(インドのホームレスや物乞いへの対応について語る/youtubeリュウサイ / Ryusaiさんの動画より)
こんにちは
小野派一刀流免許皆伝小平次です
以前連載した『インド放浪・本能の空腹』、あの時のインド訪問から6年後、私は再びインドを訪れました。
会社勤めをしておりましたので、2週間ほどの短い期間でしたが、まあまあ、色々な出来事がありましたので、その時の様子をまた日記風につづって行きたいと思います
************************************************
一泊二日のバンコクトランジット、バンコクはとてもいい街で名残惜しい気持ちを持ちながらも、おれと前橋はホテルを出てタクシーで空港に向かった。ここからカルカッタまではインディアンエアラインでの2時間半ほどのフライトだ。
飛行機に乗ると、おれと前橋はカルカッタに着いてからの「計画」の確認をした。
『昨日話した通り、カルカッタの市街に入って行く衝撃は、まず一人で味わうってことで、お前が先にタクシーでサダルストリートまで行く、それでどうにかインド博物館の入り口前まで行き、そこでおれを待つ、おれは2、30分してから後を追うから』
『お、おお…』
『で、サダルストリートのどこら辺にタクシーが停まるかはわからないからさ、降りたら左右をよく見て、大通りの方へ向かう、片側3車線くらいの大通りだから、間違って反対の通りに行ったら、人混みはすごいけど、狭い通りだからすぐに引き返して反対の方に向かう、その大通りとサダルストリートのT字の交差点の左側にインド博物館があるから』
『お、おお…』
『で、もしインド博物館の入口で、おれを待っている間、どうしてもポン引きや物乞いを交わし切れない、と思ったら目の前の地下鉄の入口を降りて、下でおれを待っている、OKか?』
『お、おお…、でも、大丈夫かな…』
『まあ、昼間だし、大丈夫だと思うけど、おれが初めて来たときは夜だったしな、いきなりタクシー囲まれて、降りたらものすごいポン引きと物乞いの攻勢をくらって、もう右も左も分からなくなって、ダッカで知り合った日本人のK君と待ち合わせするはずだったホテル、タクシー降りたところから目と鼻の先だったんだけど、その時はもう何が何だか…、でポン引きや物乞いを交わす内に完全に自分がどこにいるのかも分からなくなって、それで詐欺師に引っかかってそいつの紹介するホテルまで行っちゃうことになって、まあ、ビビりまくってたからな』
『おれ、やっぱり不安だよ…』
『最悪、初めての時のおれのようになって、もう何が何だかわからなくなったら、リクシャでもタクシーでもつかまえて、このホテルに行って待っててよ、10ルピーも出したら行ってくれるから』
と、おれは地球の歩き方に出ていた一軒のホテルに印をつけ前橋に渡した。
そうこうする内、無事にカルカッタダムダム空港に飛行機は着陸した。6年前の夕暮れ時、当初のインドへの情熱などは失っていた中、空港は大きかったが、ビルは煤け、屋上のネオンのCALCUTTAの真ん中のCの文字が消えているのを見て、『おれはなんでインドなんかに来たんだろう。。』とすでに後悔し始めていたことを思いだす。
入国手続きを終え、ロビーに出ると、6年前と同じように大勢のタクシーのポン引きが、柵の向こうで大声で喚き散らし、おれたちを自分のタクシーに乗せようとしている。前橋はすでに圧倒されているようだ。おれたちはそのまま両替カウンターへ向かい、インドルピーへの両替を済ます。
『さ、いよいよだな』
『お、おお…』
前橋の顔は引きつっている。タクシーブッキングのカウンターへ向かい、前橋にサダルストリートまでの予約を促す。
『60ルピー』
6年前と金額は変わっていないようだ。カウンターの男から、プイっと顎を横に振られ、予約票のようなものを出される、すぐさまその予約票を若い男が受け取り、前橋の荷物を担ぐ。
『え、えっ、えっ?』
すでに前橋は慣れない旅人をジェットコースターのように振り回すカルカッタの激流に巻き込まれている。
『いいからさ、もう始まってるから、あの男の後について行けばタクシーに乗れるから』
『え、えっ、えっ?』
前橋は、おれと、荷物を持って歩き出している男を交互に見ながら、あわてて男を追った。
『荷物持ちにチップ払えよー!』
もう前橋には聞こえていないようだ。
空港の外に出て、速足で前橋の荷物を持った男が群がるタクシーの一台を目指し歩いて行く、その後を、まるで競歩の選手のように、膝をピンと伸ばしたまま緊張感丸出しの前橋がついて行く、その光景が妙に可笑しくて、大笑いしながらおれはガラス窓越しにタクシーに乗り込む前橋を見送った。
『行った、行った、まあ、やっぱりあの衝撃は一人で味合わなくちゃ、夜でないのが残念だ』
おれは近くのベンチに腰掛け、6年前にここに来た時のことを思いだしていた。タクシーが市街に近づくにつれて日も暮れて、徐々に凄まじい喧騒が車窓の外に広がって行く。
人、車、バイク、リクシャ、犬、牛
人、車、バイク、リクシャ、犬、牛
人、車、バイク、リクシャ、犬、牛
人、車、バイク、リクシャ、犬、牛
すごい光景だ。そこに大音量のインド音楽があちこちで響き交わって行く、そこかしこで座り込み、何かを煮炊きしている路上生活者、大都会でありながら信号なども無く、車線を無視して、けたたましいクラクションを鳴らしながら車やバイクがせめぎ合う、おれはあの時、もはや完全に戦意喪失状態になり、心の中で叫ぶ。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!もう二度とインドに行きたいなどと言いません、だから日本に帰らせて下さい』
ガイドブックには、初めてのインド旅行でカルカッタから入り、一歩も外へ出られなくなる日本人も多いと書かれていた。
『都市文明化の失敗作の街』
とも謳われていた街、カルカッタ、世界で一番汚い街、カルカッタ、実際に来てみれば、カルチャーショックだとか、おれにとってはそんな言葉の全てが生ぬるいと感じた。
夜のサダルストリートに到着するや否や、おれのタクシーは大勢のポン引きに囲まれた。おれの車の周りで男たちがわめいている、タクシードライバーが後ろを振り返り、少しドスを利かせて『Chips』と、金を要求してくる、外の男たちも『金を払え』と騒いでいる、空港で支払い済みだ、と言うと、外の男の一人がドアを開けてくれた。
すると今度はその男たちが喚きながら『おれの紹介するホテルへ来い』というようなポン引きを始める、それを無視して歩き始めると、路上にへたり込むように座っていた物乞いたちが一斉におれに向かって『Money』と手を出す、ビビりまくったおれはもう自分がどこにいるのかもわからず、うっかり細い路地を曲がる、今度はその路地にいた物乞いが『Money』と次々と手を出してくる。
前方から、両足を付け根から失ったジイサンが、手製のスケートボードのようなものに乗り、杖を使い、舟をこぐようにおれに近寄り『Money』。
悲鳴を上げそうになったおれの背後から『Money』とまた手が出て来る、その手の指は、全てが蝋のように溶け無くなっていた。。。。
あれから6年、おれは再びここへやって来た。
『前橋、大丈夫かな、まあ、昼間だし、大丈夫だろ!』
前橋が出発してから30分程が経過した。
『そろそろ行くか。。』
おれは、酷く傷ついた心を引きずりながらも人生をやり直す、そのための儀式に向かってゆっくりと立ち上がった。
つづく
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親友の前橋には本当に人生において言い尽くせない程世話になり、大変申し訳無いのですが、あの緊張感丸出しで硬直したように速足で歩く前橋の姿は、今も鮮明に覚えています。
こんにちは
小野派一刀流免許皆伝小平次です
以前連載した『インド放浪・本能の空腹』、あの時のインド訪問から6年後、私は再びインドを訪れました。
会社勤めをしておりましたので、2週間ほどの短い期間でしたが、まあまあ、色々な出来事がありましたので、その時の様子をまた日記風につづって行きたいと思います
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一泊二日のバンコクトランジット、バンコクはとてもいい街で名残惜しい気持ちを持ちながらも、おれと前橋はホテルを出てタクシーで空港に向かった。ここからカルカッタまではインディアンエアラインでの2時間半ほどのフライトだ。
飛行機に乗ると、おれと前橋はカルカッタに着いてからの「計画」の確認をした。
『昨日話した通り、カルカッタの市街に入って行く衝撃は、まず一人で味わうってことで、お前が先にタクシーでサダルストリートまで行く、それでどうにかインド博物館の入り口前まで行き、そこでおれを待つ、おれは2、30分してから後を追うから』
『お、おお…』
『で、サダルストリートのどこら辺にタクシーが停まるかはわからないからさ、降りたら左右をよく見て、大通りの方へ向かう、片側3車線くらいの大通りだから、間違って反対の通りに行ったら、人混みはすごいけど、狭い通りだからすぐに引き返して反対の方に向かう、その大通りとサダルストリートのT字の交差点の左側にインド博物館があるから』
『お、おお…』
『で、もしインド博物館の入口で、おれを待っている間、どうしてもポン引きや物乞いを交わし切れない、と思ったら目の前の地下鉄の入口を降りて、下でおれを待っている、OKか?』
『お、おお…、でも、大丈夫かな…』
『まあ、昼間だし、大丈夫だと思うけど、おれが初めて来たときは夜だったしな、いきなりタクシー囲まれて、降りたらものすごいポン引きと物乞いの攻勢をくらって、もう右も左も分からなくなって、ダッカで知り合った日本人のK君と待ち合わせするはずだったホテル、タクシー降りたところから目と鼻の先だったんだけど、その時はもう何が何だか…、でポン引きや物乞いを交わす内に完全に自分がどこにいるのかも分からなくなって、それで詐欺師に引っかかってそいつの紹介するホテルまで行っちゃうことになって、まあ、ビビりまくってたからな』
『おれ、やっぱり不安だよ…』
『最悪、初めての時のおれのようになって、もう何が何だかわからなくなったら、リクシャでもタクシーでもつかまえて、このホテルに行って待っててよ、10ルピーも出したら行ってくれるから』
と、おれは地球の歩き方に出ていた一軒のホテルに印をつけ前橋に渡した。
そうこうする内、無事にカルカッタダムダム空港に飛行機は着陸した。6年前の夕暮れ時、当初のインドへの情熱などは失っていた中、空港は大きかったが、ビルは煤け、屋上のネオンのCALCUTTAの真ん中のCの文字が消えているのを見て、『おれはなんでインドなんかに来たんだろう。。』とすでに後悔し始めていたことを思いだす。
入国手続きを終え、ロビーに出ると、6年前と同じように大勢のタクシーのポン引きが、柵の向こうで大声で喚き散らし、おれたちを自分のタクシーに乗せようとしている。前橋はすでに圧倒されているようだ。おれたちはそのまま両替カウンターへ向かい、インドルピーへの両替を済ます。
『さ、いよいよだな』
『お、おお…』
前橋の顔は引きつっている。タクシーブッキングのカウンターへ向かい、前橋にサダルストリートまでの予約を促す。
『60ルピー』
6年前と金額は変わっていないようだ。カウンターの男から、プイっと顎を横に振られ、予約票のようなものを出される、すぐさまその予約票を若い男が受け取り、前橋の荷物を担ぐ。
『え、えっ、えっ?』
すでに前橋は慣れない旅人をジェットコースターのように振り回すカルカッタの激流に巻き込まれている。
『いいからさ、もう始まってるから、あの男の後について行けばタクシーに乗れるから』
『え、えっ、えっ?』
前橋は、おれと、荷物を持って歩き出している男を交互に見ながら、あわてて男を追った。
『荷物持ちにチップ払えよー!』
もう前橋には聞こえていないようだ。
空港の外に出て、速足で前橋の荷物を持った男が群がるタクシーの一台を目指し歩いて行く、その後を、まるで競歩の選手のように、膝をピンと伸ばしたまま緊張感丸出しの前橋がついて行く、その光景が妙に可笑しくて、大笑いしながらおれはガラス窓越しにタクシーに乗り込む前橋を見送った。
『行った、行った、まあ、やっぱりあの衝撃は一人で味合わなくちゃ、夜でないのが残念だ』
おれは近くのベンチに腰掛け、6年前にここに来た時のことを思いだしていた。タクシーが市街に近づくにつれて日も暮れて、徐々に凄まじい喧騒が車窓の外に広がって行く。
人、車、バイク、リクシャ、犬、牛
人、車、バイク、リクシャ、犬、牛
人、車、バイク、リクシャ、犬、牛
人、車、バイク、リクシャ、犬、牛
すごい光景だ。そこに大音量のインド音楽があちこちで響き交わって行く、そこかしこで座り込み、何かを煮炊きしている路上生活者、大都会でありながら信号なども無く、車線を無視して、けたたましいクラクションを鳴らしながら車やバイクがせめぎ合う、おれはあの時、もはや完全に戦意喪失状態になり、心の中で叫ぶ。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!もう二度とインドに行きたいなどと言いません、だから日本に帰らせて下さい』
ガイドブックには、初めてのインド旅行でカルカッタから入り、一歩も外へ出られなくなる日本人も多いと書かれていた。
『都市文明化の失敗作の街』
とも謳われていた街、カルカッタ、世界で一番汚い街、カルカッタ、実際に来てみれば、カルチャーショックだとか、おれにとってはそんな言葉の全てが生ぬるいと感じた。
夜のサダルストリートに到着するや否や、おれのタクシーは大勢のポン引きに囲まれた。おれの車の周りで男たちがわめいている、タクシードライバーが後ろを振り返り、少しドスを利かせて『Chips』と、金を要求してくる、外の男たちも『金を払え』と騒いでいる、空港で支払い済みだ、と言うと、外の男の一人がドアを開けてくれた。
すると今度はその男たちが喚きながら『おれの紹介するホテルへ来い』というようなポン引きを始める、それを無視して歩き始めると、路上にへたり込むように座っていた物乞いたちが一斉におれに向かって『Money』と手を出す、ビビりまくったおれはもう自分がどこにいるのかもわからず、うっかり細い路地を曲がる、今度はその路地にいた物乞いが『Money』と次々と手を出してくる。
前方から、両足を付け根から失ったジイサンが、手製のスケートボードのようなものに乗り、杖を使い、舟をこぐようにおれに近寄り『Money』。
悲鳴を上げそうになったおれの背後から『Money』とまた手が出て来る、その手の指は、全てが蝋のように溶け無くなっていた。。。。
あれから6年、おれは再びここへやって来た。
『前橋、大丈夫かな、まあ、昼間だし、大丈夫だろ!』
前橋が出発してから30分程が経過した。
『そろそろ行くか。。』
おれは、酷く傷ついた心を引きずりながらも人生をやり直す、そのための儀式に向かってゆっくりと立ち上がった。
つづく
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親友の前橋には本当に人生において言い尽くせない程世話になり、大変申し訳無いのですが、あの緊張感丸出しで硬直したように速足で歩く前橋の姿は、今も鮮明に覚えています。