蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

レヴィストロース「食事作法の起源」を読む(続き) 2

2019年01月10日 | 小説
(2018年1月10日)
第4部お手本のような少女たち(Ⅰお嬢様であるとき)では冒頭に2の神話が引用される。いずれもArapaho族の伝承。まずM425 les epouses des astres(星々の嫁達)を紹介する。(本書170~171頁)
題名のastreは星。星にはetoileがある。十分に目視でき時に人の運勢に影響を与える(目立つ)星をastreで表現する。太陽と月がその代表で、逆にそれらをetoileと呼ぶことはない。訳として星々としたが「太陽と月の嫁」でよろしいかと。Arapaho族は前回(7日)投稿の部族分布図ではアルゴンキン語族の最南部、witita族(カンザス)に近接するプレーンズ(乾燥平原)に居住する。ヤマアラシの生息域からは遠く離れる。
あら筋:昔々、地に住むインディアン娘は太陽か月かとの結婚を切望していた。一方、天の太陽と月は兄弟、地に棲む者との婚姻を望んでいた。二人は地の娘らの評定を交わした。
<<quoi de plus joli que les humaines, s’ecrie Lune ; quand elles levent les yeux vers moi, elles ont un charmant visage.人の娘より魅力的な女がどこにいるのか、月がため息混じりに呟く。目を上げて私を見つめるあの顔のなんと魅力的なことかと続けた。Je brule d’epouser l’une d’elles. 身を焼いてもそのうちのとびきりの一人と結婚したい。 
しかし太陽は同意しない
<<Comment ces horreurs? Jamais, elles ont un visages affreux, plein de rides et de tout petits yeux! C’est une creature aquatique que je veux! なんと恐ろしい選択か。絶対に無理だ、なぜなら彼女たちの顔は皺だらけ、目なんてとってもちっちゃい。水棲の生き物が私の望みだ。

新大陸のヤマアラシ(本書198頁)

さて地上、ある晴れた朝、薪集めに娘4人が森に出た。一人が大きな倒木を見つけ近寄ると、一匹のヤマアラシが枯れ枝に跨っていた。月が化け姿である。娘はそのトゲを取ろうと手をのばして棒を振るが、その度にヤマアラシはすーいと高みに逃げてしまう。娘は追うと、なんと木自体が高く伸びてゆく。「危ない、降りるのよ」地で心配する3人が叫ぶも、娘は「このヤマアラシには綺麗なトゲが生えている、私が望んでいた色具合そのものなのよ」忠告を聞きもしない。
<<Soudain le porc-epic se transforma en beau jeune homme qui declara etre Lune, que la fille avait souhaiter epouser. Elle consentit a le suivre et ils arriverent auciel ou les parents de l’astre firent bon accueil a leur nouvelle bru.ヤマアラシは突然、見目良い青年に変身し、月と自己を伝えた。月こそ娘が恋いこがれていた。若者に従い天に昇り、義理となる父母から優しく迎えられた。

一方、太陽は嫁探しに地に降り、天に戻ったが肝心の嫁の姿が見えない。嫁はどこ、問いに太陽はいらだち出入り戸を指した。そこに一匹のカエル。母が近づくとぴょんと跳び、ついでにおしっこをひっ掛けた。
<<La Lune la fit entrer dans la cabane et donna un morceau de tripe a chaque femme, pour voir laquelle ferait en mangeant le bruit le plus agreeable a l’oreille. La femme humaine se mit a mastiquer allegrement, la grenouille voulut tricher en faisant craquer un morceau de charbon de bois entre ses gencives. Une salive noire coulait de sa bouche. 月はカエルに屋内に入らせ、内臓の料理を一切れづつ嫁二人に与えた。耳に心地よい噛み音を立てるのはいずれか比べるためである。人の嫁は軽やかに咀嚼した。カエル嫁は炭を歯肉に挟んで(音を立てる真似)を試みた。真っ黒なよだれをしたたらせるだけに終わった。

カエルは月の大笑いに晒されたが「こんな目に会わせてくれたわね、あんたから離れないから」月に跳びかかった。その顔には昔からカエルが浮かぶ(斑)ワケである。

続くM426(部族、表題は同じ)は;
天には月も太陽も浮かばない原初のくだりが初めに記される。日の差さない地は暗い。そのためその人は妻と息子二人を連れて天に戻った。この息子が天上で太陽と月となる。同居をやめて別所帯を営むとする、しかし天上で嫁を見つけられない。嫁探しに二人は地に降りた。ここからの筋は前の引用神話と変わらない。

レヴィストロースは本書「食事作法の起源」の思想を「周期性」の追求としている。昨年11月に投稿した本書の前記分(モンマネキ神話)解説で「社会」の周期性を取り上げたが、「続き」での周期性は年、四季、日夜の天文周期の起源を語っている。
引用2神話で太陽と月のそもそもは人と記述されるが、要点は月の嫁取りの成功と太陽の失敗である。これを機会に二人は分かれ、異なる軌道での天上回周を始める。これで、二人が同時期に同場所を占める、すなわち「夜だけあるいは昼のみ」の不規則が消え、日夜の周期が確立された。さらに月の人に、特に女に対する関与の濃さ(月経の起源)の理由、太陽の残虐性が別系統の神話群で述べられる。
天の周期性開始のこれら神話にはヤマアラシの「仲介者=mediateur」としての(天地を結びつけた)役割、さらには「噛み音を立てる競争」、食事作法の起源が必ず重なる。

レヴィストロース「食事作法の起源」を読む(続き) 2の了
(次回投稿予定は12日)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« レヴィストロース「食事作法... | トップ | レヴィストロース「食事作法... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

小説」カテゴリの最新記事