硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-05-02 22:00:41 | 日記
「ああっ。やられちゃったね・・・。まぁ、いいか。ところで、君の名は? 」

草薙剣はたしかにその者を貫いている。澪は驚きながらも、

「須佐之 澪」

と答えると、その者は、女性らしく微笑んで「みお」と呼び、

「我が名はフレイア。このシステムのプロトコル。あなたは今までの守り人とは違う。ようやく巡り合えた。この出来事は必ず正確に次の世代に伝えてください。あなたはバグをデバッグするもの。目覚めれば、必ずこの世界を理解する。」

そう言うと、「もう君には必要ないもの」と草薙剣を引き抜き、剣を灰にしてしまった。唖然とする澪の前で優しく微笑むフレイアは、澪から鬼神の能面を取り、「これも必要ない」と言って、手のひらの上から消し去った。そして、自身の剣を澪に差し出し、「この剣を持て。名はフルンティング。ディバックを迫られた時、きっと君の力になる。」と言い残し、再びオレンジの粒子になり消えていった。

「終わったのか? 」

フレイアから渡された剣を握りしめ、ゆっくりと荒野と化した地上に降り立つと、すべが無であったように思えた。そして、戦いの場であった空を見上げると、次第に意識が遠のいていった。

そして、いきなり「起きなさい」と、フレイアの声が聞こえ、澪は驚いて飛び起きると、そこは澪が住む大学近くのアパートのベッドの上だった。どうなっているのか訳が分からず、とりあえずカーテンを開け、外を見ると、そこにはいつもと変わらない風景が広がっていた。澪は夢でも見ていたのかと思ったが、胸の勾玉と、床に置いてある短剣は戦いがあった事を証明していた。しかし、日付も時間も正確に経過していた。テレビに映るアナウンサーもきちんと戦った日の翌日をの日付を告げていた。

狐につままれる。とはこの事かと思いながら、身支度をし、大学への道のりを歩く。壊滅的に破壊されていた街が、破壊されずにそこにある。体育館のカギを借り、いつものように早朝練習を行い、学食に行き、食事を摂り、友と語り、教室に向かう。平凡な日常であったが、それこそが現実離れをしていた。

浅田みゆが澪に気づき、元気よく手を振っている。手を振り返し、みゆの隣に座ると澪は昨日の出来事について尋ねた。

「浅田さん。昨日、お昼から何してたの? 」

「なになにぃ。みゆのこと気になるのぉ。うふふっ。う~んとねぇ。きのお~は~。そうそう。近くの公園に行ってね、お弁当を食べて、お日様が気持ちよかったから、芝生の上に寝転んでお昼寝してたよ。」

「えっ。それじゃあ、変な怪物の事も、仮面の人の事も知らないの? 」

「なに、それぇ~。みお君、おもしろ~い。で、その物語の続きはぁどうなるの? 」

「いやっ。なんでもないです。」

その時、フレイアの言っていた『世界』というものが何となく理解できた。そして、不条理な暴力によって破壊されてしまった街を見た後の、いつもの風景や、当たり前だと思っていた日常は、有難く、尊いものなんだなと思った。