一次大戦の勃発が1914年8月、飛行船は開戦1月足らずで実戦に投入されている(43頁)、当初から飛行船に偵察ではなく、爆撃任務を与えるがドイツ軍の用法と理解できる。初回では昼間に出動、低い飛行高度など戦術ミスが目立ち、効果は少なく自側被害が甚大だったが、無防備(と見られる)都市攻撃、夜襲など作戦を変更した。
空飛ぶ船を実現したツェッペリン伯爵、写真は本書からデジカメ。下に拡大。
対戦闘員(敵の部隊)に対抗するには、飛行船は機動性に欠ける。動かない都市への無差別爆撃の有効性に開戦後に気付いたと理解するよりも、初めからそうした運用を練り上げていたと思われる。
その証左に:
「1914年の年末までに…対象をパリやワルシャワに….世界初の戦略爆撃が開始された」(44頁)。シュトラッサー(海軍爆撃隊の指揮官)は爆撃効果を上げるためより大型、高々度、搭載量の増大をツェッペリン(企業)に要求する。理由は「高々度であれば敵戦闘機の妨害、対空砲火をかわせる、夜間に爆撃すると精度が落ちるからその分大量に落とす必要がある…」(51頁)。無差別を念頭に置いた開発指示である。
前回投稿で伯爵をドイツに生まれたダビンチとしたが、やはりドイツ(プロイセン)人であった。目的と手段を得て、外部の景色を顧みない直情を持つ(本書の記述から知った)
そもそも軍人であったツェッペリンも、軍の要請には協力的でマイバッハ内燃機関の改良もかない、要求を満たすM級飛行船が開発された。ここに海峡を越えての英国本土、戦略要地への無差別爆撃が開始される(1915年1月)。
爆撃を受ける側の悲惨な状況が語られます。空から爆弾が降り落ちる、こんな現実を創造した市民がいたでしょうか。英国も防御を固めに進みますが、同時に無差別爆撃を「ベイビィキラー赤ちゃん殺し」(本書から)として非人道性を国際的に非難します。
ドイツ側の反論は;
「イギリス人は同じモノを造れないから、非人道なる語を持ち出して、ドイツ人に飛行船を手放させようとしている」(ツェッペリン伯爵のコメント65頁)
「今日、非戦闘員なる者は存在しない。近代戦とは総力戦なのだ。あらゆる後方の生産者がいなくては(兵士、軍隊)は役に立たない」(シュトライサー、64頁)
英国本土への飛行船爆撃、挿絵は本書から。このような写真が200葉ほど掲載される。
上2のコメントが飛行船爆撃に対するドイツ軍人の「いびつな」思想を表している。すなわち人倫よりも技術開発の成果を第一とするゲルマン的直情です。
さて本書を読み、改めて戦略爆撃とは何か-これを自問するのですが、まとめると;
1都市など人口周密帯への無差別爆撃
2戦闘力の直接減耗を目的とするのではなく、市民を殺戮し後方支援体制を破壊する
3広範囲かつ繰り返す、体制破壊と合わせて人心攪乱を引き起こす、厭戦気分を昂進させる。
となりますか。一言で「自軍の兵を生かすために、たやすく実行できる敵市民の殺戮」を優先する思想となります。
この思想はツェッペリン、シュトライサーの二人のみが練り上げた訳ではない。カイザー(ドイツ皇帝)を頂点とするドイツ(プロイセン)軍思考のベクトルが効率最優先としているに他ならない。結果として人道を顧みず、無差別殺戮に邁進したと推察する次第です。前回の投稿(2月27日)ではドイツ人の思考過程の標準を「直情」と表現した(蕃神)。目的を固め手段を手にしたら外部景色は何も見えなくなってしまう猛進を言い換えたつもりです。
ドイツの常道が、非道の方向に発現してしまった多くの例の一の実例です。
本書に戻ります。
結末として飛行船爆撃は費用対効果の見比べで(著者の得意とするところ、詳細は後述)大戦末期に失敗が明らかになります。
そして大戦の後;
思想としての戦略爆撃は各国の軍に住み着きます。
軍人とは常に失敗を反省し、次の作戦をより良きとするコリない性質を持つ人々の集団です。ドイツ軍作戦を批評する英米ら軍人の反省とは「資材の分散投下が(彼らの)負けにつながり…」「もっと大量に投下したら成功し…」このステレオタイプに必ず収斂します。
戦略爆撃の思想と記録が各国の軍記録に残り、後の「大量投下する」より進化した戦略爆撃につながる。ツェッペリンが産んだ卵をドイツ軍が暖め雛にして、アメリカ軍が軍鶏に育てたと言えるでしょうか。
本書「ツェッペリン飛行船団の…」紹介目的がそれてしまいました。本来に戻り、本書の特徴を申し上げる。
1 およそ200葉を越す写真を掲載している。ビジュアルにも飛行船の実体、爆撃の悲惨さが理解できる。(硬式飛行船とは硬い外郭の内部に直接水素を充満していると誤解していた。小筆、無知を羞じる)。マイバッハ、ダイムラーの内燃機関の貴重な実物写真を目にできる。ほとんどは本邦初公開かと思える。
(マイバッハ社の切り札となった高々度用エンジン「MBIVa」の写真(153頁)には、個人的に圧倒された。この高性能エンジン技術が大戦後の高級乗用車につながったのだろうとの感慨を抱いた)
2 参考文献は多く、一次資料(英文)であり、時代の反響を知ることが出来た。
3 飛行船団の出撃の毎に航路、機材(飛行船の型式)、船長名、そして効果(ドイツ側の被害、イギリス側の損害状況)を克明に記載している。ドイツ側の製造費用とイギリスの被害額を総計として示し、作戦の破綻の様を記した著者の手段、「飛行船爆撃オペレーションの損益計算」としても良いでしょう。説得力が強く見事です。
著者は某国立大学の経済学部卒(奥付け)とか、さもありなんと感心した。 了
空飛ぶ船を実現したツェッペリン伯爵、写真は本書からデジカメ。下に拡大。
対戦闘員(敵の部隊)に対抗するには、飛行船は機動性に欠ける。動かない都市への無差別爆撃の有効性に開戦後に気付いたと理解するよりも、初めからそうした運用を練り上げていたと思われる。
その証左に:
「1914年の年末までに…対象をパリやワルシャワに….世界初の戦略爆撃が開始された」(44頁)。シュトラッサー(海軍爆撃隊の指揮官)は爆撃効果を上げるためより大型、高々度、搭載量の増大をツェッペリン(企業)に要求する。理由は「高々度であれば敵戦闘機の妨害、対空砲火をかわせる、夜間に爆撃すると精度が落ちるからその分大量に落とす必要がある…」(51頁)。無差別を念頭に置いた開発指示である。
前回投稿で伯爵をドイツに生まれたダビンチとしたが、やはりドイツ(プロイセン)人であった。目的と手段を得て、外部の景色を顧みない直情を持つ(本書の記述から知った)
そもそも軍人であったツェッペリンも、軍の要請には協力的でマイバッハ内燃機関の改良もかない、要求を満たすM級飛行船が開発された。ここに海峡を越えての英国本土、戦略要地への無差別爆撃が開始される(1915年1月)。
爆撃を受ける側の悲惨な状況が語られます。空から爆弾が降り落ちる、こんな現実を創造した市民がいたでしょうか。英国も防御を固めに進みますが、同時に無差別爆撃を「ベイビィキラー赤ちゃん殺し」(本書から)として非人道性を国際的に非難します。
ドイツ側の反論は;
「イギリス人は同じモノを造れないから、非人道なる語を持ち出して、ドイツ人に飛行船を手放させようとしている」(ツェッペリン伯爵のコメント65頁)
「今日、非戦闘員なる者は存在しない。近代戦とは総力戦なのだ。あらゆる後方の生産者がいなくては(兵士、軍隊)は役に立たない」(シュトライサー、64頁)
英国本土への飛行船爆撃、挿絵は本書から。このような写真が200葉ほど掲載される。
上2のコメントが飛行船爆撃に対するドイツ軍人の「いびつな」思想を表している。すなわち人倫よりも技術開発の成果を第一とするゲルマン的直情です。
さて本書を読み、改めて戦略爆撃とは何か-これを自問するのですが、まとめると;
1都市など人口周密帯への無差別爆撃
2戦闘力の直接減耗を目的とするのではなく、市民を殺戮し後方支援体制を破壊する
3広範囲かつ繰り返す、体制破壊と合わせて人心攪乱を引き起こす、厭戦気分を昂進させる。
となりますか。一言で「自軍の兵を生かすために、たやすく実行できる敵市民の殺戮」を優先する思想となります。
この思想はツェッペリン、シュトライサーの二人のみが練り上げた訳ではない。カイザー(ドイツ皇帝)を頂点とするドイツ(プロイセン)軍思考のベクトルが効率最優先としているに他ならない。結果として人道を顧みず、無差別殺戮に邁進したと推察する次第です。前回の投稿(2月27日)ではドイツ人の思考過程の標準を「直情」と表現した(蕃神)。目的を固め手段を手にしたら外部景色は何も見えなくなってしまう猛進を言い換えたつもりです。
ドイツの常道が、非道の方向に発現してしまった多くの例の一の実例です。
本書に戻ります。
結末として飛行船爆撃は費用対効果の見比べで(著者の得意とするところ、詳細は後述)大戦末期に失敗が明らかになります。
そして大戦の後;
思想としての戦略爆撃は各国の軍に住み着きます。
軍人とは常に失敗を反省し、次の作戦をより良きとするコリない性質を持つ人々の集団です。ドイツ軍作戦を批評する英米ら軍人の反省とは「資材の分散投下が(彼らの)負けにつながり…」「もっと大量に投下したら成功し…」このステレオタイプに必ず収斂します。
戦略爆撃の思想と記録が各国の軍記録に残り、後の「大量投下する」より進化した戦略爆撃につながる。ツェッペリンが産んだ卵をドイツ軍が暖め雛にして、アメリカ軍が軍鶏に育てたと言えるでしょうか。
本書「ツェッペリン飛行船団の…」紹介目的がそれてしまいました。本来に戻り、本書の特徴を申し上げる。
1 およそ200葉を越す写真を掲載している。ビジュアルにも飛行船の実体、爆撃の悲惨さが理解できる。(硬式飛行船とは硬い外郭の内部に直接水素を充満していると誤解していた。小筆、無知を羞じる)。マイバッハ、ダイムラーの内燃機関の貴重な実物写真を目にできる。ほとんどは本邦初公開かと思える。
(マイバッハ社の切り札となった高々度用エンジン「MBIVa」の写真(153頁)には、個人的に圧倒された。この高性能エンジン技術が大戦後の高級乗用車につながったのだろうとの感慨を抱いた)
2 参考文献は多く、一次資料(英文)であり、時代の反響を知ることが出来た。
3 飛行船団の出撃の毎に航路、機材(飛行船の型式)、船長名、そして効果(ドイツ側の被害、イギリス側の損害状況)を克明に記載している。ドイツ側の製造費用とイギリスの被害額を総計として示し、作戦の破綻の様を記した著者の手段、「飛行船爆撃オペレーションの損益計算」としても良いでしょう。説得力が強く見事です。
著者は某国立大学の経済学部卒(奥付け)とか、さもありなんと感心した。 了
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