以下は、今日の産経新聞に、安倍氏を国葬で送りたい、と題して掲載された論説委員長・榊原智の論文からである。
安倍晋三元首相を家族葬に加え、国葬でも送りたい―。
そのような声が幾つも届いている。
その通りだと思う。
国葬の礼遇がふさわしい宰相だった。
それが分からない日本ではいけない。
世界はとうに理解している。
インドとブラジルは国として喪に服してくれた。
国連安全保障理事会では全理事国の代表が黙禱(もくとう)した。
バイデン米大統領は日本大使公邸を弔問し、「世界の損失だ」と語った。
英国のエリザベス女王や各国・地域の首脳、トランプ前米大統領らも弔意を表し、台湾の超高層ビルは「永遠の友人」などの追悼メッセージを灯(とも)した。
これほど世界から悼まれた政治家が日本にいたか。
日本や世界にとって望ましい国際秩序、環境をつくろうと能動的に働いた。
歴代首相にありがちな、世界の出来事に右往左往する「状況対応型の首相」ではなかった。
提唱した「自由で開かれたインド太平洋」は欧米諸国の戦略になった。
自由貿易を擁護した。
首相経験者の戦後の国葬は吉田茂氏1人だ。
サンフランシスコ平和条約を結び日本を独立させたのに加え、日米安保条約締結により東西冷戦下の日本の平和と繁栄を保つ基盤を造った首相だった。
安倍氏の功績はそれに劣らない。
今や誰の目にも明らかな「米中新冷戦」は、ソ連崩壊によるポスト冷戦期の開始以来の時代の大転回である。
それに先立ち、安倍氏が実現させた集団的自衛権の限定行使を容認する安保関連法の制定は、新冷戦の時代を日本が生き抜く基盤となった。
岸田文雄首相は参院選に大勝し、衆院を解散しない限り大型国政選挙がない「黄金の3年」を手に入れたとされる。
それでも、このような参院選の意味合いを霞(かす)ませるくらい大きな影響を、安倍氏暗殺が日本政治に及ぼしたと後世、言われるかもしれない。
安倍氏は、首相退任後も批判を恐れずに、日本が直面する難題への処方箋を訴えてきた。
防衛費の思い切った増額や「台湾有事は日本有事」の発信、核抑止の重要性を説いたことなどはそれである。
これらが日の目を見なければ日本の未来は厳しい。
世界的、歴史的視野から安倍氏の治績を認めれば国葬がふさわしい弔い方だと分かるはずだ。
その上で安倍氏が亡くなる直前まで訴えた政策を実現したい。
その重要性も岸田首相は自覚してほしい。