木村忠啓の大江戸百花繚乱

スポーツ時代小説を中心に書いている木村忠啓のブログです。

虫聴き

2012年05月30日 | 江戸の文化
虫聴きという言葉を知ったのはもう随分前で、東京は墨田区にある向島百花園に行った時だった。向島百花園は以前から夏から秋にかけて虫聴きの会を行っている。
だが、江戸時代、虫聴きの場所として名高かったのは道灌山である。
道灌山は現代に残っていない地名であるが、JRの日暮里から田端の線路の辺りである。
感じとしては、京浜東北線の田端から赤羽に向かっていく左手に見える丘が道灌山のようにも思えるが、その感覚は半ば当たっていて、古くは日暮里から赤羽の丘をも道灌山と言ったらしい。
確かに日暮里の辺りは高台であり、江戸時代には日光、筑波の山並み、下総の国府台などが見え、近隣も一望できた。

さて、虫聴きであるが、花見のように、虫聴きは酒の口実で、実際のところは酒を飲みたかっただけのようにも勘ぐることができるが、「詞人吟客ここに来りて終夜その清音を珍重す」と江戸名所図会にもある通り、主役は酒ではなく、あくまでも虫の声だったようだ。
下の絵は江戸名所図会からの抜粋だが、三人の男が思い思いに虫の声を楽しんでいる。酒を飲んではいるようだが、何とも風流な光景だ。今の花見のように、カラオケやラジカセを持ちこんでドンチャンというのとはえらく違う。江戸の夜は本当に暗く、静かだったから、このような場所に来たら、場合によっては一晩をここで明かしたのかも知れない。
江戸の町内に住んでいる人は現代で言うキャンプのような感覚で虫聴きを楽しんでいたのだろうか。
男三人で、虫の声を聴きながら酒を飲む、というのは、やはり風流だ。
現代の感覚からすると、どんなイベントが近いのだろう。いずれにせよ、気が合う友人というのは、有り難い。
年齢を重ねてくると、若いときとは違って段々、ものの考え方が狭まってきてしまうものだが、価値観が似通った友人は何事にも代えがたい財産である。

虫売りも江戸の町には存在した。
飼っている間は、虫の声を楽しみ、盆に放してやるのが一般的だったので、6月上旬から7月盆までがピークの商売で、盆以降は売り上げが減った。
虫の種類としては、ホタル、コオロギ、松虫、クツワムシ、玉虫、ヒグラシなど多くの種類がいた。
生き物商売だからか、棒手振りのような行商よりも、固定店舗(といっても屋台のようなものが多かった)での販売が多かったという。
現代では、鳴かなく外来種のカブトムシだとかクワガタが人気だが、これも時代なのだろう。
カブトムシやクワガタも悪くないが、少なくとも風流ではない。

そういえば、虫の声を楽しむのは日本人だけだ、といった内容を耳にしたことがあるので調べてみると、ドイツではこおろぎの声を楽しむためにカゴを用意していたらしい。
ただ、多くの種類の虫を聴き分けるというのは、繊細な日本人ならではの感覚のようだ。
インターネットを調べていて、ドイツ人はチョコレートコーティングしたコオロギを食べる、というサイトを発見したのだが本当だろうか。もっとも、コオロギはフリーズドライした原型を留めないもので、ジュリア・ロバーツも愛食していると言う。一種の健康食のカテゴリーなのだろう。
日本人はもっとワイルドでイナゴだとか、タガメだとか、ザザムシを食べて来たのだから、驚くには足らない。イナゴの唐揚げだけは食べた経験があるし、また食べていいと思うのだが、残りは食べる気がしない。もっとも、イナゴだとかタガメなどは、残留農薬のほうが心配だ。

おまけとして、虫の声を聴けるサイトを発見した(real playerが必要)ので載せて置きます。

参考: 江戸名所図会を読む(東京堂出版) 川田壽著



鈴虫の販売をしている松井スズ虫研究所
(以前、何回もここからスズムシを買っていました。懐かしい!)

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