鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

月に烏図鍔 政随 Masayuki Tsuba

2012-03-11 | 鍔の歴史
月に烏図鍔 (鍔の歴史)


月に烏図鍔 政随 行年六十一

 過去に紹介したことがあるも、頗る優れた美意識が感じられ、とても面白いので再度紹介する。心象的な作品である。波に沈む三日月は、自然界ではあり得ない状況ながら鑑賞していてぐっと心に迫るものがある。打ち返した耳と石目地仕上げの背景は動感豊かな大気の印象。裏の波に烏は、「鵜の真似をする烏」の諺があるように、後藤家にも作品化された例は多くみられ、同じ意味や図柄を再構築する政随の感性が良く伝わり来る。真鍮地高彫に赤銅銀金の色絵。64.4ミリ。□

蛸壷図縁頭 乙柳軒政随 Masayuki Huchigashira

2012-03-10 | 鍔の歴史
蛸壷図縁頭 (鍔の歴史)


蛸壷図縁頭 乙柳軒政随

 足長に蛸で思い出した。このような面白い縁頭がある。縁には海辺の風景を描き、頭をそのまま蛸壺に見立てている。その割れ目から足を出し、口からちょこっと頭(本当は胴体)を覗かせている。鉄地高彫に金銀朧銀の象嵌。蛸は写実的で質感も表情も豊か。波は文様風。蛸壺も汚れのついた様子や割れた部分が巧みに描き出されている。優れた作例である。□

五条大橋図小柄 政随 Masayuki Kozuka

2012-03-09 | 鍔の歴史
五条大橋図小柄 (鍔の歴史)

 
五条大橋図小柄 政随

 見たとおりの図柄。小柄の長辺を欄干の擬宝珠に造り込み、刻まれている文字を金平象嵌で表わしている。この趣の作品、あるいは小柄の長手方向を作品に活かした作は政随からであろうか、後の金工に間々みられる。朧銀地高彫赤銅色絵、裏板みは片切彫で欄干を描いている。面白味のある作品といえよう。

蝸牛図鐔 政随 Masayuki Tsuba

2012-03-08 | 鍔の歴史
蝸牛図鐔 (鐔の歴史)


蝸牛図鐔 政随

 極めて写実的な作だが、題材の選択に情緒的な側面も窺える。魅力の源は素材である色金の使い方にもあろう、背景は朽ちた落ち葉か土であろう、ゆったりと歩む、と言ってよいのだろうか、その姿を正確に描出している。表はその生命の存在を、裏面は殻を描いて死の様子。いずれも銀と朧銀の高彫に細かな毛彫を加えて独特の虹色を再現し、蝸牛の身体はわずかに褐色味のある朧銀で、ぬめっとした皮膚の様子と細かな文様も巧み、突出した目は金で効果的。凄い技術であることはもちろんだが、時間を感じさせる画面構成も感動する。74ミリ。

足長に蛸図小柄 政随 Masayuki Kozuka

2012-03-02 | 鍔の歴史
足長に蛸図小柄 (鍔の歴史)


足長に蛸図小柄 政随

 奈良派の中でも、最も隆盛したのが浜野政随の門流。これまでにも政随の作例は度々紹介する機会があったように、政随は安親と共に比較的時代の上がる江戸時代中期の金工としては作品を多く遺している工である。同時代の有名な町彫金工としては、横谷宗(一六七〇~一七三三)、奈良三作の利壽(一六六七~一七三六)、土屋安親(一六七〇~一七四四)、杉浦乗意(一七〇一~一七六一)がおり、そして政随(一六九六~一七六九)である。
 作風は、奈良派の作風を基礎として情感豊かな風景や江戸好みの文様、人物図も得意とし、多くの門人を育てている。時代の好みに適合したことと、優れた技術から大流行したと考えられる。
 この小柄は南方人を題に得た作で、頗る表情が良い。朧銀地高彫に素銅、赤銅、色を違えた朧銀、金の色金を用いて巧みに色絵処理している。我が国に伝えられた伝承の一つに手長足長の人種が存在するという話がある。その古伝を基礎にしたものであろう。


画龍点睛図鍔 政柳軒浜野直寛 Naohiro Tsuba

2012-03-01 | 鍔の歴史
画龍点睛図鍔 (鍔の歴史)


画龍点睛図鍔 政柳軒浜野直寛

 絵に描いた龍の瞳に目玉を描き込んだところ、龍は生命を得て絵から飛び出して天上に昇ったという、古代中国の伝説を題に得た作。これも浜野派の金工の手になる。浜野派はこのような中国の歴史人物や我が国の合戦図などに取材し、写実表現になる人物描写を得意とした。ここでは赤銅地高彫に金銀素銅色絵。特に顔の表現、表情豊かに動感に溢れ、手や衣服にも動きがあるところがいい。68.2ミリ。□