かわずの呟き

ヒキガエルになるかアマガエルなるか、それは定かでないが、日々思いついたことを、書きつけてみようと思う

かわずの書棚

2013-02-17 | 気ままなる日々の記録

 連日の寒波。
 その上、配偶者が体調を崩し料理長を拝命。献立は普通食と病院食で、今まで書店で時間をつぶしていた食材調達のスーパーでもカートを押して丹念に探索している。治療は隔日の点滴で、医院までの「お抱え運転手」も兼務。医院駐車場での待ち時間はおおむね1時間。
 かくして、本業の庭仕事は暫し休業で、代って“うたた寝つき乱読業”に精を出しています。

 以下に2~3冊について読後感を書きます。 まずは朝井リョウ著『何者』。ご存じ2012年下期の直木賞受賞作です。筆者は1989年生まれで早稲田大学卒、現在会社員で23歳。直木賞受賞式の後は編集者や文芸部記者と二次会へ出かけるのが慣例なのに、彼は受賞後の挨拶で「会社の仕事はきちんとしながら、なお執筆も続けたいので、毎朝4時起床で机に向かっています。従って今日も早々に帰らせていただきます」と述べたそうで、そこに新しい風を感じないわけにはいかない。このニュースに私は好感を持ちました。

  この小説の登場人物は、東京の大学に学ぶ学生たちで、いわゆる「就活」を始めた三年生だ。この作品を通して私たちの世代は初めて“現代の就職戦線”を垣間見ることができるのだが、そこにあるものはゾッとするような荒涼たる荒野のような気がします。
 ネットで応募する会社を探し、合同説明会や会社訪問にも足しげく通い、エントリー・シートと呼ばれる応募用紙をメールで送り、これが一次審査にも使われ、続いてネットで「常識テスト」を受ける。人気のある職種だと数名の募集に、北は北海道から南は沖縄まで数千名の学生が応募してきます。ネットを使っての「常識テスト」でも友人の協力を得て即答していった方が高得点となるが、会社の方も「友人の協力を得る」ことは公認で、“優秀な友人が多い”と評価してくれるといいます。これらの難関を突破してやっと「学力テスト」となるわけですが、300人も入る会場にすし詰めで、5時間ぐらいぶっ通し。筆記試験は英・数・国が一般的ですが(専門のテストは後日)最後に「クリエイティブ・テスト」というのがあって、たとえば数行の詩が書いてあって「この詩の続きを書きなさい」とか、短い文章を示して「この文章は、いわゆる起承転結の起です。承・転・結を書きなさい」とか、「言葉を使わず、自分を表現しなさい」であったりするといいます。この後「専門の試験」とか「一般面接」「部長面接」と続くようです。

 30社くらい落ちるのは当たり前。合格者のみに連絡があるという期日に何の連絡も入らず、どの時点で易しそうな会社に切り替えるか、一体自分は何がしたいのか、と悩み、友人との会話にも今まで経験したことなない空気が流れ出す様子が描かれます。一年休学してアメリカの大学に入り、数単位を取って帰国したことをエントリー・シートにどんなトーンで書くか悩む女子学生に、就活の暗い影を見ました。
 ヒト・モノ・カネが気軽に国境を超える時代の「就活」とはこれしかないのか。それにしても“フツー”の人間にはあまりにも非人間的な扱いではないのか、と考えさせられてしまいました。

 

次に『女ことばと日本語』。
 
「応援してくれて……」「全然OKです。」「鳥肌が立ちました。素敵でした。」などなど。
最近の若い人の言葉にイライラする私です。当然「応援して下さって」「全然ダメです」「鳥肌が立ちました。二度と見たくありません」と言うべきです。
 ところが、言葉が時代によって、あるいは政治的要請によって、目まぐるしく変わってきたということがこの新書によって思い知らされました。
 明治維新後、「国民国家建設」を目指した政府でしたが、一番厄介な問題が“共通の日本語”どのように生み出し育てるか、という問題でした。何しろ薩摩の人と会津の人が東京で逢っても、決して会話は成立しなかったからです。その上、東京言葉(江戸弁)も、地域・身分・職業によって異なり、書生言葉が生まれると、世代間でも意思疎通を欠くほだだったと云います。

 苦労の末、学校教育を通して「標準語」を習得させます。そのとき問題になるのが「女ことば」でした。実は「女ことば」も実態がなかったといいます。京女の言葉か、浅草の女将の言葉か、地方の農家ではほとんど男と同じ言葉が使われたいた地域もありました。
 
 結果的に「女ことば」を定着させたのは「翻訳家」で、欧米の小説を日本語に訳すとき、例えば、イギリスの良家のお嬢様の会話を、どのような日本語にするか、試行錯誤の上作っていったといいます。その翻訳小説がよく読まれれば、そこで使われた話し方が若い人々の口に乗ります。年寄りが、そうした言葉を嫌いますが、勝負は目に見えていました。

 「女子学生」と「女学生」の違いも面白いと思いましたし、女学生の「てよだわ言葉」も面白い。一読をお薦めします。 

 

 最後に「abさんご」。史上最高齢75歳第148回芥川賞受賞作。最初に書店で手にしたときは「読みづらい!」ということでパス。ところが、書評をいろいろ目にすると「声を出して読むと実にいい味わいがある」とか「感性の新しい表現」だとかなんとかあって、また本屋に出かけら「売り切れで、入荷の見通しがない」とのこと。こうなると、欲しくなって、入荷したら電話をくれるように頼んで、やっと手にしました。
 しかし、今、途中で読むのを休んでいます。後日読もうという気はありますが、今のところ手が伸びません。私の感性が乏しいからかもしれませんが、私にはあまりにも読みづらいです。読み方のご教授をお願いします。

 

 (だらだらした文章ばかりで失礼しました)