蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

神話から物語りへDu Mythe Au Roman 4

2019年10月21日 | 小説
(2019年10月21日)
このglobalの枠の神話群にidee mythique「神話思考」が働く。


シミデュの冒険で人猿を演じる蜘蛛ザル(レヴィストロース著作の挿画)

(前回に添付した図を再掲します。拡大図は前回19日投稿を参照)



伝播における諸表情、移動(transformation)、反転(inversement)、congruence(思想は変わらず形式が変遷する)などは、部族民族の集団が論理の発露の過程で抱く神話思考の賜である、とレヴィストロースは伝えているのだ。
さて、すでに小筆、部族民番神にて過去投稿で神話をパラダイム変換し、その主張とするところの解析を試みております。PDFを参照(右のコラムにリンク)。しかるに先週以来、第2部「神話から物語へ」の読み返しの最中に、レヴィストロース自身がパラダイム変換を解説していると知り、本投稿をしたためたわけです。時間軸としては小筆部族民オリジナルのPDF(4葉)がまずあって、それから本稿となります。

尊師にして構造神話学の元祖(レヴィストロースに対して神話学4巻の読みかじり(蕃神)とのパラダイム変換においての差とは;
1 元祖は神話の伝播を神話「思考」の伝達、受容の流れとする。思考を分析すると(カント主義者として当然ながら)analytiqueとdialectique(=transcendantal先験の2形態)に分け、それを共時(syntagme)、経時(paradigme)の属性とした。この面の中に神話群の囲い込みが可能となった。地域の広がり、面の伝播を前提にして、それが可能にせしめる担保には人の智(カントの先験)を置いた。故に南米マトグロッソのボロロ族神話が、はるばる北米に旅できる仕掛けが見えた訳です。
2 小筆が先の投稿で展開したパラダイム変換は1の神話の解析と、その神話がもう一つの別神話に伝播する軌跡を説明した説であります。こちらはレヴィストロースのグローバルにある面ではなく、一方向の一本の流れ、線伝播です。すると伝達を担保するのは口上の繰り返しとなる。
南北新大陸8000キロの旅程を、伝言ゲーム式に神話が伝播したと説明している訳ですが、これは苦しい。ここで一本取られた、ですか。
これからが本題の「物語化」には入ります。

「食事作法の起源」基準神話のM354「モンマネキの冒険」を語り継ぐTukuna族から筋立てでは似通った神話を引用する。
M60 Cimidyue(シミデュ)の冒険(同書92頁)
(mesaventuresなので「失敗譚」であるが冒険と訳した)
シミデュは夫に従い狩りに発つ。(樹上の猿を吹き矢で狙い撃ちしてから)夫は<Il la persuada que les organs sexuells des singe coata etaient de l’ouate blanche comme celle garnissant les dards de sarbacane, et qu’il fallait attendre que le poison fit son effort pour ramasser les animaux quand ils tomberaient morts>「蜘蛛ザルの生殖器は吹き矢の矢先を差し込む白布のような材でできている、毒が回りにくいからサルが木から落ちるまでしばらく待たなければならないから」とシミデュに言い置きし、自身は狩りを続けるため森の奥に入った。これはシミデュを捨てる手段にすぎなかった。夫は一人で村に戻った。
木の下でしばらく待つが、落ちてくるはずのサルは一向に落ちない。帰る道など知らないから、樹上のサルがシミデュをめがけて落とす果実を食べてはサル達について行こうと決めた。
夜になってサルは人に変わった。招ねかれた小屋にはハンモックが吊され、シミデュもその一つを借り一夜を過ごした。翌朝、小屋もハンモックも消えて人はサルに戻った。
サルを追って森を一日彷徨し、サル親玉に出会った。彼は実際のところジャガーだが、常に人の姿である。親玉のためにシミデュはマニオク酒をたっぷり作ってやった。
親玉は高いびきで「そのうちあのメスを喰ってやるわ」と寝言で本音を漏らした。
「あらら大変、食べられてしまう」
シミデュは親玉を「そんな恐い寝言ほざかないで」揺すり起こしたたら、なんとすっかり怒ってしまった。親玉はでっかい木の実(caivaru=ネット検索できず)を持ち出して;
<Il se fit apporter un gros noyau de fruit /caivaru / dont il frappa son nez jusqu’à ce quil saigat>その木の実でシミデュの鼻を血が滴るまで叩いて、血を手に受けて呑んでは酒を食らって寝込むとクダンの寝言が出てくる。シミデュがまた揺り起こす。こんな繰り返しで親玉含めてサルの全匹がすっかり酔っぱらった。

蜘蛛ザル


翌朝、親玉は狩りに出た。シミデュが逃げ出さないように脚をしっかりと縛り、長紐の一端は自分が握り、時折引っ張ってはシミデュが拘束されていると確かめた。
小屋には陸亀も捕らわれていた。彼は「親玉は今晩にでもどっちかどっちを食べる算段だ。逃げ出さなければ」とけしかける。そこでシミデュは紐をほどいて、それを壺に結わえた。小屋の前には親玉の兄弟Venkicaが陣取っている。亀の作戦は無防備のあいつの膝を打つ。シミデュは棒でしたたか打った。「裏切ったらまた打つからね」の脅しを置きみやげにシミデュと亀は逃げた。Venkicaはオリオン座として今でも見える。
狩りから戻った親玉は食材として当てにしていた2匹が消えてご立腹。Venikaに「あの大女らはどこに行った」と問いつめるが、Venikaは膝の痛さが堪えてか、シミデュの脅しが効いたのか「あの大女の事でうるさくするのはやめてくれ」としか答えないから追うを諦めた。
キツツキが道を教えず、違う方向に入り込んだ。蟻塚とジャガーを勘違いして、追われる。このような失敗譚が続く。チョウチョの手助けで村に戻って、己を捨てた夫を焼き殺し復讐を果たした。

モンマネキは狩人の婚姻同盟をもくろむも、異種婚やら近すぎ婚とやらで失敗する話し。シミデュは夫に捨てられた女が食い物を求めて同盟を計るのだが、相手は一時食を与えるが上手くいかない。するとモンマネキとシミデュには幾つかの逆転(inversement)が認められる。男狩人対妻女、婚姻同盟対食の懇願(性と食は欲における暗喩関係)、そして失敗の重なり。
ではシミデュ神話はモンマネキ神話とGlobalを共有できるのか。レヴィストロースはその分類を否定する。物語化していると指摘する。

GooBlogに19日本日投稿分をまとめて部族民通信HPに投稿した。ぜひHPにもご訪問を。

神話から物語りへDu Mythe Au Roman 4の了


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