硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 56

2021-05-25 21:07:06 | 小説
「その経験もあったから、お父さんとならって思たん。」

「でも、好きって気持はどうなるの? 割り切れるものなの? 」

困るかなと思ったけれど、母は、嬉しかったのか、顔をほころばせると、腕を組んで、持論を聞かせてくれた。

「なかなか鋭いとこついてくるなぁ。さすが我が子。そうやな。正直言うと、燃え上がるとか、身体がしびれるとか、そういう感情ないから、物足りないなとは思う。覚悟を決めて、その人と共にすることで、違う幸せを手にできたとは思うけど、振り回される恋っていうのは、視野が狭なるから、気持が不安定になるんよ。まぁ、そういう恋の方がええっていう子もおるけどな。けど、じわじわと時間を掛けて好きになってゆく恋は、ずっと周りがよく見えてる。実際、お父さんの事をじわじわと好きになっていって、結婚したら、ちゃんと話し合えたし、苦楽を共にできたし、きららが生れて、ここまで大きいなったのは、うちとお父さんが幸せな証拠。割り切れるとか、割り切れやんとか、そういう表面的な気持だけではたどり着けへんだと思うよ。」

「・・・・・・。」

「きららがいてくれて、ようやく愛っていうものも分かってきたしなぁ・・・。実際、愛なんて簡単にわからんもんやで。歌唄うように、あいしてるぅ~。ていうのは簡単。教会で神様に愛を誓って離婚したカップルが何人おるって。それくらい、愛も未来も誰にもわからへんから、その時、その時の決断が、愛や未来を作ってゆくんやと思う。例えるなら、人生はプログラマーのないRPGみたいなもんやな。」