先を行くこころに羽やほととぎす 桜木亭 金丸
発句はこのように読みます。「を」が分かりにくいのですが、「悪」の崩し字です。憎悪・悪寒の「を」です。「を」に当てる漢字は遠・乎・越の3字が一般ですが、作者はこのように当てて少し得意になっているのです。寺子屋などではこんな当て方は教えないのですが、文人にはそういう気取り屋の弊があったようですね。
ところで、この挿絵をよく見ていただきたいのですが、富士山が右手前方に描かれていますよね。ということはこの人物たちは江戸を発って西へ向かっていると見るのが自然です。しかし、そうするとですね、つぎの点で矛盾がでてきます。
弥次郎兵衛と喜多八が東海道の旅へ発つのは「初編」に書かれていることで、今はまだ物語は「発端」ですから駿府から江戸へ駈け落ちの道中でなければなりません。喜多八(この時点では鼻之助でした。)が若く女のように描かれ、労るように馬に乗せられているところを見れば、なるほど駈け落ちの図となります。また、発句も前途の希望に浮き立っている心裡が描写されています。しかしそれでは方向が反対です。この矛盾がどうしても解けません。
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