(2019年10月25日)
破天荒な筋立てのM60(シミデュの膝叩き逃走)、M317(コロロマンナの吠え猿ドラム叩き)、さらにM402,404(本文に掲載無し)は元々が天体コード神話の伝播を受けて後に変容したとしている。
<au terme d’une serie de transformations dont le point de depart theorique se trouvait dans des mythes sur l’origine de certaines constellations. De ces constellations, nous avons passe a d’autres, puis a des symboles logiques de constellations sans existence réelle (c’était le ca de M354) >(104頁)
訳;そもそもは星座の起源に関する神話の伝播を受けた派生神話の幾つかがある。それら星座について検証したが、具体価値が(伝播先の部族では)見つけられないから、シンボルとして名目だけに変遷した可能性がある。M354モンマネキ神話がその好例であるとする。
(シミデュでは膝を打たれたVenkicaはオリオン座に昇天した。これが天体コードの名残り)
モンマネキにおける天体コードの遺構を述べると;
嫁取り挿話の5例目「上下分離式」は人間の嫁。これを天体コードの伝播例とする。
写真:ブラジル北部の月別雨量。生と料理の挿絵から。解説は下に。
原型はM136 Arekuna族伝承のJilijoaibu(プレアデス)が姑を殺す(生と調理250頁)である(=部族民通信の解釈)。その要約;姑は己の子宮からひねり出した魚を婿(プレアデス)に与えていた。その現場を目撃した婿は怒り、姑が「漁に出る」と称する川岸にガラス(ママ)破片を撒き、葉で被った。それと知らず踏みつけ脚を切り、よろめいて体中傷ついた。血を吸ったガラス片は投げられピラニアに変身した。姑は水生植物に変身した。婿は昇天しプレアデスとなった。
(Arekuna族はヴェネズエラ、ブラジル北部に居住。モンマネキ神話のTukuna族とは水上交通で交流していたと思われる)
ここでは魚と漁労の起源、天体との関連が説明されている。プレアデスは漁労(毒流し漁)の開始を告げる。漁労派天体に呼応した年単位の周期性がある。毒は動物の血であってはならず、植物由来と決まっている。ここにも年の周期性が認められる。
モンマネキ神話での天体コードとは。両者を比較しよう。
分離した下半身から経血を垂れ流し、嫁の上半身は水に浮かんでピラニアを掬い上げていた。子宮と魚の連関は認められるが、それは行為としてのつながりである。モンマネキ神話側には天文コードによる周期性は見えない。姑が嫌ったのは特異身体であって(経)血流しの漁ではない。再合体を姑の工作に阻まれ、上半身がうろつき廻り、モンマネキの背に取り付き、最後に「どっかに」云ってしまったオチに終わる。天体プレアデスも年周期を求める漁労も、どこにも出てこない。
M136と M345(モンマネキ)の2の神話を比べると;
1 前者は天文コードを展開し周期性を呼び出す。これを基盤としてsyntagme・共時性因果を表した(漁の開始とプレアデスの出現)。
2 後者が取り込んだのは社会コード(code social=婚姻同盟の形成)と身体コード(code anatomical)であり、それを持って姑が嫁との同盟を否定した(分離式と垂れ流しでは文化の創設は不可)。決して(周期性に欠ける)子宮由来の毒を否定したわけではない。
3 ここでのsyntagme共時性因果は婚姻同盟なので、M136の挿話を取り込んでも粗筋の似通いは認められるも、共時性因果までは導入できない。モンマネキ神話等のパラダイムPDFを参照(注:モンマネキ神話のみを取れば天体コードはない)
地域により乾期のピークに差が出ている。漁労の開始を告げる星座をプレアデス、あるいはオリオン三つ星にするなどの言い伝えの変異はこのためであろう。民族誌学の分野なのでここでは指摘のみに。
神話は語られる。新たな語り手を取り巻く環境と伝播された内容に齟齬が見つかれば筋、登場人物動物など語り手聞き手の判断で変遷するし、語りの新たな筋が族民に受容されれば、改訂版が流布される。
<comme le linge tordu et retordu par une lavandiere pour exprimer l’eau qu’il contient, la matiere mythique laisse progressivement fuir ses principes interne d’organisation. Son contenu structural se dissipe. Au lieu des transformation vigoureuses du début, on n’observe plus a la fin que des transformation extenuees>(105頁)
洗濯女が布を浸しては水を絞る、布が含む水を絞って出すたびに布の組成が変わっていく。神話の伝播でも同様だ。神話素材が変遷する行程で内部に宿る成分が抜け出てしまう。素材どうしが寄り集い、構造としてまとまる仕組みが抜け消えてしまう。伝播する初めには荒々しかった変容が仕舞いには、力の抜けきった弱々しい移行体に落ちてしまう。
(「寄り集い構造としてまとまる仕組み」を小筆部族民はsyntagmeとparadigmeが形成するglobal野と理解する)
<Ce phenomene nous était déjà apparu dans le passage du réel au symbolique , puis a l’imaginaire et il se manifeste maintenant de deux autres façons : les codes sociologique , astronomique et anatomique qu’on avait vu fonctionner au grand jour passent désormais a l’etat latent ; et la structure se degrade en serialite >(同)
この衰退現象についてはすでに実体から表象、そして空想へと空転してゆく「伝播道のり」を解説する中で取り上げている(本書68頁=この伝播衰退の仕組みは別項で取り上げる)。本項ではこの衰退が2の様態を見せる事を指摘するのだ。一は社会コードにしても天体、身体にしても、コード(神話の3分節PDFを参照)が衰退する傾向が指摘される。二には神話構造それ自体が直列(serialite)伝播の経時疲労を受け弱体を見せるのである。
基準神話が見せている主張の強烈さは、コードとその発展(コード進行)が明確な直線方向であったからで、一旦形成され伝播を重ねるなかで、その構造と方向が弱められる。これをして物語化すると言う。
最後に;
レヴィストロースは神話の物語化をroman-feuilletonなる言葉で比喩している(105頁)。その意味を辞書で尋ねると<episode d’un roman qui parait regulierement dans un journal. Histoire de rebondissement (affaire scandalouse)新聞に頻繁に出てくる逸話物語。刻々と様相を変える物語、多くはスキャンダル(ロベールミクロから)。小筆は例として新聞社会面の「お涙ちょうだい」式の家族の絆物語を連想している。
神話から物語りへDu Mythe Au Roman の了(2019年10月25日)
なお本投稿は前回(10月23日)と併せて部族民通信HPに掲載しています。HPではPDFリンクが可能です。
www.tribesman.asiaあるいは部族民通信でネット検索。
破天荒な筋立てのM60(シミデュの膝叩き逃走)、M317(コロロマンナの吠え猿ドラム叩き)、さらにM402,404(本文に掲載無し)は元々が天体コード神話の伝播を受けて後に変容したとしている。
<au terme d’une serie de transformations dont le point de depart theorique se trouvait dans des mythes sur l’origine de certaines constellations. De ces constellations, nous avons passe a d’autres, puis a des symboles logiques de constellations sans existence réelle (c’était le ca de M354) >(104頁)
訳;そもそもは星座の起源に関する神話の伝播を受けた派生神話の幾つかがある。それら星座について検証したが、具体価値が(伝播先の部族では)見つけられないから、シンボルとして名目だけに変遷した可能性がある。M354モンマネキ神話がその好例であるとする。
(シミデュでは膝を打たれたVenkicaはオリオン座に昇天した。これが天体コードの名残り)
モンマネキにおける天体コードの遺構を述べると;
嫁取り挿話の5例目「上下分離式」は人間の嫁。これを天体コードの伝播例とする。
写真:ブラジル北部の月別雨量。生と料理の挿絵から。解説は下に。
原型はM136 Arekuna族伝承のJilijoaibu(プレアデス)が姑を殺す(生と調理250頁)である(=部族民通信の解釈)。その要約;姑は己の子宮からひねり出した魚を婿(プレアデス)に与えていた。その現場を目撃した婿は怒り、姑が「漁に出る」と称する川岸にガラス(ママ)破片を撒き、葉で被った。それと知らず踏みつけ脚を切り、よろめいて体中傷ついた。血を吸ったガラス片は投げられピラニアに変身した。姑は水生植物に変身した。婿は昇天しプレアデスとなった。
(Arekuna族はヴェネズエラ、ブラジル北部に居住。モンマネキ神話のTukuna族とは水上交通で交流していたと思われる)
ここでは魚と漁労の起源、天体との関連が説明されている。プレアデスは漁労(毒流し漁)の開始を告げる。漁労派天体に呼応した年単位の周期性がある。毒は動物の血であってはならず、植物由来と決まっている。ここにも年の周期性が認められる。
モンマネキ神話での天体コードとは。両者を比較しよう。
分離した下半身から経血を垂れ流し、嫁の上半身は水に浮かんでピラニアを掬い上げていた。子宮と魚の連関は認められるが、それは行為としてのつながりである。モンマネキ神話側には天文コードによる周期性は見えない。姑が嫌ったのは特異身体であって(経)血流しの漁ではない。再合体を姑の工作に阻まれ、上半身がうろつき廻り、モンマネキの背に取り付き、最後に「どっかに」云ってしまったオチに終わる。天体プレアデスも年周期を求める漁労も、どこにも出てこない。
M136と M345(モンマネキ)の2の神話を比べると;
1 前者は天文コードを展開し周期性を呼び出す。これを基盤としてsyntagme・共時性因果を表した(漁の開始とプレアデスの出現)。
2 後者が取り込んだのは社会コード(code social=婚姻同盟の形成)と身体コード(code anatomical)であり、それを持って姑が嫁との同盟を否定した(分離式と垂れ流しでは文化の創設は不可)。決して(周期性に欠ける)子宮由来の毒を否定したわけではない。
3 ここでのsyntagme共時性因果は婚姻同盟なので、M136の挿話を取り込んでも粗筋の似通いは認められるも、共時性因果までは導入できない。モンマネキ神話等のパラダイムPDFを参照(注:モンマネキ神話のみを取れば天体コードはない)
地域により乾期のピークに差が出ている。漁労の開始を告げる星座をプレアデス、あるいはオリオン三つ星にするなどの言い伝えの変異はこのためであろう。民族誌学の分野なのでここでは指摘のみに。
神話は語られる。新たな語り手を取り巻く環境と伝播された内容に齟齬が見つかれば筋、登場人物動物など語り手聞き手の判断で変遷するし、語りの新たな筋が族民に受容されれば、改訂版が流布される。
<comme le linge tordu et retordu par une lavandiere pour exprimer l’eau qu’il contient, la matiere mythique laisse progressivement fuir ses principes interne d’organisation. Son contenu structural se dissipe. Au lieu des transformation vigoureuses du début, on n’observe plus a la fin que des transformation extenuees>(105頁)
洗濯女が布を浸しては水を絞る、布が含む水を絞って出すたびに布の組成が変わっていく。神話の伝播でも同様だ。神話素材が変遷する行程で内部に宿る成分が抜け出てしまう。素材どうしが寄り集い、構造としてまとまる仕組みが抜け消えてしまう。伝播する初めには荒々しかった変容が仕舞いには、力の抜けきった弱々しい移行体に落ちてしまう。
(「寄り集い構造としてまとまる仕組み」を小筆部族民はsyntagmeとparadigmeが形成するglobal野と理解する)
<Ce phenomene nous était déjà apparu dans le passage du réel au symbolique , puis a l’imaginaire et il se manifeste maintenant de deux autres façons : les codes sociologique , astronomique et anatomique qu’on avait vu fonctionner au grand jour passent désormais a l’etat latent ; et la structure se degrade en serialite >(同)
この衰退現象についてはすでに実体から表象、そして空想へと空転してゆく「伝播道のり」を解説する中で取り上げている(本書68頁=この伝播衰退の仕組みは別項で取り上げる)。本項ではこの衰退が2の様態を見せる事を指摘するのだ。一は社会コードにしても天体、身体にしても、コード(神話の3分節PDFを参照)が衰退する傾向が指摘される。二には神話構造それ自体が直列(serialite)伝播の経時疲労を受け弱体を見せるのである。
基準神話が見せている主張の強烈さは、コードとその発展(コード進行)が明確な直線方向であったからで、一旦形成され伝播を重ねるなかで、その構造と方向が弱められる。これをして物語化すると言う。
最後に;
レヴィストロースは神話の物語化をroman-feuilletonなる言葉で比喩している(105頁)。その意味を辞書で尋ねると<episode d’un roman qui parait regulierement dans un journal. Histoire de rebondissement (affaire scandalouse)新聞に頻繁に出てくる逸話物語。刻々と様相を変える物語、多くはスキャンダル(ロベールミクロから)。小筆は例として新聞社会面の「お涙ちょうだい」式の家族の絆物語を連想している。
神話から物語りへDu Mythe Au Roman の了(2019年10月25日)
なお本投稿は前回(10月23日)と併せて部族民通信HPに掲載しています。HPではPDFリンクが可能です。
www.tribesman.asiaあるいは部族民通信でネット検索。