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6月12日は新聞休刊日

2017-06-12 05:45:15 | 社説を読む
6月12日は新聞休刊日なので、昨日のコラムを紹介します。

朝日新聞
・ 公開中の映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」は英国の地方都市を舞台に、貧しさにあえぐ人たちを描いている。2人の子どもを育てるシングルマザーが施設に無料の食料をもらいに行く場面は、見ていてつらくなる

▼彼女は空腹に耐えきれず、その場で缶詰を開けて食べ始めてしまう。手づかみで、床にこぼしながら。我に返りログイン前の続き、泣いて謝ると、周りの人から「君は何も悪くない」と慰められる。仕事がなく、あてにしていた政府からの給付金も得られない。日々の食事にも事欠いていた

▼もちろん劇映画であって、ドキュメンタリーではない。しかし、緊縮財政で公共サービスの縮小が続く現在の英国を切り取ろうとした試みであろう

▼英国の総選挙ではメイ首相率いる与党・保守党が、圧勝どころか、まさかの過半数割れとなった。理由はいくつかあろうが、緊縮財政への反感も決して小さくはない。保守党政権下で7年にわたり緊縮が続き、影響は福祉や教育にまで及んでいた

▼野党・労働党のコービン党首は左派色が強く、政策が現実的ではないと政界では見られてきた。今回の選挙公約にも、鉄道の再国有化など先祖返りしたような政策がある。これなら勝てると、メイ首相も踏んだのだろう。しかし、大学の学費無料化や医療への投資などの訴えは、有権者の心に響いたようだ

▼かつて「ゆりかごから墓場まで」と言われた福祉国家は、大きく変容してしまったのか。欧州連合離脱の動きの中で垣間見えた一断面である。


毎日新聞
・ 「Uターンなさりたいなら、どうぞ。レディーは引き返しませんから」。鉄の女と呼ばれた英国のサッチャー元首相の名セリフだ。不況下で、猛批判を浴びながらも、厳しい経済政策を断固貫いた指導者だった

▲前言を突然ひるがえし、解散・総選挙に打って出たのは、サッチャー氏以来の女性首相、メイ氏である。選挙で大勝し、欧州連合(EU)との離脱交渉を強力に進める作戦のはずが、想定外の結果となる

▲社会保障で要となる公約を、派手に転換したのが高くついたようだ。高齢者に自己負担増を求める政策に「認知症税」のレッテルが貼られると、わずか数日で不名誉なUターンを見せた

▲メイ首相が選んだスローガンが「強く、安定した指導者」だったのは何とも皮肉なことだ。10分程度の演説で12回も使ったと指摘する報道もあったほどだが、相次ぐUターンで「弱くブレる指導者」と嘲笑の的になった

▲EU離脱でも、もとは反対派だったメイ氏である。「Uターン・クイーン」のあだ名もわかる気がするが、女王がいれば王もいるのが英国だ。1970年代、失業者の急増にたじろぎ、緊縮財政策からばらまきに転じたヒース元首相は、堂々たる「Uターン・キング」の名を残した

▲「王」と「女王」は、ともに総選挙の賭けに敗れ、どの党も過半数の議席に達しない「宙づり国会」を招いてしまう。一方、「王」が英国の加盟を導いたEU(当時は欧州共同体)から、「女王」が離脱を主導しているのは、歴史のいたずらなのか。


日本経済新聞
・ 「2017年『保活』敗戦記」。月刊誌「東京人」の最新号が、こんなタイトルで働く女性4人の苦闘を紹介している。主に時間とおカネにゆとりのあるシニア男性を相手に、歴史散歩や鉄道沿線案内などの趣味的な読み物を載せる雑誌としては、異色の企画といえる。

▼ルポは今の東京で子を預ける保育園を確保するのがいかに困難かをリアルに伝える。ある女性は保育園探しに都合がいい4月から6月の出産を目指し妊娠の時期を調節、出産までに待機児童の少ない区に引っ越した。それでも5つの認可保育園すべてに落選。高くて遠い無認可施設を利用しつつ、仕事もし、保活も続ける。

▼東京という街は昔から子育てに冷たい面がある。歴史研究家、竹内正浩氏の著書によれば、赤ん坊の泣き声がうるさいと若い夫婦を入居させない民間アパートもあったという。そのため巨大団地が高島平に完成した時は、高めの家賃にもかかわらず20代の夫婦が数多く移り住み、地域の保育園を活用しながら、共に働いた。

▼出産ラッシュが起こり、公園には子どもらの笑い声が響き渡った。今、保育園の新設が反対運動で進まない例が目立つ。生徒の減った小学校の校舎や校庭、団地の空き部屋など、使える空間は結構ありそうだ。高度成長期の遺産を子育て支援に生かし、にぎわいにもつなげる。そんなまちづくりのイノベーションがほしい。


産経新聞
・  水上勉の『飢餓海峡』は推理小説だが、風景描写にも筆致の妙味がある。「ヒバ、杉、黒松などのいり混じった林は、上の方へゆくほどに黒々と…」「樹肌にからみついた蔦(つた)や藤の葉だけが、茶褐色に色づきはじめていた」と筆が行き届いている。

 ▼青森・下北半島の点描である。丹念な現地踏査の産物とばかり思っていた。違うらしい。「五万分の一の地図で書きました」と、ある対談で種を明かしていた。下北には行ったが、山奥までは行っていない。杉や松などの立ち木は、みんな地図に書かれている-と。

 ▼等高線を見るだけで、山の形状や眺望が目に浮かぶ。そんな地図読みの手だれも多いと聞く。文才も豊かな水上は、右脳と左脳を存分に使いこなしたに違いない。等高線を習った子供時分、地図とわが指を見比べた記憶しかない小欄には、ピンと来ない能力である。

 ▼地図の未来はどうなるだろう。日本版GPS(衛星利用測位システム)の本格運用が近い。先日は、測位用衛星の2号機が打ち上げられた。6年後には7基体制となり、位置情報の誤差はわずか6センチになるという。車の自動運転など暮らしやすさにつながればいい。

 ▼いまや電脳空間で地図を開けば、その土地の道も建物も写真で見られる時代になった。「知らない町」へのあこがれに胸を躍らせることも少ない昨今だが、〈新しき地圖(ちず)ひろげ讀(よ)むたかぶれるこころ少くなりたる日々に〉(扇畑利枝)の感覚はやはり忘れたくない。

 ▼万緑の季節である。分厚い時刻表や使い古した地図を抱えて、夢想の旅に出かけるアナログ世代も多いことだろう。図面に引かれた等高線に、鳥のさえずりや小川のせせらぎを聞くことのなかった小欄も、ここは「紙の地図」に一票を投じておく。


中日新聞
・ 兄や姉からの「お古」「お下がり」。今聞けばどこか懐かしい気持ちになるが、それをあてがわれた当時の少年少女はやはり面白くなかったか。「ポーの一族」「トーマの心臓」などの漫画家の萩尾望都(もと)さん(68)が「お下がり」の思い出についてこんなことを書いている

▼萩尾さんにはお姉さんがおり、入学式などではお下がりばかりを着させられたそうだ。当然ながら、自分の妹にも引き継がれるのだろうと思っていたが、「もう着られないね」と新しい服を買ってもらえたそうだ。自分だけが「お古」。ちょっぴり恨めしげである

▼こっちは約四十年も使い回していたというから、お古もお古の話題である。米航空宇宙局(NASA)の宇宙服。一九八一年に導入以来、使われ続けた結果、老朽化と不足が心配されている

▼国際宇宙ステーションの船外活動などでの雄姿を見れば、最新の科学技術によって製作されているのだろうと想像していたが、博物館に入っていても不思議ではない古い服とは驚く。新型宇宙服の開発の遅れが「お古」の原因だそうだ

▼使い捨ての今の時代にあって何とももの持ちの良い話で宇宙服の耐久力に感心する一方、老朽化による事故も相次いでいると聞けば、さすがにもう限界である

▼新型の開発が待たれる。その「おニュー」の生命維持装置をひがむような宇宙飛行士は一人もいないだろう。

※ メイ首相が2社、保育園、GPS、宇宙服の話題でした。

どの文章も秀逸です。 

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