鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

芋洗い図鐔 Tsuba

2012-12-11 | 
芋洗い図鐔


芋洗い図鐔 無銘

 東京港区に芋洗坂の名称が遺されているが、芋を商う店があったとも言われるが、その由来は明確ではない。東京九段の靖国神社から市谷駅に至る坂は、一口坂と書いて同様に「いもあらいざか」と読むも、これについても芋とは関わりがないようだ。ごくごく当たり前の食べ物である芋は、どこでも売られており、それが故に絵画としても遺されているのだが、作品の面白さはそれだけではなさそうだ。
 写真の鐔は芋を洗いながら月を眺めるという構成。鉄地薄肉彫に毛彫、月は金布目象嵌。素描風の表現で、簡潔ながら人物に動きがあり表情があり味わい深い。このように月を眺める市井の人物図という例は多い。
月が出て、それを人物が眺めるという場面は、人物を通して自らの心情をそれに擬えることができ、図柄の性格から想いは月を通して遠い両親へ、あるいは子へと向かう。謡曲『木賊刈』がその例であり、安親にこの場面を描いた鐔がある。

芋洗い図鐔 Tsuba

2012-12-10 | 
芋洗い図鐔


芋洗い図鐔 無銘

 芋洗いは秋もまだ早い頃の風物。旧暦で八月の十五夜に新芋を供える風習があり、これを芋名月と呼んでいる。桶に入れた芋を攪拌してその薄皮をとる作業は、サトイモなどが対象。秋にもなるといたるところで見られた風景である。写真例は、写りがよくないが、その風俗が良く判る資料でもある。江戸後期の作。

猪子祝図小柄 Kozuka

2012-12-08 | 小柄
猪子祝図小柄


猪子祝図小柄 無銘

 赤銅魚子地を高彫にし、金銀の色絵を施し、何やら包みに銀杏とシノブ草の葉を添えている図。これだけでは何の図かさっぱり判らない。
 実は、十月の亥の日、亥の刻に特別の餅を食べるという風習があった。「猪の子だくさん」の謂いが良く知られているように、即ち子に恵まれるように、末代までの繁栄を願った風習の一つ。
 将軍家から下賜される猪子餅は、三つの階級によって別けられていた。上亥、中亥、下亥で、上亥はシノブ草と菊が、中亥にはシノブに紅葉、下亥にはシノブと銀杏が添えられていたのである。
 赤銅魚子地高彫金銀色絵裏板金哺。金の色をわずかに違え、色彩に多様性を持たせている。毎年この行事の際には使用されたのであろう、少し傷みがあるのは、実用されたこと、即ち習俗が生きていたことを意味している。

《鐔 Tsuba 装剣小道具の世界から》記事を更新しました

これまで十年以上、古美術雑誌『目の眼』において《装剣小道具の世界》と題して連載ページをいただき、刀剣に関わる金工芸術の魅力を紹介してきましたが、雑誌の内容を大きく変更する方針となり、連載が休止となりました。今後は、Web上にて同様に装剣金工作品の魅力を伝えてゆくつもりでおります。これまでは月刊雑誌という点から制約がありましたので、月一という紹介でしたが、今後は、掲載日を定めずに紹介して行く予定です。同様に、売品については価格を記載できなかったものを、Web上では価格表記も可能になりましたので、お求めをお考えの方にとっては、コレクションに直接つながる楽しみもあろうかと思います。このブログ同様に楽しんでいただければ幸いと考えております。

恵比寿講図小柄 塚田秀鏡 Hideaki Kozuka

2012-12-07 | 小柄
恵比寿講図小柄


日本東都市中年中行事図十二ヶ月揃小柄 塚田秀鏡作から
十月 恵比寿講図小柄

 関西では一月十日に十日恵比寿と呼ばれ、現代でも盛んに行われており、商人の祭という認識がある恵比寿講。江戸では十月二十日の祭。恵比寿様は他の七福神と同様に江戸時代に入ってから隆盛している。この小柄でも、掛軸には鯛を肩にする恵比寿様が描かれており、この前に大福帳が置かれているところが面白い。

◆記事を更新しました
《鐔 Tsuba 装剣小道具の世界から》
これまで十年以上、古美術雑誌『目の眼』において《装剣小道具の世界》と題して連載ページをいただき、刀剣に関わる金工芸術の魅力を紹介してきましたが、雑誌の内容を大きく変更する方針となり、連載が休止となりました。今後は、Web上にて同様に装剣金工作品の魅力を伝えてゆくつもりでおります。これまでは月刊雑誌という点から制約がありましたので、月一という紹介でしたが、今後は、掲載日を定めずに紹介して行く予定です。同様に、売品については価格を記載できなかったものを、Web上では価格表記も可能になりましたので、お求めをお考えの方にとっては、コレクションに直接つながる楽しみもあろうかと思います。このブログ同様に楽しんでいただければ幸いと考えております。

七五三図小柄 塚田秀鏡 Hideaki Kozuka

2012-12-05 | 小柄
七五三図小柄 塚田秀鏡


日本東都市中年中行事図十二ヶ月揃小柄 塚田秀鏡作から
十一月 七五三図小柄

 塚田秀鏡が十一月の風習として選んだのは、現代でも廃れることのない七五三。子供の成長を祝う意識は、古くは赤子の頃に死亡することが多かったことから、まずは三歳を祝い、次に五歳、七歳だが、このほか、十一月行われる袴着や帯解という、いずれも成長に合わせての通過儀礼もある。
 一作揃い小柄として、同じ朧銀地を微細な石目地に仕上げ、強弱緩急変化のある片切彫を駆使し、その背景には金銀赤銅素銅の平象嵌を加え、色彩豊かな場面を再現している。


これまで十年以上、古美術雑誌『目の眼』において《装剣小道具の世界》と題して連載ページをいただき、刀剣に関わる金工芸術の魅力を紹介してきましたが、雑誌の内容を大きく変更する方針となり、連載が休止となりました。今後は、Web上にて同様に装剣金工作品の魅力を伝えてゆくつもりでおります。これまでは月刊雑誌という点から制約がありましたので、月一という紹介でしたが、今後は、掲載日を定めずに紹介して行く予定です。同様に、売品については価格を記載できなかったものを、Web上では価格表記も可能になりましたので、お求めをお考えの方にとっては、コレクションに直接つながる楽しみもあろうかと思います。このブログ同様に楽しんでいただければ幸いと考えております。
《鐔 Tsuba 装剣小道具の世界から》

同じ穴の狢図鐔 Tsuba

2012-12-04 | 
同じ穴の狢図鐔


同じ穴の狢図鐔 無銘

真鍮地を高彫にし、金銀赤銅素銅の色絵を加え、穴倉に集まる何やら怪しげな様子の人々を描いた作。いずれも宗教色のある風体だが、果たして真実は如何に。これらは、先に紹介した節季候にも通じる、庶民と宗教の対象とを結んでいた一つの流れであり、市井にあっては、主に年末に動いていたようだ。この鐔の作者は彼らから痛い思いをしたのであろうか、批判的な視線を投げかけている。即ち、裏面に狸のような尻尾をのぞかせているぞと。彼らは、市井にあって門々を廻り、わずかばかりの金銭を要求し、代わりに神仏に祈ってくれると言うのだが、それを断ると、逆に脅しにかかるという。多くの人々は、煩わしいやら怖いやらで、金銭を与えてしまうのである。頗る面白い、時代を表した風俗の図である。

これまで十年以上、古美術雑誌『目の眼』において《装剣小道具の世界》と題して連載ページをいただき、刀剣に関わる金工芸術の魅力を紹介してきましたが、雑誌の内容を大きく変更する方針となり、連載が休止となりました。今後は、Web上にて同様に装剣金工作品の魅力を伝えてゆくつもりでおります。これまでは月刊雑誌という点から制約がありましたので、月一という紹介でしたが、今後は、掲載日を定めずに紹介して行く予定です。同様に、売品については価格を記載できなかったものを、Web上では価格表記も可能になりましたので、お求めをお考えの方にとっては、コレクションに直接つながる楽しみもあろうかと思います。このブログ同様に楽しんでいただければ幸いと考えております。
《鐔 Tsuba 装剣小道具の世界から》

節季候図小柄 秀鏡 Hideaki Kozuka

2012-12-03 | 小柄
日本東都市中年中行事図十二ヶ月揃小柄 塚田秀鏡


日本東都市中年中行事図十二ヶ月揃小柄 塚田秀鏡作から
十二月 節季候図

 我が国の宗教は多彩である。古い自然神への信仰は太陽信仰即ち天照大神信仰として現代でも受け継がれている。山岳信仰も修験道と関連して深く根付いている。装剣小道具には比較的多い古代中国に興った神仙の教えに基づく信仰もあり、江戸時代は七福神思想として広まった。仏教はもちろん、儒教の教えもある。室町時代には西洋から新宗教が入り、江戸時代には表向き禁止された。人は何かに頼ることによって生きることを潤滑にしようとする。それが信仰の対象。ところが、信仰対象とそれを媒介することを専門とする宗教人との間に、さらにもう一つ媒介する者があった。例えば冷たい海中に入ってする水垢離や瀧の水を受けることを代わって行う「代垢離」である。願人坊主と呼ばれる得体の知れぬ輩も、各家を廻り、いくらかの金銭で遠地にある信仰対称へ代参を請け負う。そんな意味では、お札などは、手軽な信仰対称の代用品であったのかもしれない。この小柄に描かれている「節季候(せきぞろ)」と呼ばれた輩もその一つ。殊に年末に見かける風俗であった。
 小柄の作者は江戸最末期から明治時代の人物。この作例のように、朧銀地に金銀赤銅素銅の平象嵌と片切彫を得意とした。一宮長常などの片切彫平象嵌を得意とした名工に比較し、図柄も処方も新鮮味が感じられる。素銅を用いていろところも新しい。


これまで十年以上、古美術雑誌『目の眼』において《装剣小道具の世界》と題して連載ページをいただき、刀剣に関わる金工芸術の魅力を紹介してきましたが、雑誌の内容を大きく変更する方針となり、連載が休止となりました。今後は、Web上にて同様に装剣金工作品の魅力を伝えてゆくつもりでおります。これまでは月刊雑誌という点から制約がありましたので、月一という紹介でしたが、今後は、掲載日を定めずに紹介して行く予定です。同様に、売品については価格を記載できなかったものを、Web上では価格表記も可能になりましたので、お求めをお考えの方にとっては、コレクションに直接つながる楽しみもあろうかと思います。このブログ同様に楽しんでいただければ幸いと考えております。

《鐔 Tsubu 装剣小道具の世界から》

重陽節句図栗形 土屋守親 Morichika Kurigata

2012-12-01 | その他
土屋守親


土屋守親作年中行事図一作金具から
重陽節句図栗形

 先に紹介した年中行事図揃金具と同様、奇麗な高彫金銀色絵の作を用いた大小拵から紹介する。栗形は秋、重陽の節句に関わる菊を題に得たものだが、これに秋の風物でもある栗を添えている。重陽の節句は栗節句とも言われているように、単に秋の稔りという意味での栗を採ったものではないことがわかるが、栗節句なる言葉は重陽の節句と同様に、現代では余り使われていない。栗形に栗を描いているのは洒落であろうか。