まあ、一人の奇矯な男でいるぶんには戯言ですませられるけれど、内閣に引き入れたら話は別。
2024年10月27日
以下は、昨日、発売された月刊誌Hanadaにp118からp128に渡って掲載されている、堤堯氏と久保紘之氏の連載対談からである。
本稿は、今日、選挙に行かれる有権者全員が必読である。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。
鳩山と同様、石破もルーピーだ
まるで在庫一掃内閣
堤
いやあ、まさか石破茂が総裁・総理になる時代が来るとはねえ。
世も末、自民党も末期的症状だな。
彼が選んだ内閣の顔ぶれをみると、初入閣が十三人、再任が二人、閣僚経験者の再入閣が四人。
若手でもないのに初入閣のやつが多い。
これまで党内で燻っていたのが大挙して内閣入りした。
「在庫一掃内閣」つてとこだな。
そもそも、首相の石破茂自体が「在庫」の最たる存在だったからね(笑)。
久保
なかでも、「安倍は国賊だ」と発言して役職停止処分を受けていた村上誠一郎なんか、総務大臣にしてもらって元気いっぱいだよ(笑)。
村上は議員経験だけは長いけれど、入閣は二十年前に一度あっただけだし、これまでに何らの功績も残していない。
いわば自民党の”穀潰し”。
以前、村上についてこんな川柳を作ったことがあります。
「国賊とコクゾウムシに罵られ」(笑)。
穀象虫とは、別名コメ喰い虫。
つまり、国家の備蓄米や兵糧を食い荒らす穀潰しのこと。
いくら何でも、こんなやつを内閣の一員に据えるかねえ。
堤
自民党としては、顔をすげ替えて、新内閣への御祝儀支持率が高いうちに解散総選挙をやろうというハラだったんだろうけど、組閣直後の支持率は産経・FNNの調査で50%そこそこ。
解散後の共同通信の調査でも46%と、たいしてあがっていない。
単独過半数はおろか、自公合わせての与党過半数も危ういかもしれない。
それよりなにより懸念されるのは、党内分裂だよ。
前首相・岸田文雄は、いわゆる政治資金不記載問題を利して、露骨な処罰人事で徹底した安倍派潰しを図った。
安倍派五人衆をターゲットに、世耕弘成に党籍離脱勧告、西村康稔と下村博文に一年間の党員資格停止、萩生田光一と松野博一には役職停止処分といった具合だ。
岸田のこの安倍派潰しを、石破は輪をかけて踏襲した。
最大派閥98人の安倍派から1人の入閣者もいない。
総裁当選の第一声、「これからはノーサイド、一丸となって日本創生に取り組む」と述べたセリフはどこへやら、いかにも露骨な報復人事だ。
それだけではない。
不記載議員によっては党の公認を出さない、たとえ出しても比例重複は認めない。
公認権を使い分ける差別人事だ。
岸田と石破、この二人の対応で、党内の人心はささくれ立っている。
仮に選挙で敗退した場合、石破はどう責任を取るつもりなのかね。
編集部
総辞職でもしてほしいです。
久保
いや、奴がすんなり総辞職することなんか金輪際あり得ない。
引きずり下ろすしか手はないでしょう。
安倍路線に対する挑戦状
堤
先の国会の最終日、十月九日に野党は党首討論のあと、内閣不信任案を出した。
石破は解散の緊急動議でこれを潰したけど、仮にこの内閣不信任案が採決されれば、自民党からかなりの賛成票が出たんじゃないか。
これはかつて石破自身がやったことだよ。
1993年、時の宮澤喜一内閣に野党が不信任案を出し、自民党からかなりの賛成票が出て可決された。
石破も哲成票を投じた一人だ。
結果、総選挙になって自民党は過半数を大きく下回り、やがてそれが宮澤退陣、細川護熙政権の誕生につながる。
この時の政局展開は小沢一郎の一人舞台だ。
非自民非共産の八党会派連立の枠組みを作り、わずか30数名の日本新党の党首・細川護熈を首班に担ぐ工作をやってのけた。
この時期だよ、石破が小沢にすり寄って新生党に入党したのは。
久保
今回、政権を獲った石破は、岸田の安倍派潰しを受け継ぎ、それに輪をかけたような苛烈さで、安倍の遺産潰しに狂奔している。
そのさまは、死んだ安倍に向けてなおも怨恨を晴らすかのような執拗さで、泉下で安倍も呆れているのではないか。
岸田や菅をはじめ石破に投票した連中は、奴を急場しのぎの、いわば”雇われマダム”くらいに思っている。
かつて三木武夫を担いでロッキード事件の難局を乗り切って、役目が終わるや三木をスケープゴートにして引きずり降ろしたようにね。
ただし、三木の時は田中角栄こそ刑事裁判にしたものの、田中軍団は健在。
構造的腐敗の温床となった保守本流勢力も、その存続を脅かす抜本改革には一致結束して抵抗した。
これが三木降ろし劇です。
だが、石破の場合はどうかな。
おそらくやつは、何か何でもその座にしがみつこうとするはずです。
問題は総選挙の結果、石破を引きずり降ろせる勢力が出てくるかどうか。
岸田と菅じゃあ、そのうち石破をコントロールできなくなると思います。
堤
仮に石破降ろしをするとなったら、誰が中心になれるかね。
高市一人では難しいから、コバホーク(小林鷹之)と組んで、石破降ろしをやってもらいたいね。
久保
まあ、その二人が組むしかないでしょうね。
非主流とか党内野党とかいう曖昧な形ではなく、堂々と「反主流」を名乗る勢力が生まれるかどうかです。
うまく立ち回ろう、おこぼれにあずかろうなんて考えるようじゃ話にならないし、政治家である以上、行動で示さないと。
何より、石破政権の仕掛け人は菅と岸田なんだから、あの二人をどうにかしない限り、この構造は崩れませんよ。
堤
菅は長く安倍と組んだ。
なのに安倍が最も嫌った男と知りながら、なぜ石破に肩入れしたのか。
安倍を「国賊」と呼んで処分されたような男を閣僚にする石破を支持するのかねえ。
だいたい、「国賊発言」の村上というのはどういう男なんだ。
村上正邦は知っているけど、村上誠一郎なんて聞いたこともない。
久保
村上水軍の末裔だと自称していて、東大を出たあとに三木派を継いだ河本敏夫の秘書をやっていた男です。
まあ、一人の奇矯な男でいるぶんには戯言ですませられるけれど、内閣に引き入れたら話は別。
石破にとって村上はいわば内閣の思想的支柱であり、安倍路線否定の旗印のようなもの。
石破は自分で反旗を翻す度胸はないから、村上を入れることで反安倍への路線転換を示し、積年の安倍へのルサンチマンを晴らそうとしている。
そうした姑息で陰湿なやり方が石破流なのです。
つまり、石破が「国賊発言」の村上を内閣に迎え入れたのは、安倍路線に対する挑戦状を叩きつけたに等しく、単なる人事レベル、政局レベルの話ではありません。
以前、中曽根康弘に話を聞いた時に、「安倍政権になって、吉田以来の悪しき憲法体制の流れが、ようやく我々保守本流の手に戻った」と言っていました。
つまり、アメリカの統治の時代からようやく転換して、戦後政治の総決算としての実りを得て、日本が提唱した国際秩序のあり方が採用されるところまできた、ということです。
安倍の国際政治への貢献を世界の先進主要国の首脳が称賛し、その早すぎる死を悼んで、国葬にも世界の主だった王室はじめ大多数の首脳や政府関係者が参列したことを思えば、それは明らかでしょう。
それが石破政権の誕生で「国賊」の烙印を押されるに等しい形で否定され、根こそぎひっくり返されようとしている。
しかも、その石破を自民党総裁に担ぎ出した”主犯”は、政治の悪しき部分を継承した宮澤喜一の親戚の岸田ときている。
これでは、曲がりなりにも吉田の良質な部分を継承したと自負する孫の麻生が怒るのも無理ありません。
これは大変な危機ですよ。
ようやく日本が日本であることを取り戻しつつあるというなかで、この流れを全く逆回転退行させるような政権が誕生したんですから。
実は僕が驚いているのは、この危機的状況を保守派の論壇がほとんど理解していないかに見えることです。
これはただの政権交代劇じゃない。
今回の石破政権の誕生を新たな「思想戦」として受け止めなければ、自民党も日本も瓦解する。
保守派は雑誌も含めて総力を挙げて戦う必要があるんです。
自民党にとって、石破を選ぶなんて自殺行為に等しい。
石破を単なる小物と見て、軽々に扱っている場合ではないんですよ。
これを脅威に感じないようであれば、保守政治を語る資格はない!
この稿続く。