硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 54

2021-05-23 21:06:08 | 日記
「それって、箸の持ち方とか食べ方とか? 」

「まぁ、そんな感じや。あんな、父さんの場合は、ドライブに行った時な、横から入ってくる車すべてに道を譲ってたん。それで、うちら、どんどん遅れてくんやけど、お構いなし。最初はなんや頼りない人やなて思たし、急いどったら、ちょっと意地悪したなるのが普通やろ。そやけど、お父さん、いつも、にこにこしながら譲るんや。それをずっと横で見ててな、この人と一緒におったら穏やかな幸せがやってくるかもと思たん。それが好きになり始めたきっかけやったな。」

「じゃあ、母ちゃんが好きだった人はどうだったの? 」

「ええ人やったよ。イケメンやったしな。身体の相性もよかったしな。」

「かっ、身体の相性! 」

「ああっ、きららにはまだ早かったな。これは、彼氏が出来るまでとっとくわ。」

「ええっ。でも、話くらい聞いておきたい。」

「あかん。これはもうちょっと大人になってからや。」

「わかりました。」

「ええ子やな。で、話の続きや。その好きだった彼氏を振る事になったんは、彼は猛烈にモテてたからや。」

「モテてたらどうなるの? 」

「他の女性がほっとかんやろ。それで、浮気するかもしれんし、いや、もうしてたかもしれん。そんな人やったら、ずっと心配しとらなあかんし、しまいには、嫉妬に身を焼かれてしまう。そんなことで心がボロボロになるんは、もうたくさんやった。」

「もうたくさん? ボロボロになった事があるの? 」

すると母は、よほど悔しい想い出だったのか、酔いが回ってきたのか、饒舌に拍車がかかった。