私が消防団に入って18年ほどになる。地元育ちで無い為、他の団員に比べて年齢の遅い入団であった。同じ村の青年に(当時)、「名前だけ貸してくれれば良いから。」と誘われ軽い気持ちで入った。消防団というのは、あくまで基本はボランティアであり、決して強制では無い。しかし、よほど面の皮が厚くない限り、訓練や夜警、出初式などの儀式を休むことが出来ない!地域の人間だけの集まりであるため、若いうちは勝手に休むと非難を浴びることになる。
比較的、人口の多い街場の地区では、大体、10年もすれば、若い団員が入り退団できるのだが、如何せん、限界集落と呼ばれるような我々山間部の消防団には、入団する団員がいないのである。私も、50歳を過ぎても消防団に入っているとは思いもしていなかった。
私も昔とは生活環境が変わり出張が多くなり、消防の出事に参加できなくなってきている。今年からは、年末年始の日本橋三越に出店することになり、一年で一番大きな行事の「年末の夜警と出初式」にも、出席できなくなってきた。
よし、今日こそ「退団させてくれ!」と言おうと思いながら、一緒に掃除をしている「Y」君に何気なく聞いてみた。「Y」君は地元の人間で年は私と同じくらいである。
「「Y」君。最近仕事は忙しいかい?」
「今年の「4月に給料を下げる」と言うんで辞めたんだ。今は無職よ。」
「それは大変だなー」
「そうよ、こんな消防の掃除をしとる暇は無いんじゃ!」
「ところで、消防はもう何年になるん?」
「26年じゃ」
「そうか。オレなんか、まだ18年だから、退団は出来ないな?」
「そりゃそうじゃ!まだ後10年はせにゃ!」
こんな遣り取りをした後ではとても団長に「退団したい!」とは言い出せなくなってしまった。一度入ったら二度と生きては出られない、「虎の穴」の様な消防団である。 チャンチャン。