このコーナーにいかにもふさわしい記事を見つけました。
明治時代の日本はどう見られていたのでしょうか。
「本が好き!」
http://www.honzuki.jp/book/status/no49439/index.html
明治日本の美を賛嘆し、その本質を敬愛した英国人写真家の、明治日本滞在記。とにかく日本について美辞麗句に満ちており面映ゆい。日本大好き外国人の滞在記です。
本書は、英国人写真家であるハーバード・G・ポンディング氏が、一九〇二年から一九〇六年の間に、度々日本を訪れ、通算三年にわたる日本滞在の体験を綴ったものである。
日本の文化を興味本意に取り上げた紀行ではなく、写真家らしい著者の深い観察眼と豊かな感受性によって、日本の美を賛嘆し、日本の本質を探求している。
その内容は驚くべき精緻さで綴られ、明治日本のガイドブックのようである。とにかく日本について美辞麗句に満ちており、面映ゆいほど。
また、数多く掲載された明治日本の写真は、当時の日本を思う浮かべるのを容易にし、著者の巧みな文章を楽しむのに大いに役立っている。
そんな日本を褒めちぎった本書は、全十章の構成。
【第一章 東京湾】
東京湾から日本に入るとき目にする、日本の象徴・富士山の神々しい美しさを語る。
これから『この世の楽園』に入るのだという、感慨がひしひしと伝わってくる。
【第二章 京都の寺】
古都の寺を訪ね、庭園の美しさ、建築物の歴史、襖や壁を飾る絵師の作品を精緻に解説。
また伏見稲荷を訪れて、稲荷社の謂れ、神道の教えを紹介し、鳥居の脇にいる易者や、金を払うと小鳥を放す老婆の様子などを語る。
易者にまつわるエピソードも興味深いが、古寺を訪ねて、畏敬の念を抱き、心が清められる感じがすると感懐を述べている、その感受性の豊かさに驚嘆。
【第三章 京都の名工】
日本の伝統工芸を高く評価している著者は、工芸品の製作場を見学するだけななく、象嵌細工の名匠・黒田氏や、七宝焼きの名工・河並氏たちと交流し、一流工芸品を作り出す人物の考え、技術、人物像について丁寧に解説。
日本の工芸技術の高さを証明する、スペインの職人に見せた、象嵌細工の施されたシガレットケースの挿話に興味を引かれる。
【第四章 保津川の急流】
京の都を静かに堪能した二章、三章から一転、京都の保津川下りを迫力満点に語る冒険的体験の章。
一流の腕を持つ船頭たちの躍動を描きつつ、美しき保津川の峡谷を荒々しく、そして優雅に下る様子を精緻に描く。
まるで自分も保津川を下っている気持ちにさせる筆致は見事。特に急流でのシーンはスローモーションで体験しているようだ。
【第五章 阿蘇山と浅間山】
川下りの冒険をした後は、火山へ登る冒険である。阿蘇山と浅間山を紹介しつつ、登山の様子を語る登山記。
噴火を始めた浅間山で、噴石に襲われ、火山ガスに巻かれ、間一髪助かる様子を克明に描写している。
死にそうになったにもかかわらず、写真を撮ろうとするポンディング氏はまさに写真家である。
【第六章 精進湖と富士山麓】
富士五湖を巡り、それぞれの特徴や自然の美しさを賛嘆。
精進湖湖畔の小さなホテルの主人とのエピソードを交えながら、精進湖の美しさを語る。
富士川下りでは、その足取りがGoogle Mapsで追えるほど、地名が克明に記されている。
【第七章 富士登山】
新五合目から登れる現代と違い、一合目からの苛酷な富士登山記である。
時刻と到達した海抜が逐一記録し、刻々と変わる天候や山肌の様子、山小屋の様子を細かく観察しており、ポンディング氏は美を讃える能力ばかりでなく、探検的記録の能力も持ち合わせているようだ。
山中湖が正面に見えるからと、一直線に山中湖へ向かう下山行は無謀だが、どこかユーモラス。
【第八章 日本の婦人について】
本書のもっとも興味深い章であり、明治日本と人々の姿がリアルに感じられる章である。
日本女性への敬愛に満ちているこの章は、日露戦争に夫を送り出す、女性たちの笑顔の奥に隠された悲しみを理解し、敵味方問わず傷ついた兵に優しく接する赤十字の看護婦たちを天使と讃えており、彼女たちの強さ、同情心、思いやりがひしひしと伝わってくる。
この章には、感動的なロシア兵と日本兵、看護婦のエピソードの他にも、明治日本の姿をリアルに感じさせる、ポンディング氏と日本将兵とのエピソードも世所である。
特に、黒木陸軍大将とのエピソードは興味深い。
「アナタサマ、英国のコトバ、話シマスカ?」
ポンディング氏の勇気を奮い起こして話しかけた質問をきっかけに、黒木大将は目を輝かせて、薩英戦争の状況を語り出す。
この当時の日本を明治の日本人の言葉で語る様子は、明治日本がリアルに感じられる、非常に興味深いエピソードである。
また日露戦争の勝利は、日本婦人による武士道教育の賜物であり、日本の婦人は国に貢献していると讃える黒木大将が印象に残る。
他にも、薩英戦争の発端となった生麦事件に触れ、伊藤博文や上村海軍中将とのエピソードを語るなど、当時の生々しい様子が感じられ、非常に濃厚な章だった。
【第九章 鎌倉と江ノ島】
鎌倉の寺や鎌倉八幡宮を巡り、大仏のこと、閻魔像を彫った仏師運慶や日蓮処刑などのエピソード、日露戦争での戦勝お礼参りに鎌倉八幡宮を訪れた人々の、浮かれず厳かな姿と心情への理解を描いている。
『第八章 日本の婦人について』と同様に、ポンディング氏の日本人の心の本質を見抜く観察眼と感受性、そしてそれに共感できる柔軟性は、本書を読む日本人の心を掴むはずだ。
【第十章 江浦湾と宮島】
沼津の内浦湾や江浦湾周辺を旅行記風に描き、広島宮島の魅惑的な美しさを幻想的に描いている。
内浦湾の三津浜で写した、小さな弟を背負う、九つになる船頭の孫娘の純朴な姿が、多く写真の中で一番印象に残っている。
* * *
明治日本の状況や生活を知るには、少々物足りない本書だが、著者の見た美しい日本を通して、日本の素晴らしさを再認識させられる作品だった。
それには、まったく違和感を感じさせない素晴らしい翻訳を行った、訳者の長岡祥三氏の力が大きい。
原文の量が多く、その半分を割愛せざるを得なかったことは残念だが、長岡氏が、著者の行動やエピソードが多く織り込まれた章を選び編集したことで、日本の魅力を伝える作品となったのは間違いない。
明治時代の日本はどう見られていたのでしょうか。
「本が好き!」
http://www.honzuki.jp/book/status/no49439/index.html
明治日本の美を賛嘆し、その本質を敬愛した英国人写真家の、明治日本滞在記。とにかく日本について美辞麗句に満ちており面映ゆい。日本大好き外国人の滞在記です。
本書は、英国人写真家であるハーバード・G・ポンディング氏が、一九〇二年から一九〇六年の間に、度々日本を訪れ、通算三年にわたる日本滞在の体験を綴ったものである。
日本の文化を興味本意に取り上げた紀行ではなく、写真家らしい著者の深い観察眼と豊かな感受性によって、日本の美を賛嘆し、日本の本質を探求している。
その内容は驚くべき精緻さで綴られ、明治日本のガイドブックのようである。とにかく日本について美辞麗句に満ちており、面映ゆいほど。
また、数多く掲載された明治日本の写真は、当時の日本を思う浮かべるのを容易にし、著者の巧みな文章を楽しむのに大いに役立っている。
そんな日本を褒めちぎった本書は、全十章の構成。
【第一章 東京湾】
東京湾から日本に入るとき目にする、日本の象徴・富士山の神々しい美しさを語る。
これから『この世の楽園』に入るのだという、感慨がひしひしと伝わってくる。
【第二章 京都の寺】
古都の寺を訪ね、庭園の美しさ、建築物の歴史、襖や壁を飾る絵師の作品を精緻に解説。
また伏見稲荷を訪れて、稲荷社の謂れ、神道の教えを紹介し、鳥居の脇にいる易者や、金を払うと小鳥を放す老婆の様子などを語る。
易者にまつわるエピソードも興味深いが、古寺を訪ねて、畏敬の念を抱き、心が清められる感じがすると感懐を述べている、その感受性の豊かさに驚嘆。
【第三章 京都の名工】
日本の伝統工芸を高く評価している著者は、工芸品の製作場を見学するだけななく、象嵌細工の名匠・黒田氏や、七宝焼きの名工・河並氏たちと交流し、一流工芸品を作り出す人物の考え、技術、人物像について丁寧に解説。
日本の工芸技術の高さを証明する、スペインの職人に見せた、象嵌細工の施されたシガレットケースの挿話に興味を引かれる。
【第四章 保津川の急流】
京の都を静かに堪能した二章、三章から一転、京都の保津川下りを迫力満点に語る冒険的体験の章。
一流の腕を持つ船頭たちの躍動を描きつつ、美しき保津川の峡谷を荒々しく、そして優雅に下る様子を精緻に描く。
まるで自分も保津川を下っている気持ちにさせる筆致は見事。特に急流でのシーンはスローモーションで体験しているようだ。
【第五章 阿蘇山と浅間山】
川下りの冒険をした後は、火山へ登る冒険である。阿蘇山と浅間山を紹介しつつ、登山の様子を語る登山記。
噴火を始めた浅間山で、噴石に襲われ、火山ガスに巻かれ、間一髪助かる様子を克明に描写している。
死にそうになったにもかかわらず、写真を撮ろうとするポンディング氏はまさに写真家である。
【第六章 精進湖と富士山麓】
富士五湖を巡り、それぞれの特徴や自然の美しさを賛嘆。
精進湖湖畔の小さなホテルの主人とのエピソードを交えながら、精進湖の美しさを語る。
富士川下りでは、その足取りがGoogle Mapsで追えるほど、地名が克明に記されている。
【第七章 富士登山】
新五合目から登れる現代と違い、一合目からの苛酷な富士登山記である。
時刻と到達した海抜が逐一記録し、刻々と変わる天候や山肌の様子、山小屋の様子を細かく観察しており、ポンディング氏は美を讃える能力ばかりでなく、探検的記録の能力も持ち合わせているようだ。
山中湖が正面に見えるからと、一直線に山中湖へ向かう下山行は無謀だが、どこかユーモラス。
【第八章 日本の婦人について】
本書のもっとも興味深い章であり、明治日本と人々の姿がリアルに感じられる章である。
日本女性への敬愛に満ちているこの章は、日露戦争に夫を送り出す、女性たちの笑顔の奥に隠された悲しみを理解し、敵味方問わず傷ついた兵に優しく接する赤十字の看護婦たちを天使と讃えており、彼女たちの強さ、同情心、思いやりがひしひしと伝わってくる。
この章には、感動的なロシア兵と日本兵、看護婦のエピソードの他にも、明治日本の姿をリアルに感じさせる、ポンディング氏と日本将兵とのエピソードも世所である。
特に、黒木陸軍大将とのエピソードは興味深い。
「アナタサマ、英国のコトバ、話シマスカ?」
ポンディング氏の勇気を奮い起こして話しかけた質問をきっかけに、黒木大将は目を輝かせて、薩英戦争の状況を語り出す。
この当時の日本を明治の日本人の言葉で語る様子は、明治日本がリアルに感じられる、非常に興味深いエピソードである。
また日露戦争の勝利は、日本婦人による武士道教育の賜物であり、日本の婦人は国に貢献していると讃える黒木大将が印象に残る。
他にも、薩英戦争の発端となった生麦事件に触れ、伊藤博文や上村海軍中将とのエピソードを語るなど、当時の生々しい様子が感じられ、非常に濃厚な章だった。
【第九章 鎌倉と江ノ島】
鎌倉の寺や鎌倉八幡宮を巡り、大仏のこと、閻魔像を彫った仏師運慶や日蓮処刑などのエピソード、日露戦争での戦勝お礼参りに鎌倉八幡宮を訪れた人々の、浮かれず厳かな姿と心情への理解を描いている。
『第八章 日本の婦人について』と同様に、ポンディング氏の日本人の心の本質を見抜く観察眼と感受性、そしてそれに共感できる柔軟性は、本書を読む日本人の心を掴むはずだ。
【第十章 江浦湾と宮島】
沼津の内浦湾や江浦湾周辺を旅行記風に描き、広島宮島の魅惑的な美しさを幻想的に描いている。
内浦湾の三津浜で写した、小さな弟を背負う、九つになる船頭の孫娘の純朴な姿が、多く写真の中で一番印象に残っている。
* * *
明治日本の状況や生活を知るには、少々物足りない本書だが、著者の見た美しい日本を通して、日本の素晴らしさを再認識させられる作品だった。
それには、まったく違和感を感じさせない素晴らしい翻訳を行った、訳者の長岡祥三氏の力が大きい。
原文の量が多く、その半分を割愛せざるを得なかったことは残念だが、長岡氏が、著者の行動やエピソードが多く織り込まれた章を選び編集したことで、日本の魅力を伝える作品となったのは間違いない。