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蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

神話から物語りへDu Mythe Au Roman 1

2019年10月15日 | 小説
(2019年10月15日)
レヴィストロース神話学第3巻「食事作法の起源L’origine des manières de table」を引き続いて紹介します。今投稿では同書第2部「神話から物語りへDu Mythe Au Roman」を取り上げます。
過去の投稿ではこの2部には解説を入れていない。理由としては小筆(部族民通信・蕃神)の読み落としに他ならない。それと他の部、章と比べ、論調に違和を感じた。神話の紹介解析ではなく、神話群、神話叢の分析に入っているので、理解が(その時)至らなかったからである。(GooBlogでは投稿回数が多きに渡るが、部族民通信のホームページでは解説の「食事作法…3回」と「食事作法…続き2回」にまとめています。よろしく左コラムホームページをクリックしてHPにもブラウザを)

写真:2部の表紙、シャトーブリアンの文句が出ているがなにやら分かりません。


きっかけが最終巻「裸の男L’homme」。これを読んでいると「単純な構成の神話が伝播を重ねると複雑化する」現象が、目の下の頁と行間に書き込まれているとの実感にとらわれて、読み飛ばしたこの2部を読み直した次第となります。
本2部はページ数にして32、「部」としては小作りである。しかるに神話群の塊とは、伝播するとは…それを理解するに欠かせない。
それが伝達する中身は上記の「単純な神話…」です。その傍証に「転がりがん首」「太陽、月、星の創造」神話群を取り上げ、筋道、展開などでまとまる範囲と、「伝播を重ねる途上」でその範囲を超え「語り物指向」の奇想天外を濃く色づけた、面白くおかしな読み物に「逸脱した」神話を取り上げています。

がん首神話群の一例を紹介;
M391 Tembe族 転がる首
幾人かの狩人が森奥にキャンプを張り、日がな狩りにでる。大猟が幾日も続いて獣の首、皮、内臓がキャンプ場に転がり、まさに場に変わっていた。男達が狩りに出ている間は、少年が肉の燻蒸をう請けもっていた。ある昼下がり;
<Soudain, il vit surgir un inconnu qui inspecta le gibier d’un air mecontent, compta les hamacs et s’enfuit>突然見知らぬ男が浮き出るように現れた、獲物を調べテントに入りハンモックを数えた。その目つきには不満、怒りがこもっていた。
戻ってきた男達に少年は見知らぬ外来者の行動を語った。彼らは「作り事」として取り上げなかった。<Dans la nuit repeta l’histoire a son pere et il reussit a l’alarmer. Tous deux decrocherent leurs hamacs et allerent dormir dans la foret>夜になって少年は父親に先の話しを繰り返し、父に葉やっと事の重大さを気づかせられた。二人はハンモックをたたみ、一夜を過ごすため森に出た。
Peu apres程なくして
<ils entendirent des cris d’animaux nocturnes, des gemissements humains et le craquement d’os brises. C’etaient le Curupira et sa bande, esprits protecteurs du gibier , qui massacraient les chasseurs irreverencieux>
二人はキャンプ場から「夜の獣」の吠えと人の呻き、さらに骨の砕ける音を聞いた。Curupiraと配下の獣である、自然に不敬をはたらく狩人を殺戮する「獣たち」の守り神である。
一夜明けて、キャンプ場に戻った二人は血だらけ、凄惨な光景を目のあたりにする。転がる首級の一つが「村に連れ戻してくれ」と懇願する。父は息子を先立たせ、己は首を紐にくくり背負い込んで後を追う。しかし恐ろしさが先立ち、首を放り出した。それでも首は転がりながら追いついて願いつく。<L’homme pretexta un besoin pressant pour s’isoler ; il courrut plus loin et creusa une fosse qu’il recouvrit de feulles au milieu du sentier. Comme la tete s’impatientait, les excrements du chasseur repondire a sa place qu’il n’avait pas termine>
男は必要ができた(排泄行為)ので一人にしてくれ、首を置いて森に入った。走ってできるだけ遠くに来て、道の真ん中に穴を掘って葉を埋め込んだ(排泄後の作法)。待ちきれず追いかけた首が、葉もこんもり盛り上がった排泄穴から屎の「まだ終わってないよ」の声を聞く。
首は<Quand j’etais parmis les humains, remarqua la tete, les excrements ne parleient pas>儂が人間だった頃から屎が声を出すなんて事は無かったぞ(ヤツはこの穴に隠れているのだ)と穴に転がり込んだ。すかさず男は泥で穴をふさいだ。一晩中、首の泣き叫びが村に響いた。首は人食い鳥に変身して穴から抜け出て、始めに出会った村人を襲った。呪い師の一矢が鳥の目を右から左に突き抜いて、人食い鳥は死んだ。

転がるがん首神話に共通の筋道は;
1 発端は禁忌破りである(M391では自然との調和の戒めを破った「狩り過ぎ」)
2 首は人間界への復帰を願う。多くは出会った者、あるいは縁ある者に運ぶよう懇願する。
3 背負う人間に首は悪さを行う(食べ物を横取りする、背に排泄するなど。M391では恐怖を与える)
4 人は「首」を人間と認めず、人間界(村)に入る前に、工夫を凝らして首から離れる。M391ではあたかも屎がしゃべったかの仕掛けで男が首を出し抜いた(男が屎にしゃべらせる魔術を使ったとの解釈もありうる、なぜなら息子と二人してこの危機を気づく力をもっていたから)。屎するを言い訳とするほか、網を仕掛ける、ピラニア棲む溜まりに入るなどと首を騙して逃げる。
5 人間界に首は復讐する。復讐の理論背景を首が陳述する場も設けられる。
6 がん首は天に昇る。多くが月になる(M391では人食い鳥に変わるが、最終では月になるはず。神話語りではそこまで言及していないが)

ここで上記に戻り
1 神話とは物語とは何か?
2 神話群が形成する「範囲」とは何か?
3 神話を逸脱し、なぜ物語に向かったのか?
これら疑問が読者に湧くかと推察します。がん首神話、禁忌破りと復讐を骨子(armature)にとる神話を(次回に)幾つか取り上げ、レヴィストロースが主張する「範囲」をまず確定します。次回投稿は17日予定。

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