を忘れてしまっている。私たち誰もが身に覚えがあるように、自分の叫び声にこわくなって突然悪夢から目覚めても、叫び声まで上げたその危険が何であったのかまったく想い出せない、それと同じこと。唯一この夢だけが、身体がすっかり疲れている時に見る、この海の青さの夢だけが、ひとつのイメージを、象徴を、清潔な青いプールの水面のきらめきを残してゆく。
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新書を一冊紹介しておきます。もうすでに手に取られた方もあるでしょうが、石井洋二郎『フランス的思考 野生の思考者たちの系譜』(中公新書)。数々の著作・翻訳で多くの受賞歴のある石井先生は、ご専門はロートレアモン。その著作は常に明晰で、何を読んでも教えられることばかりです。
同書の最終章の一部をご紹介しておきます。
「思考がなんらかの答えを提示することで『先に進む』ことをめざさなければならない理由が、果たしてあるだろうか? (…) いくつもの問いを発しながらなんの答えも見出すことなく、ただあてもなく森をさまようだけの思考、まさにバルトが夢見た快楽としての『教養』のように、どこにも行かず、一歩も進むことなく、色々な方向に少しずつ足を踏み出してみては、けっきょくまたもとの位置に戻ってしまう、そんな思考のありようも考えられるのではないか?
進歩などする必要はない。ましてや飛躍などする必要はない。その場にとどまって、ただ考えることの愉悦に身を浸せばいい。思考するとはそういうことだ。
本書でとりあげた六人は、多かれ少なかれこの種の愉悦を共有している。」(p.230-231.) その六人とは、サド、フーリエ、ランボー、ブルトン、バタイユ、バルトです。
俗にフランスの「合理主義・普遍主義」といわれる思考の傾きに、生涯を賭して抵抗を示した上記の文学者たちの姿を通して、「野生の思考」の確かなひと筋の流れを鮮やかに描き出した好著です。
さて、実は、今月下旬から来月上旬にかけてle voyage sentimentalに出ようかと思い立ち、先週半ばからフランスでの滞在先を探していました。でも残念ながら、ぼくがひいきにしている Clamart, Meudon, Issy, Boulogne-Billancourt など、パリ周辺地区の短期賃貸アパルトマンの物件は、みんな先約済みでした。インターネットの発達によって、こうしたサーヴィスの供給量は格段に増えたのですが、それにつれて利用者の方もそれ以上に増加しているようです。今回は、出遅れてしまいました。
そんなわけで、「旅」は断念。日に日に明るさを増す金剛山の山並みを眺めながら、学年末を利用して勉強を続けることにします。
さて、次回からのテキストですが、プルーストの『ソドムとゴムラ』に挿入されている、夢・睡眠をめぐる有名な一節を扱おうかとも考えたのですが、もう「夢」はこの辺にしておきましょう。
それで、少し目先を変えて、昨年パリのグランパレGrand Palais で大当たりを取った「モネ展」の開催中に Le Mondeに寄せられた文章を読むことにします。
この週末までにはテキストをお届けします。
Shuhei