硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 50

2021-05-19 22:12:23 | 小説
「さぁ、こっから一気に片付けたるでぇ。きららはワイングラスと冷蔵庫に入ってるワインを出しといて。」
棚から綺麗に磨かれたワイングラスと、冷蔵庫から程よく冷えたペットボトルのワインを取り出す。
母は洗った食器を手際よく片付けてると、円状の白いお皿を取り出して、縁に沿ってクラッカーを並べ、その上にクリームチーズと生ハムをキレイにのせた。

「よし、今日はこれくらいでええ。我ながら上出来。きらら、ワインを注いでおいて。最初は三分目くらいでええよ。」

「三分目ね。」

ペットボトルのふたを開けワインを注ぐ。ワインと言えば、凄く高額なものもあるみたいだけれど、様々なワインを飲んできて至ったのは、国産のペットボトルのワインだった。母曰く、「別に、気取ったり、うんちく語るわけでもないし、しょせん家飲みなんやし、自分の口に含んで旨いて思たらそれが一番やろ。」だそうである。

再び、白いテーブルクロスの上が華やかになる。綺麗に並べられたおつまみをテーブルの中央に置き、再び私の前に座ると、「じゃあ始めよか。」の言葉と同時に、グラスを持ち、

「きららの未来に乾杯。」

と、言って早々にワインを軽く口に含んだ。私にはまだ早く、おいしいとは思えないけれど、少しだけお付き合い。
父の帰りが遅い時、時々、未成年であるにも関わらず私にお酒を進め、そして、
「きららと外へ飲みに行きたいわぁ。美味しい店いっぱい知ってるし、きららにもうちの好きな味、知っといてほしいしなぁ。」と、いつもこぼす。
友達のようでもあり先輩のようでもある母は本当に面白い人だと思う。