硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「巨神兵東京に現る」 エピローグ。

2020-05-03 20:42:24 | 日記
午前の講義が終わる。深夜にまで及ぶバイトをやり遂げてからの朝の講義は本当に辛い。でも、フリスクを口に入れたり、時には自分で頬を叩き、頭には入らないけど、辛うじてノートを取って、授業に乗り遅れないように頑張れていたのは、学食で友と無駄話と、名前も知らない気になる女子を遠くから眺める事が、近頃の元気の元だったからだ。
チャイムが鳴ると、思い切り背伸びをして、思い切り空気を吸う。すると、ほんの少しだけ覚醒する。筆記用具をカバンに詰め込むと、友が待つ学食へいそいそと移動した。

食堂までの通路の脇の落葉樹の葉は色づき始めていて、季節が移ってゆくのを感じた。澄み渡る青い空と柔らかな日差しは、疲れ切った心と身体をいやした。
著名なデザイナーがデザインしたという打ちっぱなしの外壁の食堂が見えてくると、学食へ向かう学生たちの群れの中に白いブラウスにパステルカラーのカーディガンを羽織り、質の良いどこかのブランドのショルダーバッグを肩から下げて、桜色のふわりとした膝が少し出る丈のスカートと、ハイソックスに黒のタッセルローファーの靴を履いた彼女が、肩まで伸びた真っ直ぐな黒髪が風になびかせながら軽やかに歩いているのが見えた。

その時、僕はなぜか、湧き上がる気持ちが押さえれなくなって、彼女の側まで駆け寄ると、今までの自分では考えられない行動に出てしまった。

「滝本さん!」

知らないはずの彼女の苗字を呼んだ事に、自分でもびっくりしたが、彼女は、驚きもせず、僕の方を見て返事をした。

「はい。」

「突然すいません。」

「はい。」

「あのっ、あなたの事が好きです。僕と付き合ってくれませんか?」

そう言うと、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべ、

「もちろん! 君がもう一度、告白してくれるのを待っていたんだよ。」

彼女は、戸惑う事もなくいきなり僕の胸に飛び込んできた。突然の出来事にしどろもどろになりながらも、彼女の背中に両手を回すと、学食に向かっていた大勢の学生達は、僕たちを見て、フラッシュモブが始まったかのように、温かい拍手を送ってくれていた。


                                  完



あとがき

巨神兵東京に現る。スピンオフ物語、最後まで読んで頂き有難うございました。
この物語自体はずいぶん前に、思い付きで書いていったものだったのですが、改めて読み返してみて、これではいかんなと、手入れをしながら、自分なりに完結させることを目指しました。
どこかで誰かが、通勤や通学の途中で、少しでも楽しんでくれればいいかなと思って書いていたのですが、世界全体に暗い影を落とす世になってしまいました。
出口はまだまだ見えませんが、どうか、健康に気を付けて日々をお過ごしください。

そして、最後に、

拙い文章に「いいね」を押してくださった方、本当にありがとうございました。とてもうれしかったです。また、粘り強く最後まで読み切ってくれた方々、本当に有難うございました。