リニア新幹線に反対しているのは静岡だけじゃない
リニア新幹線というと、国家の威信を掛けた事業に、静岡県が人も住まない山中を通過するだけで嫌がらせ反対しているという偏向報道がみられるが、現時点で反対しているのは、決して静岡県だけの問題ではないということを知ってもらいたい情報として書き留めたい。
リニアは品川駅の地下駅発で、山梨県を通り、岐阜をかすめ名古屋へ到達するルートだが、品川駅から神奈川の橋下までは、地下40m以上の大深度地下をトンネルでくり抜いて工事が進められるのだが、東京大田区の田園調布などの住民が、地下工事で地上陥没などの災害が生ずる危険があると提訴している。
この地上陥没は、リニアだけでなく、横浜とか相模原などで、東京外かく環状道路の掘削工事で、道路が陥没したり住宅が傾いたりという現象が続発しており、リニアの問題もあながち的外れな不安としての提訴ではないと思える。
それと、本題と離れるが、リニアは、いわゆる路線側に電気磁石を並べた同期モーターなのだが、その運行については、各運行車両の前後のある程度の範囲(セクション)の電磁石に電気を流し、そのセクションを列車の運行に同期して移動させることで、列車を運行させるシステムだ。ここで問題になるのは、この1セクションに収まる電磁石の総数は、1つの通常の回転式同期モーターと比べると、極めて多い電磁石数となることがあるのだ。しかも、従来新幹線の最高速度300km/h余を、最高速度500km/h余まで約1.6倍速度アップすることになると、必要となる電力は速度の3乗倍(6.5倍)となるという、極めて大電力を必用とする鉄道システムなのだ。
これはウワサの話しだが、静岡県の御前崎近くには、立ち並ぶ断層地帯の上に日本で一番危険な立地にある中部電力浜岡原子力発電所というのがあり、311以来、いわゆる冷温停止状態(アイドリング状態)で廃炉もせず保持されている。リニアが完成したら、必要となる大電力をこの浜岡原発で担おうという野望で温存されているということがある。
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スクープ 田園調布住民「リニア差し止めて」JR東海を提訴へ=樫田秀樹〈サンデー毎日〉
2021年7月5日 サンデー毎日7月18日号
昨年10月の東京・調布の道路陥没に驚いた人は多いだろう。原因は大深度地下でのトンネル工事とされる。そして、リニア中央新幹線で同様の工事が、高級住宅街の東京・田園調布の地下でも行われるというのだ。「二の舞い」を恐れる住民たちは司法に打って出る。
東京都大田区と世田谷区の住民24人がJR東海を相手取り、リニア中央新幹線の工事差し止めを求める民事訴訟を7月19日に起こす準備を進めている。全員が建設予定のリニアのトンネルの直上か、その至近距離に居を構えている。17人は高級住宅街として知られる大田区田園調布の住民だ。
筆者は5月上旬、リニア訴訟の原告数人、そして担当する樋渡俊一と梶山正三の両弁護士で、田園調布や隣接する世田谷区東玉川地区のリニアルートを歩いた。原告の多くは「終(つい)の住処(すみか)で振動や騒音が起きるなんて。陥没すれば死傷者も出る。それを思うと、安心して暮らせない」と調布の二の舞いを恐れていた。
JR東海は今年度、東京・品川駅の南1㌔にある「北品川非常口」という立坑(深さ約90㍍)から直径14㍍のシールドマシン(掘削機)でトンネルを掘り始めるという。1日約20㍍を掘り進む予定で、約7㌔離れた田園調布には約2年後の到達になる。それを未然に食い止めるための訴訟だ。
とはいえ、原告は陥没事故があったから裁判を考えたのではない。3年前から活動を展開していた。
2018年7月。原告団代表となる田園調布に住む三木一彦さんが、近所の知人から「知ってるかい」と教えられたのが、自宅のほぼ真下を通るリニアトンネルの計画だった。「この住宅密集地に?」と驚いた三木さんはすぐに計画を調べた。
JR東海が27年度に品川―名古屋間の開通を目指すリニア計画は、14年10月に国土交通省が事業認可した。全ルート286㌔のうち約50㌔は、大深度と呼ばれる都市部の地下40㍍以上の深さを通る地下区間だ。大深度地下の使用にも国交省の認可が必要となる。
01年に施行された大深度法は首都圏、中部圏、近畿圏の都市部の大深度での開発行為には、地上の地権者との交渉も補償も不要とした。事業者には都合のいい法律だ。この法律で使用認可された事業は、三木さんがリニア計画に気付いた時点では2件しかない。
一つが07年に認可された神戸市の送水管敷設工事。その次が東京外郭環状道路(外環道)だ(14年)。これにより、外環道は住宅密集地の真下に巨大トンネルを長区間(16㌔)にわたり建設するという前例なき工事が始まったのだ。
三木さんは18年8月に市民団体「住環境とリニアを考える田園調布住民の会」(翌年に「リニアから住環境を守る田園調布住民の会」に改称)を発足させた。一方、国は同年10月、リニアでの大深度使用を認可した。だが、三木さんはこの時点で「この工事は危険だ」と確信したという。
まず、大田区と世田谷区では、JR東海による地盤を確認するためのボーリング調査はほぼ400㍍間隔でしかない。ルート直上に限れば1㌔に1本でしかない。大深度工事の指針である国交省の「大深度地下使用技術指針・同解説」に記載された目安には「100~200㍍間隔でのボーリング調査」とあり、全く足りていない。ちなみに、調布の陥没事故も現場の前後1㌔でしかボーリング調査をしていなかった。
つまり事前調査が杜撰(ずさん)なのでは。そもそもシールドマシン工法の事故例はいくつもある。この恐れから、三木さんらは大田区を中心に大深度使用認可の取り消しを求めた730人分の審査請求書を集め、19年1月に国交省に提出した。
調布との「差」強調するJR東海
国交省から回答である「弁明書」が届いたのは20年6月だった。三木さんは「住民が抱くのは抽象的な危機感に過ぎない」という弁明書の文言に驚いた。
この時点で住民の会は「らちが明かない」と裁判を決めていた。しかし、三木さんは同年9月に国交省に「反論書」を提出し、「陥没や地盤沈下が住宅街で起きることになり、住民は生命、身体の危機に直面することになる」と指摘した。
そして、調布の事故が起きたのだ。翌10月に東京都調布市東つつじケ丘で道路が陥没した。現場の地下47㍍ではNEXCO東日本が外環道の建設のため、直径16㍍のシールドマシンを稼働させていた。
調布の住民は前月から、地下からの振動や騒音に苦しみ、陥没後もトンネル直上の地中に最大30㍍の空洞が三つ見つかり、工事は現在、中断されている。住民はいつ自宅が陥没するかを恐れ、不動産価値の下落で引っ越したくても、引っ越せない現実に直面している。
翌11月、住民の会は国交省に「同じシールド工法のリニア計画の中止を」と訴えると、国交省は「JR東海はNEXCOの最終報告を待って工事方針を決める」と回答した。もしシールド工法が陥没の原因ならば、リニアの工事開始は難しくなる。だが、NEXCOは今年2月、事故原因は「極めて特殊な地盤で『何となく掘ってしまった』施工ミス」と結論付けた。
そして、6月8日、品川区で開催された住民説明会で、JR東海は「弊社の工区に外環のような特殊な地盤はない。だから追加ボーリング調査は不要。工事は24時間体制でやる」と明言した。会場からは「納得できない」「昼も夜も振動が続くのか」との意見や質問が多数を占めた。
説明会後のマスコミへのブリーフィングで、JR東海側は「住民の理解を得た」と発言。三木さんは「理解もしていない私たちから『理解を得た』以上、JR東海は工事をする。私たちの平穏に生きる権利と財産権が侵害されるのを座して待つことはできない」と訴訟への意志を強くした。
リニア計画の大深度区間は約50㌔で外環道の3倍強ある。これだけ長い区間の工事で、果たして振動も陥没もゼロで済むのか。それを食い止める裁判となるのか。行方を注視したい。
かしだ・ひでき
ジャーナリスト。959年、北海道生まれ。89年より国内外の環境問題や社会問題を取材。2015年、『〝悪夢の超特急〟 リニア中央新幹線』(旬報社)で日本ジャーナリスト会議賞を受賞。近著に『リニア新幹線が不可能な7つの理由』(岩波書店)など
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リニア新幹線というと、国家の威信を掛けた事業に、静岡県が人も住まない山中を通過するだけで嫌がらせ反対しているという偏向報道がみられるが、現時点で反対しているのは、決して静岡県だけの問題ではないということを知ってもらいたい情報として書き留めたい。
リニアは品川駅の地下駅発で、山梨県を通り、岐阜をかすめ名古屋へ到達するルートだが、品川駅から神奈川の橋下までは、地下40m以上の大深度地下をトンネルでくり抜いて工事が進められるのだが、東京大田区の田園調布などの住民が、地下工事で地上陥没などの災害が生ずる危険があると提訴している。
この地上陥没は、リニアだけでなく、横浜とか相模原などで、東京外かく環状道路の掘削工事で、道路が陥没したり住宅が傾いたりという現象が続発しており、リニアの問題もあながち的外れな不安としての提訴ではないと思える。
それと、本題と離れるが、リニアは、いわゆる路線側に電気磁石を並べた同期モーターなのだが、その運行については、各運行車両の前後のある程度の範囲(セクション)の電磁石に電気を流し、そのセクションを列車の運行に同期して移動させることで、列車を運行させるシステムだ。ここで問題になるのは、この1セクションに収まる電磁石の総数は、1つの通常の回転式同期モーターと比べると、極めて多い電磁石数となることがあるのだ。しかも、従来新幹線の最高速度300km/h余を、最高速度500km/h余まで約1.6倍速度アップすることになると、必要となる電力は速度の3乗倍(6.5倍)となるという、極めて大電力を必用とする鉄道システムなのだ。
これはウワサの話しだが、静岡県の御前崎近くには、立ち並ぶ断層地帯の上に日本で一番危険な立地にある中部電力浜岡原子力発電所というのがあり、311以来、いわゆる冷温停止状態(アイドリング状態)で廃炉もせず保持されている。リニアが完成したら、必要となる大電力をこの浜岡原発で担おうという野望で温存されているということがある。
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スクープ 田園調布住民「リニア差し止めて」JR東海を提訴へ=樫田秀樹〈サンデー毎日〉
2021年7月5日 サンデー毎日7月18日号
昨年10月の東京・調布の道路陥没に驚いた人は多いだろう。原因は大深度地下でのトンネル工事とされる。そして、リニア中央新幹線で同様の工事が、高級住宅街の東京・田園調布の地下でも行われるというのだ。「二の舞い」を恐れる住民たちは司法に打って出る。
東京都大田区と世田谷区の住民24人がJR東海を相手取り、リニア中央新幹線の工事差し止めを求める民事訴訟を7月19日に起こす準備を進めている。全員が建設予定のリニアのトンネルの直上か、その至近距離に居を構えている。17人は高級住宅街として知られる大田区田園調布の住民だ。
筆者は5月上旬、リニア訴訟の原告数人、そして担当する樋渡俊一と梶山正三の両弁護士で、田園調布や隣接する世田谷区東玉川地区のリニアルートを歩いた。原告の多くは「終(つい)の住処(すみか)で振動や騒音が起きるなんて。陥没すれば死傷者も出る。それを思うと、安心して暮らせない」と調布の二の舞いを恐れていた。
JR東海は今年度、東京・品川駅の南1㌔にある「北品川非常口」という立坑(深さ約90㍍)から直径14㍍のシールドマシン(掘削機)でトンネルを掘り始めるという。1日約20㍍を掘り進む予定で、約7㌔離れた田園調布には約2年後の到達になる。それを未然に食い止めるための訴訟だ。
とはいえ、原告は陥没事故があったから裁判を考えたのではない。3年前から活動を展開していた。
2018年7月。原告団代表となる田園調布に住む三木一彦さんが、近所の知人から「知ってるかい」と教えられたのが、自宅のほぼ真下を通るリニアトンネルの計画だった。「この住宅密集地に?」と驚いた三木さんはすぐに計画を調べた。
JR東海が27年度に品川―名古屋間の開通を目指すリニア計画は、14年10月に国土交通省が事業認可した。全ルート286㌔のうち約50㌔は、大深度と呼ばれる都市部の地下40㍍以上の深さを通る地下区間だ。大深度地下の使用にも国交省の認可が必要となる。
01年に施行された大深度法は首都圏、中部圏、近畿圏の都市部の大深度での開発行為には、地上の地権者との交渉も補償も不要とした。事業者には都合のいい法律だ。この法律で使用認可された事業は、三木さんがリニア計画に気付いた時点では2件しかない。
一つが07年に認可された神戸市の送水管敷設工事。その次が東京外郭環状道路(外環道)だ(14年)。これにより、外環道は住宅密集地の真下に巨大トンネルを長区間(16㌔)にわたり建設するという前例なき工事が始まったのだ。
三木さんは18年8月に市民団体「住環境とリニアを考える田園調布住民の会」(翌年に「リニアから住環境を守る田園調布住民の会」に改称)を発足させた。一方、国は同年10月、リニアでの大深度使用を認可した。だが、三木さんはこの時点で「この工事は危険だ」と確信したという。
まず、大田区と世田谷区では、JR東海による地盤を確認するためのボーリング調査はほぼ400㍍間隔でしかない。ルート直上に限れば1㌔に1本でしかない。大深度工事の指針である国交省の「大深度地下使用技術指針・同解説」に記載された目安には「100~200㍍間隔でのボーリング調査」とあり、全く足りていない。ちなみに、調布の陥没事故も現場の前後1㌔でしかボーリング調査をしていなかった。
つまり事前調査が杜撰(ずさん)なのでは。そもそもシールドマシン工法の事故例はいくつもある。この恐れから、三木さんらは大田区を中心に大深度使用認可の取り消しを求めた730人分の審査請求書を集め、19年1月に国交省に提出した。
調布との「差」強調するJR東海
国交省から回答である「弁明書」が届いたのは20年6月だった。三木さんは「住民が抱くのは抽象的な危機感に過ぎない」という弁明書の文言に驚いた。
この時点で住民の会は「らちが明かない」と裁判を決めていた。しかし、三木さんは同年9月に国交省に「反論書」を提出し、「陥没や地盤沈下が住宅街で起きることになり、住民は生命、身体の危機に直面することになる」と指摘した。
そして、調布の事故が起きたのだ。翌10月に東京都調布市東つつじケ丘で道路が陥没した。現場の地下47㍍ではNEXCO東日本が外環道の建設のため、直径16㍍のシールドマシンを稼働させていた。
調布の住民は前月から、地下からの振動や騒音に苦しみ、陥没後もトンネル直上の地中に最大30㍍の空洞が三つ見つかり、工事は現在、中断されている。住民はいつ自宅が陥没するかを恐れ、不動産価値の下落で引っ越したくても、引っ越せない現実に直面している。
翌11月、住民の会は国交省に「同じシールド工法のリニア計画の中止を」と訴えると、国交省は「JR東海はNEXCOの最終報告を待って工事方針を決める」と回答した。もしシールド工法が陥没の原因ならば、リニアの工事開始は難しくなる。だが、NEXCOは今年2月、事故原因は「極めて特殊な地盤で『何となく掘ってしまった』施工ミス」と結論付けた。
そして、6月8日、品川区で開催された住民説明会で、JR東海は「弊社の工区に外環のような特殊な地盤はない。だから追加ボーリング調査は不要。工事は24時間体制でやる」と明言した。会場からは「納得できない」「昼も夜も振動が続くのか」との意見や質問が多数を占めた。
説明会後のマスコミへのブリーフィングで、JR東海側は「住民の理解を得た」と発言。三木さんは「理解もしていない私たちから『理解を得た』以上、JR東海は工事をする。私たちの平穏に生きる権利と財産権が侵害されるのを座して待つことはできない」と訴訟への意志を強くした。
リニア計画の大深度区間は約50㌔で外環道の3倍強ある。これだけ長い区間の工事で、果たして振動も陥没もゼロで済むのか。それを食い止める裁判となるのか。行方を注視したい。
かしだ・ひでき
ジャーナリスト。959年、北海道生まれ。89年より国内外の環境問題や社会問題を取材。2015年、『〝悪夢の超特急〟 リニア中央新幹線』(旬報社)で日本ジャーナリスト会議賞を受賞。近著に『リニア新幹線が不可能な7つの理由』(岩波書店)など
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工事の目的が「自己目的化」、すなわち完成することよりも工事を実行することにすり替えられているような、そんな気がしてなりません。
だいたい、東名高速は償還が終われば、米国と同様に無料のフリーウェイになるはずだったのが、いつの間にか全国高速道路網計画にすり替えられ、旧道路公団(現ネクサコ各社)は、新規道路の建設一途の企業になっている訳です。つまり、建設工事が事実上の目的化になっているんです。