株式市場の年初めの行事を大発会(だいはっかい)という。
大納会(だいのうかい)と大発会の相場動向を関係者は注目する。
私は、会員制レポートである『金利・為替・株価特報』
http://www.uekusa-tri.co.jp/report/index.html
で、
「掉尾(とうび)の一振」
という表現を用いてきた。
マネー用語の意味・定義・解説・説明を提供している
「iFinance」
http://www.ifinance.ne.jp/glossary/souba/sou201.html
のサイトでは、「掉尾の一振」について、次の説明文を掲載している。
「掉尾の一振は、年内最後の取引日である大納会に向けて株価が上昇する、年
末に起きる株高のことをいう。
ちなみに、国語辞書によると、掉尾とは「物事が最後になって勢いの盛んにな
ること」、また一振とは「きっぱりととり払うこと」を意味することから、物
事の最終局面で勢いを増すといったニュアンスとなる。
一般に年末に株価が高くなる現象である「掉尾の一振」は、マーケット(相
場)のアノマリーの一つとして広く知られている。
その考えられる要因としては、新年相場への期待感、年末の節税対策(含み損
の解消)の売りが一巡して売り圧力が減少、あるいはファンド等による期末の
ドレッシング買いなどが挙げられる。
また。このアノマリー自体が投資家心理を強気にする側面もあると思われ
る。」
12月の米国FOMC(連邦公開市場委員会)で、金融緩和縮小が決定された
が、その規模が最小に留まったことから、米国経済楽観論が強まり、米国株
高、ドル高が進行し、連動するかたちで日本の株価も上昇した。
昨年いっぱいは、この流れが持続すると想定したわけだ。
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2014年の幕開けとなった1月6日の東京市場では、日経平均株価が昨年末
比で382円下落して1万6000円を割り込んだ。
本ブログでは、元日のブログ記事タイトルを
「1990年の年初も世は強気に満ち溢れていた」
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2014/01/1990-ed57.html
としたが、1989年は年末に向けて株価が掉尾の一振で史上最高値を記録
し、日本はバブルの絶頂に上り詰めた。
しかし、年明け後、事態は急変していった。
1990年2月18日に総選挙があり、市場では、この選挙で自民党が勝利す
れば株価は反発して高値を更新するとの主張が主流を占めていたが、私はまっ
たく異なる見解を有していた。
手前味噌になって恐縮だが、私は1989年年末に当時勤務していた証券会社
の調査担当役員の部屋を訪問し、年明け後の日本株価が急落するとの見解を伝
えた。
その役員は「おれは強気だ」と述べて、私の説明は一蹴されてしまったのだ
が、年明け後の現実は私の主張を裏付けるものだった。
私は2月19日に発売された『週刊金融財政事情』という金融専門誌に、
「金融機関の資金運用戦略は構造的変革を迫られている」
とのタイトルの論文を寄稿した。
私はすでに、1989年の春に、
「認識されていない重大な危機」
のタイトルで、上記証券会社の債券部門会議で見解を示していた。
バブル経済の本質は「円高=金利低下=株高」であり、この金融経済変動は、
一種の循環変動であり、やがて、「円安=金利上昇=株安」に転じることにな
る。バブルの熱狂に包まれているいまこそ、次の流れの転換を予見してリスク
に備える必要があることを訴えた。
1990年の年が明けて、私は想定した転換点が到来したと判断した。
その見解を上記論文に提示したのである。
円高=金利低下=株高の変動が終焉したことを明示したのである。
実際に日本の株式市場が暴落したのは2月19日からであった。
総選挙で自民党が大勝したにもかかわらず、株価は暴落していったのである。
日経新聞が1月5日朝刊の1面トップに、
「増税「影響限定的」52%」
の見出しを躍らせた。
日経新聞が実施した全国小売業調査結果を伝える記事で、サブの見出しには、
「景気回復、消費下支え」
が掲げられた。
1997年の前回の消費税増税時とまったく同じパターンである。
主要メディアは、消費税増税の影響は軽微であるとの「キャンペーン」を展開
した。
私は懸命にそのキャンペーンを否定したが、多勢に無勢だった。
実際には、消費税増税を契機に、日本は奈落の底に落ちた。
2014年にどのような展開が観察されるのかを速断することはできない。し
かし、手放しの楽観が許されないことだけは確かだろう。
現実の見通しは『金利・為替・株価特報』に記述するが、情報空間を占拠する
情報の大部分は汚染された情報である。
市民は汚染情報に十分に警戒しないと思わぬ火傷を負うことになる。
過去20年間の日本経済の推移を詳細に調べると、経済政策が日本経済に与え
た影響が絶大であることが分かる。
日本経済が順風満帆に航海できるか、それとも荒波にもまれて座礁してしまう
か。
そのカギを握っているのが、日本経済丸の操縦桿を握る経済政策責任者なので
ある。
「失われた10年」は「失われた20年」になり、このまま進めば「失われた
30年」にもなりかねない。
その最大の責任を負うのは、経済政策責任者である。
端的に言えば、最大の責任を負うのは財務省である。
財務省の能力不足が日本経済の混迷長期化の主因であると言って間違いない。
財務省は責任回避に躍起になる。
過去の失敗を絶対に認めない。
そして、日本銀行をスケープゴートにしてきた。
しかし、真実は異なる。
失敗の本質は財務省にある。
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財務省は景気対策は短期的には効果があるが、中長期には効果がなく、財政赤
字を拡大させ、政府債務残高を増加させるだけの効果しかないから、積極的な
財政政策運営は百害あって一利なしだと主張してきた。
ところが、2009年にサブプライム危機に見舞われた米国が超大型の財政政
策を発動すると、一転して、財政政策活用も有効であると主張を変えた。
基礎が出来ていないのだ。
バブル崩壊後の日本経済24年間を詳細に検証すると、財政政策が中長期では
有効でないとの主張が誤りであることが明瞭になる。
問題は、経済が浮上しかかると、財務省が、その経済の腰を折ってしまうよう
な、無茶な緊縮財政を実行してきた点にある。
病に倒れた人を元気にするための手順を理解していないのである。
危篤に陥った患者に、救命治療を行い、さらに栄養剤を投与して患者の回復を
図る。
根本的な治療には手術が必要であっても、急いては事を仕損じる。
まずは患者の体力の回復を優先し、構造的な治療は、体力を損なわぬよう、慎
重に対応するべきなのだ。
1992年から2000年の8年間に、米国では30兆円規模の財政赤字が2
5兆円規模の財政黒字にまで転換した。
見事な財政再建を実現したのである。
何がカギを握ったのか。
答えは単純明快である。
米国の政策当局が、米国経済の回復と回復持続を最優先したのである。
とにかく、経済を浮上させて、その経済の腰を折らないこと。
これを徹底して対応した。
財政赤字を削減するための、いわゆる構造改革を本格的に実行したのは、米国
経済が完全に軌道に乗ってからであった。
経済の回復・浮上を優先し、構造改革は、その基調を損なわない範囲内で実行
する。
この基本方針が完全に守り抜かれたからこそ、米国経済の完全浮上が実現した
のである。
私は日本経済の運営について、1990年から20年以上、この基本を唱え続
けてきた。
そのなかでも、とりわけ声を大にして主張したのが、97年の橋本政権大増税
政策と2001年の小泉政権の「構造改革」政策に対してであった。
緊縮の程度が大きすぎれば、経済の耐性を超えてしまう。
経済を負の循環に陥らせてしまうと、再浮上させるためのエネルギーが膨大に
なる。
構造対策は必要であるが、その実施に際しては、細心の注意が求められるので
ある。
97年の政策も、01年の政策も、この点において、根本的に間違っていた。
だからこそ、日本経済に巨大な損失を与えてしまったのである。
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2014年の政策運営に、まったく同種のリスクが内包されている。
2014年度予算計数を精査すると、財政支出がかなり拡張的に設計されてお
り、安倍政権が私の警告を受け止めたことがよく分かる。
しかし、緊縮策の圧縮は依然として不十分である。
財務省は予算計数のなかの税収見積もりを過小に計上しているが、実際に実行
される増税措置ははるかに大きく、その影響を勘案すると、依然として201
4年度の警戒感を緩めるわけにはいかない。
もうひとつ、私が主張してきたことは、財務省が財政危機を唱え、国民に巨大
な負担を強いる大増税を推進するなら、どうして、財務省自身が、自らの利権
に切り込む姿勢を示さないのかということだ。
財務省の天下りを断ち切ることをまずは明示する。
それが、正当な手順である。
このことを大声で叫んだ野田佳彦氏が、天下りと渡りを温存するシロアリ増税
に突き進んだことは、まさに、万死に値する行為であったとしか言いようがな
い。
国民は本当に必要なら負担を受け入れる。
しかし、その前提は、あくまでも、官僚利権の切り込みを実行してということ
だ。
国民主権など、単なる絵空事に過ぎない。
安倍晋三氏の姿勢を見ると、こう考えているのだと思わざるを得ない。
米国にひれ伏し、官僚をのさばらせ、大資本のための弱肉強食化を進める。
経済が崩壊して、庶民が苦しみに包まれても、何の痛痒も感じない。
そのような政治が繰り広げられていることが最大の問題である。
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※有料メルマガ版植草一秀の『知られざる真実』 2014年1月7日より「転載」
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