先週の日曜日、朝のNHK番組“小さな旅”では東京下町の職人さんの生活風景をまとめていた。
その中で装身具や装飾物、表象の飾り(錺り)職人のおばあさんを取り上げていたのだ。
亭主には先立たれていて、夫から教わった技術を引き継ぎ、細かな手仕事を坦々とおこなう90歳近い女性であった。わたしには単調に見えるその作業。根気のいる姿勢と、正面から見た顔に、なぜかわたしは言い知れぬ感銘を受けた。
いつだか、どこかで、曽野綾子さんが人間の顔は自然と生き物を相手にして生きてきた農婦の顔が一番美しいと言ったことがある。わたしはものごとがすーっと見えた気がした。知識量や社会的地位や名誉ではなくである。そのことをわたしは思い出していた。
品があるのだ。いやしさのかけらは一片もない。欲得のみで生きていない。充実した仕事、生活に生きる達人の人生を垣間見た感がする。大多数の人々が自分の不都合を、巧みに組織や他人のせいにすることが賢いとされている世の中である。ギブアンドテイクと口では言いながら、他人に求めてばかりいて与えることは露も感じていない。
この方は頭でっかちでも、衒いがある訳でもない。自足した心境に達するのにかなりの山や谷があったに違いない。問題があれば逃げたりせずに自分で解決するのが当たり前の生き方を続けて来たに違いない。
わたしの日常の身近なところで、こういう方がいらっしゃったなら少しはまともになれるかもしれない。