蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

レヴィストロースを読む 神話と音楽 ボロロ族の歌 1

2017年10月13日 | 小説
生と調理(Le cru et le cuit) 本文に入ります。第一楽章の題名は2部形式で1ボロロ族の歌 2ジェ(語族)の変奏曲。最初に神話学で基準となる神話(mythe1)題:金剛オウム(Aras)の巣あらし
冒頭のみを引用します
<Dans des temps tres anciens, il advint que les femmes allerent en foret. Un jeune garcon suivit sa mere en cachette, la surprit et la viola. Qand celle-ci fut de retour, son mari remarqua les plumes arrachees, encore prises a sa ceiture d’ecorce>
要約:昔々、森に入った母を少年(ヒーロー)が追って犯した。成人の通過儀礼を控えていた。夫は、妻の腰ベルトに若い男が付ける羽飾りが付着しているのに気付き、妻が誰かと内通したと疑る。成人の通過儀礼で少年達を集めダンスをさせた。その羽と同じ柄を付けるのは己の子と目撃し、2度目のダンスでも同じ結果に歎き、妻と子の近親相姦を恨む。
復讐に「精霊の巣」から楽器(hocchet=マラカス)を盗み、持ち帰るよう子に命じます。この苦境に子は祖母に相談する。ハチドリ(oiseau-mouche)の助けを借りよと答えが返った。ハチドリは楽器を吊す紐を切った。<jo>と音を立て川に落ちる、精霊が飛び出すも鳥が回収して子に渡す。父はさらに中マラカス、小マラカスを盗むよう命じ鳩、バッタの助けを借りて盗みに成功し、父に渡した。
父はさらに金剛インコArasの巣あらしを命じた、登ったはしごを父に外され、絶壁に取り残された。トカゲを補食し(生で食べて)飢えをしのぐ。余ったトカゲを紐で身体にくくると腐敗し、悪臭で気を失った。ハゲワシについばまれて尻がなくなった(少年は死にヒーローに)。

金剛インコ、華麗な長い尾羽を頭飾りにします(ラルース辞典から)

トカゲに変身して村に戻った。祖母の小屋に住み着き、頃合いを見て人間の姿に戻る。洪水が発生し常夜火の全てが消えた、ただ一灯残った祖母の火を村人が貰いに来る。すると母が死んだ筈の息子を認め、大急ぎで夫に注進する。ヒーローは父を誘い出して沼に落とす。父はピラニアに食べられた。返す足で実の母も含め、父の妻達を殺した。
このあと(レシタティーボ)でボロロ族の民族誌に移る。ブラジルの中央台地マトグロッソの南方に居住地を持つ有力部族、母系(matriarchal)集団、盛時の人口は3000人を超えていた。その邑落は中央に成人男が居住する「男小屋」を配し、周囲を女小屋が円周に囲む。東西に引かれる(架空の)線で南北に等分され、北がセラ部南はツガレ部。各部は4等分されそれぞれが支族(clan)として特定されている。さらに支族は上中下の階層ヒエラルキを持つ。すなわち邑は32の支族と階層に分けられている。

19世紀のブラジルマトグロッソ、ァマゾニアの民族分布図、筆先がボロロ族の居住域をを指している。レビストロースが調査した時期(1935年)には西洋文明の浸潤が進んでいた。

この分類は身分、行動、婚姻を規定します。例えば同じ部間の結婚はない。セラの男はツガレの女としか結婚できない。それもセラの部(例えばキ支族)の男はツガレ部のアラレ支族の同階層の女としか結婚できない。文化人類学的に説明すると部は外婚(exogamie)、支族の階層レベルで内婚(endogamie)の婚姻制度。着用する飾り物にも支族と階層の規定が厳密である。長く優美な金剛インコの尾羽は儀礼に必須だが、それを着用できる男は支族と階層で決まっている。かつての日本で裃袴に帯刀は武士の特権だったがそれと似ている。
均等に人口が配分されているとすれば32の各単位は10人ほどの構成となる。男女が5人見当。この員数で婚姻の相手を決めるのは難しい。投稿子がセラ部キ支族の下層民の生まれとすると、婚姻の相手はツガレ部アラレ支族の下層の女と自動的に決まる。その女小屋には5人の女が住む。祖母と結婚している母を除くと娘3人となるか。これらが適齢であれば選べるが、幼少なら性徴を待たねばならない。対象階層には女子がいない場合、規定をはみ出す婚姻は近親婚と忌避されているから、私は誰とも婚姻を結べない。他部族から女を略奪するしか手段はない。
レシタティーボは成人の通過儀礼(initiation)の過酷さ、羽根飾りの意味合い、金剛オウムの巣の位置、ペニスケースの説明と続く。この部分は重要なので注釈を入れます。基準の神話(m1)に戻ると;
女が森に入った理由とは息子の成人儀礼の締めくくりとなるペニスケースの材料を切り出すため。ペニスケースを装着して男となり、男小屋に寝泊まりする。実家(母親の女小屋)に出入りするのは禁止ではないが、昼でもはばかれる。夜には父親が妻問いに通うから、これは禁止。通過儀礼を迎える年頃ならば成人、そして母との別れは間近、母は森に入った。母別れを認めたくない、居続け息子の外れ行動を印象づけている。さらに腰ひもに取り付いた羽飾りを、ためらい見せず夫に見せつける妻の態度。儀礼、風習と結びつけて相姦を説明しているうえ、
<Elles pleuraient en poussant des cris comme pour la mort d’un etre cheri,parceque le garcon se detachait de la societe des femmes>
訳:母親は(儀礼の荒行に虐げられて)子に悲鳴を上げ、あたかも親愛の者の死であるかにいたわり歎く。その日から息子は女の世界から離れのだから(52頁)。
成人手前の子との別れと悲しみ、母の心の微細な言い回しの内に、母子婚(たわけ)が「昔々には」頻繁だったとレヴィストロースは示唆している、そう投稿子は読みたい。
ボロロ族の歌 1の了 2の投稿は17日を予定。

投稿子から:本書の前奏曲解説を「神話学 生と調理」として2017年9月13日~28日に連続投稿しています。内容は神話の独立性、解析の方法論、神話の構造、音楽との類似などです。関心をお持ちの方はバック投稿分もご参照を。

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